採用活動や組織課題がますます複雑化する現在、人事業務に精通し、採用戦略や人材開発の専門性を発揮して、事業部門の責任者や経営者のパートナーとして組織戦略をリードする人材、「HRBP」への注目が高まっています。HRBPの役割をどのように定義し、どのような価値を発揮していくのか、多くの企業が試行錯誤を続けています。

IT業界においても、ますます難しくなる採用活動・組織戦略をリードするために、HRBP組織の必要性が叫ばれています。そのような状況のなか、HRBPのあるべき姿を企業の枠を超えて構想するべく、TIS株式会社が主催となり、大手IT企業4社の人事担当者が集まる「HRBP共創会」が開催されました。

今回のテーマは「HRBPの人材育成」。参加各社の発表から多様なトピックへと議論が発展し、活発な情報共有や意見交換が行われました。その様子をお届けします。

【CHAPTER01】 TISが主催する「HRBP共創会」とは

「HRBP共創会」は、企業の垣根を超えて人事リーダーが集まり、HRBP組織やHRBP人材のあり方について情報交換や議論を行う場として企画されました。参加各社がHRBP推進における課題、失敗、成功などのリアルな情報を共有するとともに、HRBPの定義や機能、HRBP人材の評価・育成などの共通テーマについて検討を実施。また企業の垣根を越えて何でも個別に相談できる関係を構築するネットワーキングの役割も担うことを構想しています。

共創会を主催するTISの藤澤 孝多氏は、同社の人材戦略部の中に設置されたHRBP室に所属し、HRBP機能の確立を推進しています。本共創会を開催する目的について、藤澤氏は次のように語りました。

「IT企業は事業概要や組織構造が似ており、人事課題も似ていることが多いです。HRBP組織を構築していく際の課題にも近しいものがあるのではないかと思い、同じ業界の企業と共にHRBP機能を創っていきたいと考えていました。事業領域での健全な競争はもちろんあっていいと思いますが、人事領域においては各社で競う「競争」ではなく、共に創る「共創」の関係でありたい。

それがこの会に込めている思いです。同じ業界の人事リーダーが集まって情報交換をし、HRBPのあるべき姿を創っていくことは、それぞれの会社のためでもあり、ひいては業界全体のため、日本のためになるのではないかと考えています」

【CHAPTER02】オープニング&主催TISから趣旨の説明

2025年6月20日、TIS株式会社の豊洲オフィスにて、HRBP共創会が開催されました。第二回となる今回の参加企業は、SCSK株式会社、日鉄ソリューションズ株式会社、株式会社野村総合研究所、そして主催であるTIS株式会社。IT業界大手4社でHRBPを推進する、人事リーダーの方々が集まりました。

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

共創会のオープニングでは、HRBP共創会の発起人であるTISの藤澤氏から開会の挨拶が行われました。

「このHRBP共創会では、各社のリアルな人事課題や取り組みを共有し、各社が持ち込んだ検討テーマについて議論を深めたいと思っています。企業の垣根を越えて、HR組織のあるべき姿を共に創り上げていくための一助となれば幸いです」

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

【CHAPTER03】参加各社が自社の取り組みを発表し、意見を交わす

和やかな雰囲気のなか、各社の参加者が自己紹介を終えた後、HRBP共創会は本題へと進みます。まずは第一回となる前回の共創会に参加した企業から、HRBP活動についてのアップデートが発表されました。

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

HRBP体制構築の進捗や、現状の課題について各社がリアルな情報を共有。HRBP組織の役割定義や、経営陣との考え方のすり合わせなど、率直な悩みが語られる場面もありました。各企業からの発表に対し、参加者からコメントや意見が寄せられます。

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

すでに近しい事例に取り組んでいる企業からの提案や、「当社もいずれそんな課題に直面するかもしれない」といった共感の声も挙がり、会は熱気を帯び始めます。

【CHAPTER04】各社が今回の検討テーマを発表し、深まる議論

各社のアップデートの共有が終わり、メインテーマであるHRBP人材の育成についての発表と意見交換へと進みます。まずは主催であるTIS株式会社からの発表で幕を開けます。

「TISはHRBP組織のあるべき姿を実現するために、社内にHRBP担当者を増やしていくことを目指しています。

方針としては大きく三つあります。一つはHRBP経験者や人事に精通した人材を事業部側で採用する方法、二つ目は人事部側でHRBP人材を育成して、事業部に輩出する方法、三つ目は事業側にHRBP機能そのものを創っていくという方法です」

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

またTISのHRBPに求められるスキルセットやマインドの定義においても、HRBP組織内で議論・検討が進んでいるとのこと。「キャリアフレーム」と呼ばれるTIS独自の人材要件に沿った、人材に求めるスキルや経験、マインドについての詳細が語られました。

「この定義で想定している人材のレベル感や役職は?」「このような視点もあってもいいのでは」と、参加者からは積極的な質問や意見が挙がります。

続いては野村総合研究所が発表を行いました。事業本部からの要求に手厚く応えていくためのHR組織戦略や、HR人材の配置戦略などが語られます。また同社の人材育成への取り組みとして、2007年から人材育成委員会を設置し、人材育成の課題整理や提言、HR人材の人脈形成に取り組み続けていることなども語られました。

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

現在まさにHRBP体制の構築に注力中であるという日鉄ソリューションズ。HRBP人材の育成においては、どのような人材レベルを定義していくかを構想中であると語ります。また全社の共通管理機能を集約し、業務の標準化や高度化に取り組むことで、人事組織のパフォーマンス、生産性の向上に取り組んでいることも語られました。

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

発表の最後を飾るのはSCSK。HRBP体制への本格的な移行に向けて、戦略人事を実現する組織体制の検討に着手していると語ります。

また現在取り組んでいる大きな人事ミッションとして、自己革新能力に優れた人材を育成、評価していくことを挙げ、その実現に向けて新たな人事制度を検討していることが語られました。

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

【CHAPTER05】 第二回HRBP共創会を終えて

それぞれの企業が発表を終え、会はクロージングへ。他社のHRBPに対する役割定義や求める人材像など、さまざまな視点で意見が交換されました。共創会を終えて、参加企業の人事リーダーの皆さんは次のように感想を述べました。

当社はHRBP体制への移行を視野に入れ、事業部門とコーポレート部門それぞれの組織体制や人事機能の在り方について検討しているところです。この会に参加するなかで、一口にHRBP体制といっても、その目的や役割は企業ごとに異なるものとあらためて認識しました。同業他社の皆様と率直に情報交換できるこのような機会はとても貴重であり、有意義に感じています。
(SCSK株式会社 人材戦略本部 リクルーティング部 篠原 貴之 部長)

同じ業界の人事が、自社だけでなく業界全体をより良くしていこうという志を持って、情報共有や率直な意見交換を行う貴重な機会になっています。各社の課題や取り組みから学ぶことは非常に多く、毎回刺激をいただいています!当社のHRBPはまだ始まったばかりなので、皆様と共創していける場があることがとてもありがたいです。
(日鉄ソリューションズ株式会社 人事本部 人事企画部 野城 直美 グループリーダー)

IT業界では、人材が事業運営における唯一の資本です。IT業界全体で人的資本をどのように拡充していくのか、企業の垣根を超えて議論していくことで、IT業界だけでなく、日本の産業全体の発展に寄与したいと考えています。
(株式会社野村総合研究所 人材戦略部 西山 顯 部長)

※五十音順(企業名)

企業の垣根を超え、人事戦略について語り合う。大手IT企業4社の人事が集まり共創する、HRBPのあるべき姿

今回のHRBP共創会の手応えについて、主催の藤澤氏は次のように語ります。

HRBP共創会にて、参加されている人事リーダーの皆様と議論を重ねるなか、各社の人事機能の高度化に確かな手応えを感じていますし、人事同士が “共創” することの重要性をあらためて強く認識しています。今後は、こうした取り組みが各社のビジネスの発展はもちろん、お客様や社会全体の課題解決にもつながっていくと確信しています。HRBP共創会での議論やアウトプットについては、可能な限りオープンに共有し、日本全体の人事や産業の発展に貢献していきたいと考えています。
(TIS株式会社 人事本部 HRBP室 藤澤 孝多 室長)

HRBP共創会についてのレポートは以上となります。d’s JOURNAL編集部では、今後も継続的に人事・採用担当者に役立つ情報やイベントについて発信していきます。

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