人材不足の深刻化から、中小企業でも新卒採用や第二新卒採用などのポテンシャル採用を拡大しようとする動きが見られます。しかし新卒採用市場の現状は厳しく、リクルートによると5,000人以上の大企業では新卒有効求人倍率が0.34倍であるのに対し、300人未満の中堅・中小企業では6.50倍というデータも。
Z世代の志向性を捉え、自社に注目してもらうためには何が必要なのでしょうか。株式会社ベネッセi-キャリアの矢竹秀行氏に、超売り手市場を生きるZ世代の「ホンネ」を聞きました。
出典:第41回 ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)【大卒求人倍率1.75倍】引き続き高い採用意欲が続く見込み
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採用活動の早期化が年々顕著になり、中小はますます厳しい状況に
——最初に、ベネッセi-キャリアの事業領域について教えてください。矢竹氏:当社は、大学教育や大学入試などを支援し続けてきたベネッセホールディングスと、人材領域で企業を支援し続けてきたパーソルキャリア(旧インテリジェンス)が2015年に共同で設立したジョイントベンチャーです。
現在は大学向けのキャリア教育プログラムやアセスメント、企業向けの新卒人材紹介サービスやダイレクト・ソーシングサービスなどを展開。「まなぶとはたらくをつなぐ」というミッションに基づいて各事業を推進しています。
こうした活動の中で、私たちは「学生のバックボーンを理解した上で志向性を語る」ことも重視してきました。新卒領域では基本的に、企業側からの情報しか出てきません。学生からの情報は、ナビサイトのアンケートなどによる「エントリー数」や「インターンシップ参加率」、「採用決定率」などの点の情報しかない。

矢竹氏:学生からすると、中小企業に目を向ける機会が少なくなっている現状があると思います。背景にあるのは選考の早期化です。
「25卒」といわれる今の大学4年生から、企業は3年次に行われる5日間の就業体験(夏のインターンシップなど)に参加した学生の情報を、本選考時に活用してアプローチできるようになりました。採用が厳しくなる中、採用活動を早期に始める企業が増えているのが実情です。
一方、中小企業が早く動き出そうとしてもなかなか厳しい。大手企業に先駆けて3年生の夏前にイベントを開いたとしても、選考が解禁される時期まで数カ月~半年は空いてしまい、学生との関係性をつなぎきれません。後から動こうとしても、学生側ではすでに他の企業の採用が複数決まっている状態であることが多く、中小企業が勝負をするのは大変です。
学生が「自分を丁寧に見てくれる」企業を選ぶ理由
——たしかに、中小企業にとってはかなり厳しい環境ですね…。この中で「中小企業だからできる打ち手」はあるのでしょうか。矢竹氏:「個々の学生を理解して個別にコミュニケーションを取る」ことが重要だと考えます。
学生側は、ある程度志望業界を固めて動いています。一方で、採用人数が多い企業はできるだけ多くの学生と接点を持とうとする。学生からすると、志望がマッチしていない業界や企業から3年秋以降のタイミングでスカウトメールが来ることには違和感しかありません。
逆に中小企業は採用人数が限られているので、学生個々を理解して丁寧にコミュニケーションが取りやすいかもしれませんよね。求める学生に的確にアプローチし、フレキシブルに対応できるのは中小企業ならでは。最近の学生の志向性に対応する意味でも、こうしたコミュニケーションが重要です。

矢竹氏: パーソル総合研究所が2023年に実施した『新卒者の内定辞退に関する定量調査』によると、入社受諾の決め手は「社員に対する印象」「社員から感じる職場の雰囲気」が上位となっています。こうしたフィット感を求めるからこそ口コミを見るし、その企業に関連する動画も見る。悪い評価を知ればあえて企業側にぶつけて質問する学生も多いです。そこに真正面から答えていくことが大切でしょう。
また、今の学生は「自分を丁寧に見てくれた」企業を選ぶ傾向があります。
就活生が面接後に企業からフィードバックを受け取った割合を見ると、入社承諾前辞退した企業よりも入社受諾した企業の方が10%以上多く、丁寧にフィードバックをしてくれた企業に魅力を感じていることがわかります。
矢竹氏:大学入試における経験が大きく影響しているのだと思います。
大学入試といえば、かつては1月に大学入試センター試験(現・大学入試共通テスト)を受けて、その後は複数大学の一般入試へ進んで、合格した中で最も偏差値の高い大学へ進むことが一般的でした。でも今では、高校3年生の12月までに全体の約60%が大学の合格通知をもらっています。いわゆる総合型選抜(旧・AO入試)の割合が高まっているからです。
総合型選抜に臨む高校生は、出願志望書をつくり、面接対策をしていきます。その過程では教科学習の成績だけでなく、「答えのないことに対して仮説をぶつけて解決策を考える」探求学習への取り組みも大きな要素となります。答えのない学びの中では、途中で立ち止まってフィードバックを受けながら見直しをするのが当たり前。この経験があるので、学生は「誰かが伴走してくれる」「フィードバックしてくれる」環境への安心感が強くなっていくのです。
——そうした学生に対して、「集めて選抜する」発想は通用しないのかもしれませんね。矢竹氏:はい。今どきの学生の志向性を理解している企業は、学生に徹底的に寄り添っています。
若手社員の力を借り、キャリアオーナーシップを後押しする採用活動を
——「共感し合う」「見極め合う」「確かめ合う」採用活動を行うには、どんな場づくりが有効でしょうか。矢竹氏:説明会や座談会イベントなどを設け、人事・採用担当者が語るだけでなく、学生と立場の近い若手社員に協力してもらうのが望ましいと思います。内容的には人事・採用担当者が語るものと同じでも、若手社員が語るだけで印象は大きく変わります。
こうした場を企画する際に気を付けてほしいのは、若い人が「タイパ」(タイムパフォーマンス)にかなり厳しくなっているということ。採用サイトや動画を見て理解できることを伝えるだけなら、わざわざリアル空間に集めないでほしいと思われています。「この時間を無駄に過ごしたくない」という志向が強いのです。
大切なのは、それぞれの場には意味があると伝えること。法人向けにセミナーやウェビナーを開催する際は、その告知で「こんな人にオススメ」とわかりやすくまとめてアピールすることが多いですよね。同じように学生に対しても、説明会やイベント別に、どんな人にメリットがあるのかをわかりやすく示すべきだと思います。

矢竹氏:そうですね。とは言え人事・採用担当者だけで多様な場を企画するのには限界があるでしょう。
新卒採用がうまいベンチャー企業では、人事・採用担当者は企画を立ててコントロールするだけで、実際の説明会などは1年目社員が運営していることもあります。企業説明や仕事紹介なども1年目が担うことで、学生にとっては身近な存在の言葉なので腹落ちしやすく、30~40代が一生懸命考えるより、若い人にアイデアを出してもらったほうがよほど効果的なのかもしれません。
——学生の志向性は、一度企業へ入り、何らかの理由で離れた「第二新卒」の時点ではどのように変化しているのでしょうか。矢竹氏:もしその若手が1社目でキャリアに挫折感を持ったのだとすれば、「次の会社でどう成長できるか」「何を得られるか」という視点がさらに強化されるでしょう。学生時代よりも、業務内容や人材育成体制、フォロー体制などをより詳しく知ろうとするはずです。
現在の若手の多くは、学生時代のキャリア教育などを通じて「キャリアオーナーシップ」(自分自身で主体的にキャリアを切り拓いていく)志向を強く持っています。第二新卒になるとこの志向がさらに強化されるのかもしれません。
新卒の学生と同じように、個別に丁寧に接して、フィードバックを行い、その上で成長に向けた道筋をともに考えていく。そうした「キャリアオーナーシップを後押しする採用活動」こそが求められているのだと思います。
取材後記
「学生や第二新卒層の多くは承認欲求を満たしたいのに、企業が応えられていない」。取材の中で、矢竹さんからはそんな指摘もありました。
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企画・編集/髙橋享(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也