「受刑者が投票できないのは憲法違反」と断じた地裁判決…依拠した「最高裁の判例」が強調する“選挙権という人権の重み”とは
懲役刑に服した後、仮釈放された原告が、受刑者の選挙権を認めない公職選挙法の規定は違憲であるとして選挙人名簿への登録を求めていた訴訟の判決で、高松地裁(田中一隆裁判長)は3月31日、原告の主張を認め、公選法の規定を違憲無効とする判決を行った。
本判決は、2005年(平成17年)の「在外日本人選挙権訴訟」最高裁判決が示した判断枠組みに則っていることを明言している。

受刑者の選挙権制限は、従来、事実上、罪を犯したことに対する社会的制裁として機能してきた。それは、私たち一般人の間で根強い「犯罪者が選挙権を行使するなどおこがましい、けしからん」といった、一種の抽象的かつ漠然とした「社会常識」に支えられてきたことは否定できない。
しかし、本判決は、「重要判例」の一つに数えられる最高裁判例に従い、そのような事実上の社会的制裁を正当化することは、少なくとも法的観点、とりわけ「法の支配」を前提とし、国民主権、基本的人権の保障を根本原理とする近代憲法の下では、認め難いとの判断を明確に示したものといえる。
判決後の記者会見で、原告の八木橋健太郎さんは、「最高裁判例の趣旨に照らせば合憲判決が立つとは思えなかったので、まっとうな判決であったと思う。『僕たちは別に社会から阻害されてるわけじゃないんだ』と感じられるような結果になってもらいたい」と述べた。

「平成17年判例の判断枠組み」を用いることを宣明

原告の八木橋さんは、詐欺罪で懲役7年の実刑判決を受けて服役し、2025年7月30日に仮釈放された後、高松市に転入したが、同年12月の「定時登録」の際に選挙人名簿に登録されなかった。
この措置は、公職選挙法11条1項3号の規定に基づくものだった。同条項は、「拘禁刑以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)」の選挙権を一律に否定している。
八木橋さんは、それを不服として選挙管理委員会に異議を申し出たが、棄却決定を受けた。そこで、その棄却決定を取り消し選挙人名簿への登録を求める「名簿訴訟」を提起した。
なお、八木橋さんの刑期は今年3月8日に満了している。
本判決は、「受刑者の選挙権を一律に制限する公選法11条1項2号の合憲性は、最高裁が『在外日本人選挙権訴訟判決』(平成17年(2005年)9月14日、以下「平成17年判例」)で示した判断枠組みに従って判断するべき」と宣明した。
平成17年判例は、国民の選挙権またはその行使を制限することは原則として憲法15条1項・3項(参政権・選挙権)、43条1項(全国民の代表)、44条但書(選挙人資格の平等)に違反し認められず、例外として認められるのは以下のいずれかにあてはまる場合のみだと判示した。

1.自ら「選挙の公正を害する行為」をした場合
2.「選挙権またはその行使を制限をすることがやむを得ないと認められる事由」があり、かつ、「制限をしなければ選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難」である場合
本判決は、この平成17年判例の基準を用いることを宣明したうえで、受刑者の選挙権を一律に制限する公選法11条1項2号が憲法違反であると断じた。そして、同条項に基づく選挙管理委員会の棄却決定を取り消した。

「民主主義は投票の中身を問わない」判決が示した“本質”

本判決はまず、上記1. について、受刑者の多くは選挙とは無関係な犯罪を犯しており、一律に「自ら選挙の公正を害する行為をした者等」に含めることは相当ではないとした。
次に、上記2.のうち、「選挙権またはその行使を制限をすることがやむを得ないと認められる事由」については、受刑者に対する選挙権制限が将来の犯罪抑止に寄与するものとはいえず、選挙の公正の保持に資するものと評価することはできないとした。理由は以下の通りである。
  • 受刑者の大多数は、選挙と関連する犯罪に及んで刑に処せられた者ではなく、選挙権を制限しても感銘力は生じず、反省を促すことにもならない可能性が高い
  • 受刑者が、再び受刑者になれば選挙権を制限されることを理由に犯罪を思い留まることも考え難い
  • 受刑者の選挙権の制限が再犯の防止に寄与するとの根拠は乏しい
  • 選挙権の制限によって刑罰法規違反に係る一般国民の規範意識が覚醒ないし強化される具体的な根拠がない
また、「制限をしなければ選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難」な事情も、以下の理由から認められないとした。
  • 刑事施設では法律に基づき、新聞紙の備付け、報道番組の放送等によって主要な時事の報道に接する機会が与えられており、各政党ないし候補者の政策に関する情報を摂取することが可能
  • インターネットの利用ができない等、得られる情報量に限りがあるが、その事情は未決拘禁者と変わらず、摂取できる情報量が多くないことによる弊害は限定的である
そして、結論として、選挙犯罪以外の犯罪での受刑者の選挙権を一律制限することは違憲であるとした。
原告代理人の吉田京子弁護士は、本判決の意義について、判決文を引用しながら、次のように説明した。
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吉田京子弁護士(3月31日 都内/弁護士JPニュース編集部)

吉田弁護士:「本判決は、『仮に、受刑者の投票傾向が一般国民と相違していたとしても、憲法は、自由意思の下に選挙権を行使する権利を保障しているのであるから、そのような投票内容も、民主主義の下では禁止されるものではない』としている。
これは、もともと民主主義は投票の中身を問わないはずであり、たとえ受刑者の投票行動が他と傾向が違っていても、とがめられるべきことではないという意味だ。ここに本判決の本質があらわれている」

本判決が平成17年判例の基準を用いた決定的な理由

本判決が平成17年判例の基準を用いた決定的な理由としては、文言解釈という形式論と、選挙権の人権としての重要性という実質論とを、いずれも重視したからである可能性が指摘される。
平成17年判例は、「選挙権」について「国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきもの」としている。
この文言を前提とする限り、「選挙権」には何らの限定が付されておらず、被告国側の主張のような「選挙人資格」と「選挙権の行使」とを区別していると読解するのは困難といわざるを得ない。
また、実質上も、選挙権は「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹をなす」とし、きわめて重要な基本的人権であると位置づけている。
したがって、それを制約するには、よほどのやむにやまれぬ対立利益がなければ認められないということを意味する。
原告代理人の加藤雄太郎弁護士は、本判決が平成17年判例の枠組みを用いた点について、以下の通り説明した。
「受刑者が投票できないのは憲法違反」と断じた地裁判決…依拠した「最高裁の判例」が強調する“選挙権という人権の重み”とは

加藤雄太郎弁護士(3月31日 都内/弁護士JPニュース編集部)

加藤弁護士:「『受刑者には選挙権はいらない』という偏見に基づいて選挙権が制限されてきたとしたら、その偏見は論理的、合理的ではなく、撤廃されるべき制限であるというメッセージを発してくれた判決だ。
市民全体にとっても、市民1人1人にとっても、選挙権は重要なものであり、合理的、論理的な理由がなければ決して制限されてはならないものであるというメッセージを発しているといえる」

刑務所内での虐待事件が放置されてきた背景

昨今、刑務所の中で、受刑者に対する虐待事件が起きていることが報じられるようになっている。
吉田弁護士は、受刑者に対する虐待等がこれまで長年にわたり放置されてきた背景に、受刑者に対する偏見に加え、受刑者に選挙権がなかったことも影響しているとの見解を示した。
吉田弁護士:「要因の一つに、受刑者は選挙権がなく、私たちのような市民と違う『二級市民』だ、といった偏見があったことが挙げられるのではないか。
受刑者は私たちと同じ市民、主権者であり、選挙で1票を投じるべきだという判決が出たことによって、今までの偏見が改められ、それをフックにして、あらゆる受刑者に対する権利侵害が是正される可能性を秘めた判決だと思っている」

退けられた被告国側の「合憲」主張の“内実”は?

ちなみに、被告国側の主張はどのようなものだったか。
被告国側は、本訴訟の審理のなかで、選挙権が「公務執行」としての意義をもつことを強調し、選挙人の資格について「国会の立法裁量」に委ねられるとしていた。
そして、本件については平成17年判例の射程が及ばないと説明した。その理由は、平成17年判例の事例では原告に「選挙人資格」があることを前提としてその「選挙権の行使」の制限が問題とされたのに対し、本件は受刑者の「選挙人資格」の問題であり、前提が異なるというものだった。
そのうえで、「立法目的が合理的で、その達成手段が必要かつ合理的なものであれば足りる」との判断基準(合理的関連性の基準)を示し、以下のように、公選法11条1項3号を合憲とする主張を行った。
  • 法秩序を著しく侵害した受刑者(仮釈放中を含む)が選挙権を持つことは、民主主義の正統性や選挙の公正を損なう(ので、立法目的は合理的である)
  • 個別的な審査が不可能であるため、一律制限という手段は目的達成のため必要かつ合理的である
このうち前者の理由として、以下を挙げている。
  • 受刑者は法秩序を著しく害した者であり、公正な選挙権の行使を期待できない
  • 国会で制定された法律等を尊重し遵守すべきことは、自己統治のプロセスの必然的な要請であるから、法律に違反した受刑者については、前記プロセスの正統性、公正性を確保する観点から、その選挙権の制限が許容される
なお、言うまでもないが、仮に「合理的関連性の基準」を用いたとしても、少なくとも、たとえば「犯罪者の分際で選挙権行使などおこがましい」「けしからん」といった類いの抽象的かつ粗雑な感情論では、到底、法的な人権制約の根拠とはなり得ない。
だからこそ、被告国側は、上記のように一応、客観的な合理性を意識した理由付けを試みていたといえる。

しかし、本判決は被告国側の主張をいずれも退けた。

想定される最高裁判決への影響は?

八木橋さんは本訴訟とは別に、2021年10月の衆院選と最高裁判所裁判官国民審査、2022年7月の参院選で投票できなかったことについて、国家賠償請求訴訟を提起している。こちらの訴訟では一審、控訴審ともに原告が敗訴し、上告審に係属中である。
そして、審理が最高裁の大法廷に回付され、今年中にも憲法判断が行われることが想定されている。
加藤弁護士は、「訴訟形態、対象となる事件自体は異なるので、本判決により直接に法的な影響があるわけではない」としながら、次のように述べた。
加藤弁護士:「現役で働いている裁判官が、最高裁判決に忠実に、非常にクリアで論理的に違憲判断を行った。このことは、最高裁も無視はしないだろうと考えられる」
また、吉田弁護士も、「本判決をきっかけに社会的関心が高まり、議論が行われるようになり、そのこと自体によって、最高裁としても、まっとうな憲法判断を示すべきとの動機づけになるはず」との期待を述べた。
平成17年判例の基準は、その判決文中で最高裁自身が過去の最高裁判例の延長線上にあると位置付けたものであり、実務上固まったものといってよい。その規範に照らし、「受刑者の選挙権制限」が憲法に適合するか否かという問題について、最高裁がどのようなロジックを用いて、合憲・違憲のいずれとする判決を行うことになるのか、注目される。


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