工作機械メーカーのリーディングカンパニーであるオークマ株式会社(愛知県丹羽郡大口町/代表取締役社長:家城 淳)は、創業以来、日本のみならず全世界の製造業の発展を支え、着実な成長を遂げている。さらなる成長を見据えた変革の最中にあるという同社は、加速する市場構造の激変の中、組織をどう変化させていくのか。
オークマという会社について

―まず貴社の過去から現在までのビジネスの変遷についてお聞かせください。
袴田 隆永氏(以下、開発・袴田氏):オークマは、旋盤、マシニングセンタ、複合加工機、5軸制御マシニングセンタ、研削盤、さらには制御装置や周辺機器を自社開発する総合工作機械メーカーのリーディングカンパニーです。
125年以上の歴史の中には、「旋盤のオークマ」と呼ばれていた時期がありましたが、時代の流れとともに「マシニングセンタ」を強化してきました。機械と加工の状況を判断し、自律的に最適加工を行う「スマートマシン」を世界のユーザーに提供し、着実に成長してきました。
オークマの開発で今も昔も重視しているのは、「あるべきもので、ないものは創る」という考え方で す。独創的な技術で新しいものを創り、世界のものづくりを支えてきました。
―直近5年間は、コロナ禍をはじめとしたさまざまな社会の変化がありましたが、貴社ではどのような変化がありましたか。開発・袴田氏:社会情勢的に厳しい時期にも黒字を維持し、お客さまの声に応えてきました。一方、市場的には複数機能を持つ工作機械が増え、ロボットを中心とした自動化が進むなど、国内外でドラスティックな変化が見られました。
会社として着実に成長を遂げているなかで、その成長に見合った自社工場の環境・設備の整備や、人材への投資を進めています。
組織・人材戦略の取り組み|誠実さと変化への対応力を両立する人づくり

―続いて、CHRO(最高人事責任者)の野崎さんに伺います。開発の袴田さんのお話では、市場の変化や成長に合わせた環境整備などのキーワードがありましたが、人事として実感する課題や、実施している施策についてお聞かせください。
野崎あゆみ氏(以下、野崎氏):私は、2023年に人づくり革新担当部長(当時)として入社しました。入社時に印象的だったのは、会社や人の「まじめさ」と「誠実さ」でした。
まじめさや誠実さ、それに「あるべきもので、ないものは創る」というプロダクトアウトのものづくり思想は、これからも大切にしていくべきものと思っています。
同時に、お客さまが本当に求めていることに耳を傾け、ニーズに応えていくことはより求められてきています。プロダクトアウトかマーケットインかを柔軟に考える必要もありますし、常にゼロから創るのではなく、「あるものを活用して、新しいことに転換する」という考え方も取り入れる必要があると考えています。
つまり、「性能の良いものをつくっているという自負」に加えて、「変化していくお客さまのニーズに応え、そのニーズを先取りしているか」という視点が重要だということです。競合企業のビジネス展開においてにもマーケットインの流れが見られていることもあり、私たちもスピードをもって変化しなければならないという思いを強くしています。
そうした発想の転換を、30~40代の中堅のリーダー層に持ってもらいたいと考え、社内研修として「“創る”ワークショップ」という取り組みを実施しました。
ワークショップの前半、参加社員に「オークマの強みとは?」と問いかけてみました。
最初は「真面目」「誠実」「機械の性能がいい」といった回答が挙がってきましたが、問いを少しずつ変えてみると、徐々に回答が曖昧になり、「新しい視点で顧客をみる」という意識や視点に課題があることに気づきました。
そこで、当初想定していたワークショップのプログラム内容を一部変更し、顧客に共感しながら解決策を見出す「デザイン思考」を研修内容に取り入れることにしました 。
デザイン思考の導入に関するスペシャルチームを設置・実施しているNEC様に協力を仰ぎ、ワークショップを「机上の勉強」で終わらせないための取り組みを行ったのです。
NEC様との協働の背景には、私が先方の事業経営の変革に興味を持ったことが始まりです。先の見えない時代にありながらも、経営改革の一端としてNEC様の経営層が行ったというワークショップの話を知り、それと同じビジネスモデルキャンバスというフレームワークを取り入れ、当社の中堅リーダー層にも学び、考える場をつくり、「事業を見立てる」視点を養ってもらいたいと思い、ご依頼をしたのです。
最終日にはNEC本社で研修を実施させていただき、オークマからは約30人の社員が参加しました。

―会社の未来を担う中堅層にアプローチをしたのですね。どんな変化がありましたか?
野崎氏:ワークショップを通じて、情報発信のタイミングやその質において劇的な変化をみせてくれたメンバーが複数現れました。ものの味方・捉え方が変わり、自身の担当領域への責任感はもちろん、創意工夫してみよう、上司に自分の考えをちゃんと伝えてみよう、お客様との対話の質を変えていこうなど、明らかに変化が生まれたのです。もともと誠実で素直な社員が多いオークマでは、有意義な体験をしっかりと吸収し、自分の力で前向きに変化していくことができる人材が多いのだと改めて実感しました。今後もこうした取り組みを継続し、圧倒的当事者意識をもって考え、動く中堅リーダーを育んでいきます。
―他には、どんな取り組みをされましたか。野崎氏:身近なところでは、まずは私服での勤務を可能にしました。さらに、「見えるものを変えていく」という取り組みで、ユニフォームを刷新。製造部門の若手中堅社員を中心としたプロジェクトメンバーが、好きな色や素材、デザインを考え、新たなユニフォームを生み出しました。
自分たちが企画し、それが経営層にも受け入れられ、全社に展開される。こうした日常的に目に触れる変化が、社員一人ひとりの自由な発想を促し、自ら変化を起こすきっかけになればと考えています。
今後は経営企画部門と連携を強め、人事としてのこうした取り組みの一つひとつを、企業全体の戦略に紐づけていきたいと思います。

―人事戦略と経営戦略を連動させる必要があるとのことで、経営企画の野田さんのお考えをお聞かせください。
野田保徳氏(以下、経営企画・野田氏):野崎さんと袴田さんがお話した通り、オークマでは「あるべきもので、ないものは創る」という、プロダクトアウト型のものづくりを強みとし大きく成長してきました。しかし今は、これまで以上にユーザー目線に立ち、お客さまの課題やお困り事に寄り添い、一緒になって解決していけるかが問われるステージに差し掛かっています。
市場環境が大きく変わりつつあり、今までのように「いいものを作れば売れる時代」ではなくなっており、同業他社も変化に向けて動いています。オークマの企業理念に掲げる「ものづくりサービス」をいかに具現化していけるかが、今後の大きなテーマです。
オークマの採用は新卒社員が中心で、キャリア採用は少なかったのですが、近年は多様なスキルや経験を持つ人材も増えてきています。こうした人材の参画により、新しい風を取り入れながら、より強く、より柔軟な組織へとスピード感持ってレベルアップしていきたいと思います。
変革を掲げる上層部とメンバー層の温度感を合わせる手法について

―変革を進めている企業の中には、上層部で変革の目標を掲げて高い士気を持っていても、メンバーまで思いが伝わらず、温度感の違いが生じるケースも見受けられます。そうした事態を防ぐための手法についてお聞かせください。
経営企画・野田氏:中堅メンバーへの集中的なワークショップなどを通じて、メンバーに変革の意図や必要性を伝える段階にありますが、上層部はそこに込められた想いや意味を深く理解・納得した上で、現場のメンバーに自分たちの考えや想いを伝えていくことが重要です。
ワークショップについても、「勉強」で終わらせず、いかに実務に落とし込んでいくかという観点で進めることが大切です。
さきほど野崎さんから、「ものすごく性能がいいものをつくる」に加えて「お客さまのニーズにマッチしているのか」という視点も大切ではないか、という話がありました。
新しい視点を取り入れるには、営業やサービスなど、お客さまからの生の声を直接受けている部署の協力が欠かせません。お客さまの声、現場の声を吸い上げる仕組みを作り、情報を集めて正しい市場ニーズを把握することで「マーケットをつくる」ことにつながりますし、これを真摯に実行できる組織はかなり強い組織になるものと考えます。
当社の中期経営計画は、2025年度で区切りを迎えます。新たな中期経営計画は、若手から中堅社員中心に考えてもらうことからスタートしていきます。変革を「絵に描いた餅」で終わらせず、着実にオークマグループ全体に根付かせていく。そのカギは、対話と、実行力ある仕組みづくりにあると考えます。
求めたい人、創りたい仲間

開発・袴田氏:オークマでは、ものづくりのスマート化とDXを進めており、さらに上のレベルを目指していく段階にあります。

(画像参照元:初めてオークマを知る方へ|株式会社オークマ採用情報)
上を目指すプロセスにおいては、現場と経営層の間で異なる意見が出ることもあるでしょう。これは当然のことですから、その都度、意見をすり合わせていく必要があります。
オークマの社員は、自分たちでコツコツとスキルや経験を積み上げられる人が多く、皆さん着実に成長しています。
お客様のニーズに寄り添い、お客様の現場や経営を支えることができる人材を拡充していきたいと思います。

野崎氏:「こんな方法もあるかもしれない」というアイディアを、自由に出し合えるようになってもらいたいと思っています。実際、中堅メンバーはそのような機会を欲していると感じます。
開発・袴田氏:ワークショップをはじめとした教育的な取り組みを始めたことで、中堅層の人たちに少しずつ変化の兆しが見えてきているかな、という実感があります。
経営企画・野田氏:アイディアを出す際、上司や経営層の顔色をうかがって、「気に入られそうな案」を出すようでは、本当の意味での自由な発想は生まれません。これは私たちマネジメント側も注意すべき点でしょう。

開発・袴田氏:工作機械は原理原則に基づいた精度や性能が求められる分野ですので、つい着実な正攻法を重視したくなる気持ちはよくわかります。
お客様が見ている未来は3~4年先かもしれませんが、オークマの機械は10年、20年と使っていただく可能性があります。だからこそ、お客さま目線に合わせるだけでなく、自分たちの知見を提案することも重要だと思うのです。

経営企画・野田氏:確かに。そのあたりはバランスが必要ですね。
長期的に物事を考えるという点では、オークマのビジネスモデルが世の中に合ってきているのかもしれません。まずはお客様のビジネス環境に関心を持つことから始め、「この機械を導入すると、いい物ができます」というプロダクトアウトの提案から、「お客様のこの困りごとを解決します」というスタイルを試していきたいものです。
人事・野崎氏:多角的な発想ができるといいですね。圧倒的当事者意識を持って、アイディアをどんどんアウトプットしてほしいですし、「論理」と「想い」の両方を備えた人財を育成していきたいと思います。
―熱い議論、ありがとうございます。開発と経営層とで闊達な意見交換をされている様子が伝わってきました。オークマが目指すビジョンや未来への展望について

―続いて、採用について伺います。採用ブランディング、採用計画を含め、実施している採用施策についてお聞かせください。
野崎氏:新卒採用中心だったこれまでの方針を見直し、キャリア採用の拡大を進めており、特に技術系やFA系の人材を中心に求めています。
また、これからの経営を担っていける30~40代の方々や、プロとしての経験と深い思考力を持ち合わせて経営視点を持って現場力の底上げを図ってくださる50代半ば以降の方も積極的にお迎えしています。当社の社員は素直かつ成長意欲の高い人が多いので、技術と経験を備えた尊敬できる方々から多くの刺激を受けることで、成長のスピードもおのずずと加速していくと期待しています。
これまではどの部署でも一様に「新卒を採用し、ゆっくりじっくり育てる」という方針でしたが、今後は職種に応じた育成期間・プログラムを常に見直しながら設計し、スピード感を持ってプロへの道筋をイメージできるような育成計画を立てていきたいと思います。
2025年から5年間はオークマにとって過渡期になると予測していることもあり、会社を変える「フック」を作れるような人材を採用していきます。
採用に関する目下の課題は、「採用市場におけるオークマの認知度向上」です。現在は積極的に色々な情報収集をしており、今後はオークマを知っていただけるように、情報発信にも力を入れてまいります。
―キャリア入社した人からは、どんな声が聞かれますか?野崎氏:「周りが温かくて優しい」「びっくりするくらい親切に丁寧に関わってもらえている」「安心して働ける」という声が圧倒的に多いです。実は新卒入社の社員からも同様の声をもらうんです。先日も、通勤バスで隣の席に座った社員から、「本当にうちの会社の人は優しいです。僕は本当に入社して良かったです」という直接の言葉をもらい、感動して涙が出てきました。それぞれの現場ではいろんな場面が展開されていると思います。もちろん全てが良いことばかりではなく、人間関係で悩むことや、辛い気持ちを抱いて働いている社員がいることも、企業においては事実としてあるでしょう。でも、今、目の前に自分の言葉で、「入ってよかった」と素直に表現をしてくれる人がいる、この事実にもしっかりと目を向けていきたいと強く感じました。
また、最近入社した人からは「入ってみたら、イメージが変わりました」という声がたびたび聞かれます。伝統があるがゆえに従来のやり方にこだわる会社だと思っていたけれど、さまざまな取り組みが進んでいて驚いたとのことです。そう言ってもらえるのはとても嬉しいことですし、新しい取り組みを楽しんでくれる社員同士がともに会社を進化させていく事になると信じています。

―中部東海地方では、大手の製造業の存在もあり、採用の競合が多いのではないでしょうか。
野崎氏:確かに、採用競合企業は多くあります。処遇面では超大手企業には及ばないかもしれませんが、中堅中小企業でスキルを積んできたキャリア入社者の中には、「残業時間が減って、収入が増えた」と言ってくれる人もいます。
また、当社のキャリア採用の定着率は極めて高く、制度や施策のみならず、社内の温かい雰囲気や環境が、彼らを支えてくれていることは間違いありません。
―キャリア採用の人たちは、組織にどのような変化をもたらしていますか。野崎氏:これまで社内では当たり前だった慣習に対して、「なぜ、このやり方なのか」と一石を投じやすいのがキャリア入社の人々です。キャリア入社の方々には、「皆さんは会社に新しい社風を吹き込む風になってほしい」と伝えています。
既存社員には、新しい人が入社してくることで刺激をもらいより成長していただきたいですし、新たに仲間となってくれたキャリア入社、新卒入社の社員には自らの可能性をこのオークマでより広げてほしいと願っています。どちらの立場の人にも、豊かなキャリアを歩んでほしい、そう心底思っています。
―入社した人から「安心して働ける」「優しい雰囲気」という声が集まるのは、大きな強みだと思いますが、この点はどのように訴求していますか。野崎氏:オークマの新しい人事制度では、“保有能力”ではなく“発揮能力”を見るとしており、個人が成長をしていくために年齢を問わずサポートする体制があるということを伝えています。
開発・袴田氏:オークマは現在、次の一歩を踏み出そうとしているタイミングです。新たな中期経営計画を打ち出す今、ここで動けるかどうかが将来を左右すると感じています。
今まさに、わくわくするタイミングを迎えていますので、関心のある方にはぜひ、私たちの仲間に入っていただきたいと思います。みなさまと一緒に働けることを、楽しみにしています。

【取材後記】
高品質な工作機械を世に送り出しているオークマ。今回のインタビューでは、技術本部のプロパー社員と管理系のキャリア入社の両者が腹を割って話し合う風通しの良さが感じられた。
昨今、日本の製造現場を評論する際に「マーケットイン」か「プロダクトアウト」の二項対立で語られることがある。しかし、今回の対談の中では、両者のバランスも探ることが大切ではないか、という意見も聞かれた。市場構造の変化、顧客のニーズの変化を注視しながら、最高の「ものづくりサービス」を突き詰めるオークマの今後に期待したい。
[企画・取材・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]