泊まり込み勤務の末に亡くなった「家事労働者」の女性に労災が支給されなかった問題で、東京高裁が国の決定(労災不支給)を取り消す判決を言い渡してから、1年半。
遺族らが8日に都内で会見を開き、女性の使用者である株式会社山本サービス(現在は吸収合併され、株式会社ファインケア)との間で和解が成立したことを明らかにした。

ファインケア社は女性の山本サービス社での業務と死亡の因果関係を認め、遺族に賠償金の支払いと謝罪を行うとともに、企業の公式サイト上に謝罪文を1年間にわたって掲載する。
遺族の代理人である指宿昭一弁護士は、「ファインケア社は、労災当時の使用者ではないが、吸収合併した山本サービス社の法的・社会的な責任も引き継いだ。今回の示談は、責任を自覚した真摯な対応だ」と評価した。

1週間105時間の連続勤務の末に心筋梗塞…

介護福祉士でもあった女性(Aさん)は、訪問介護・家政婦紹介会社である山本サービス社の仲介で、認知症で寝たきりの高齢者(要介護5)がいる個人宅において、掃除や洗濯、食事の用意といった「家事」と、おむつ交換などの「介護」を行っていた。
2015年春、週105時間にわたる泊まり込み勤務の後に急性心筋梗塞で亡くなった。遺族は、業務による過労状態が急性心筋梗塞を引き起こしたとして労災を申請したが、不支給となった。
遺族らは、労災不支給決定の取り消しを求め、2020年3月、東京地裁に提訴。裁判では、Aさんが労働基準法の適用外とされる「家事使用人」に当たるかどうかが争点となった。
Aさんは一人の利用者について「家事」「介護」のサービスを分け隔てなく提供していたが、契約内容は違った。
山本サービス社は、業務のうち「介護」にあたる部分のみAさんと雇用契約を結び、「家事」部分については利用者とAさんとの間に直接契約を結ばせていた。
労基署は「家事」部分の業務について、山本サービス社の指揮命令下にない「家事使用人」に当たると判断し、「家事」の時間を労働時間に計上せず、労災を不支給とした。
これに対し遺族らは、「同じ家で同じ利用者にサービスを提供しているのであれば、介護と家事の業務内容の区別は難しい。家事部分についても実態は山本サービス社の指揮命令下にあった」と主張していた。

地裁と高裁で分かれた判断

しかし東京地裁は、2022年9月、労基署の判断を支持する判決を言い渡した。
地裁が認定したAさんの労働時間は、睡眠時間(休憩時間)を除く1日19時間の業務時間のうち、「介護」を担った4時間30分のみで、「1週間の総勤務時間は、31時間30分(4時間30分×7日)にとどまることから、過重業務だったとは認められない」と結論付けた。
一方、東京高裁は2024年9月、一審の判決を破棄。Aさんの死亡について「家事および介護業務に内在する危険の現実化として発症したものであるといえ、業務起因性が認められる」として、国に不支給の決定を取り消すよう命じた。
高裁は、Aさんの労働時間を7日間で105時間(1日15時間×7日間)、時間外労働時間は65時間(105時間-40時間)と認定した。
原告、被告ともに上告せず、判決が確定。それを受けて昨年春、原告らはAさんの使用者であった山本サービス社(現在は吸収合併されファインケア社)に対し損害賠償等を求め、二者協議を進めてきた。そして今年2月末、和解が成立した。

「まだ家事労働者が置かれている状況は変わっていない」

会見に出席したAさんの夫は「和解成立に約1年かかりましたが、なんでそんな時間がかかるんだろうと不満でした。また、示談書に書いてある文書、会社の謝罪文書も読みましたが、ごく当然のことしか書いていなかった」と落胆の様子を見せた。
そのうえで「労基法116条2項(家事使用人の労基法除外規定)の改正も進みません。国には家事労働者・家事使用人も労働基準法で守るという当たり前のことを当たり前にしてほしい」と話した。
原告代理人弁護士の指宿昭一弁護士は、「ご遺族の気持ちとしては、当然謝罪だけで収まらないものがあると思います」と受け止めつつ、自身が担当した他の事案と比べ、ファインケア社の対応は誠実なものだったと評価した。

「ひどいケースでは、過労死で労災申請された会社が、会社を一度潰して、一切の民事責任を回避しようとすることもある。しかしファインケア社は、労災当時の当事者ではなく吸収合併した会社という立場でありながらも、責任を取った。もちろん過労死は起きないことが第一だが、起きてしまった時に雇用者側がきちんと社会的に責任を取ることが再発防止にもつながると思う」(指宿弁護士)
ファインケア社は、サイト上で謝罪文と合わせ〈今後、このような事態を二度と起こさないため、弊社は訪問介護と家政婦・家政夫の兼務の禁止、住込み家政婦・家政夫の禁止など、労働時間の適正化、勤務間インターバルの確保、職員の健康管理の徹底などを実施し、厚生労働省の家事使用人ガイドライン、法令遵守を徹底することにより、職員の労働環境の改善、安心して働くことができる職場環境を目指し、既に全力で取り組んでおります〉と再発防止策を実施していることを示した。
家事使用人を法の適用外としている労基法116条2項の規定については、国も「労災保険制度のあり方に関する研究会中間報告書」などで削除に向けた動きを見せている。
指宿弁護士は「この山本サービス社をめぐる事件は、示談によって解決したと言える。ただし、まだ家事労働者が置かれている状況は変わっておらず、立法の議論も道半ばだ」として、社会が今後の流れを注視していく必要を訴えた。


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