「勤務態度が不真面目」
「会社の命令に素直に従わない」
このようなことを理由に、会社が従業員に対して出勤停止処分を出すことは認められるのだろうか?
とある会社が従業員に懲戒処分として1か月の出勤停止を命じた事件について、裁判所が「処分は無効。会社は1か月分の給料約38万円を払え」と命じた。

以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

Aさんは、コンピューターソフトウェアの企画、開発などを行う会社で、主にシステム開発に関する業務を行っていた。
■ 支社への出張命令
会社は、Aさんに対して、X支社への出張を命じたが、Aさんは「不眠症のためX支社に常駐できない。出張経費を立て替える金銭的余裕がなく出張できない」旨述べたため、会社は在宅での業務を認めていた。しかし、会社が、出張経費について配慮したことから、AさんはX支社に出張して勤務することになった。
■ X支社でのトラブル
しかし、X支社で下記のトラブルが生じた。
  • 業務に対する理解が不足
  • 他の従業員が時間をかけて説明しても適切に業務を行うことができない
  • Aさんをフォローするために他の従業員が余分な作業を強いられる
  • Aさんの離席が多い
そこで、会社は約1か月でAさんの出張をとりやめた。
■ 賃金の減額
会社は、上記トラブルを踏まえ、Aさんに対して「賃金を1割減額する(43万円 → 約38万円)」旨伝え、書面を送付したところ、Aさんは署名欄に電子署名した(裁判所は「この賃金減額は有効」と判断している)。
■ 客先での業務
その約1か月後、会社はAさんに対して、客先のオフィスにおける約2か月間の常駐勤務を命じた。しかしその期間中、Aさんの勤務態度について、会社は客先から以下のクレームを受けた。
  • 離席が多い
  • 居眠りをしている
  • スマートフォンを頻繁に操作している
  • 始業時間に遅れて出社する
  • 出社後に朝食をとりながら作業をしている...etc
上司が確認したところ、Aさんは上記の行為を認めた。
■ 出勤停止処分(1か月)
会社は、上記のとおり客先からクレームを受けたことに加え、X支社への出張に際してAさんが「不眠症や金銭的な余裕のなさ」を理由に出張できないと申し出たことを踏まえ、Aさんに対して、出勤停止処分(1か月)とすることを通知した。
■ 社長との面談(×2回)
その後、社長と上司は、Aさんと2度面談し、自己都合退職を勧めたが、Aさんは受け入れなかった。

■ 異動命令
その後、会社はAさんに対して、X支社への異動を命じた。理由は、X支社においてシステム開発の案件の受注が増加したこと、Aさんが当該システム開発の案件に携わった経験があり、X支社での勤務経験もあったことなどである(裁判所は「この異動命令は有効」と判断している)。
しかしAさんは、この異動命令に従わず、本社に出勤して退去を命じられた。
■ 懲戒解雇
約1か月後、会社はAさんに対して、懲戒解雇を言い渡した。
そこで、出勤停止処分や解雇などに納得できないAさんが提訴した。

裁判所の判断

裁判所は、「出勤停止処分は無効だが、解雇は有効」と判断した。順に解説する。
■ 出勤停止処分について
裁判所は「たしかに客先における下記の行為は懲戒事由にあたる」と述べている。
  • 離席が多い
  • 居眠りをしている
  • スマートフォンを頻繁に操作している
  • 始業時間に遅れて出社する
  • 出社後に朝食をとりながら作業をしている...etc
しかし裁判所は、会社が「不眠症や金銭的な余裕がないことを理由にAさんが出張できないと申し出た」ことを出勤停止処分の理由にしたことに着目し、「会社自身が、Aさんの申し出を認めて在宅勤務を認めたのであるから、これを理由にすることはできない」と、出勤停止処分を無効と判断した。
さらに裁判所は、
  • すでに賃金減額によってAさんに一定の不利益が生じている
  • 出勤停止処分は諭旨解雇の次に重い懲戒処分である
  • 1か月の出勤停止は会社の規則上、一番期間が長い
  • 出勤停止期間中、賃金は支給されない
ことなどを理由に、「出勤停止処分は懲戒権が濫用されたものとして無効」とし、会社に対して1か月分の給料約38万円の支払いを命じた。
■ 懲戒解雇について
しかし他方で、裁判所は「懲戒解雇はOK」と判断した。理由は以下のとおりだ。
  • 異動命令に従わず本社に出勤し、退去を命じられている
  • その後、会社から「X支社に出勤しない場合は無断欠勤となり、懲戒処分の対象となる」ことを通知されても、X支社に出勤せず、本社に赴いて就労しようとし、退去を要請する上司との間で押し問答になった
  • Aさんが、多数の従業員に宛ててメールを送信し、会社から脅迫を受けたと虚偽の事実を伝えた...etc
これらの事情を踏まえ、裁判所は「本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるので有効である」と判断した。

最後に

本件は、「問題のある従業員に対してであれば、どのような懲戒処分でも許されるわけではない」という点を明確に示した裁判例だ。
たしかに、Aさんの勤務態度には問題があった。しかし、会社が一度認めた事情を後から懲戒理由として持ち出したり、勤務態度の悪さを直ちに重すぎる懲戒処分に結びつけたりすることは許されない。懲戒処分は、その理由・程度・手続きのいずれにおいても慎重でなければならない。参考になれば幸いだ。


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