業界内では認知が高くても一般にはまだ知られていないBtoB企業の場合、「母集団形成に苦戦している」、「転職希望者に、会社の魅力をどう伝えればよいかがわからない」という悩みに直面してきました。しかし、転職希望者の情報収集方法が大きく変化した今は、知名度が高くない企業でも求める人材を採用できる可能性が高まっています。

採用成功のキーワードは、共感を軸にした新しい採用戦略「ファンベース採用」です。本セミナーでは、パーソルキャリアの石井氏より、転職市場の変化についてお伝えした後に、株式会社ファンベースカンパニーの坂本宗隆氏より、ファンを基盤に事業価値を高める「ファンベース」の考え方や、応募者獲得につなげる具体的な方法などをお話いただきました。社員のリアルな声を活かし、認知度の壁を超えた採用を実現するヒントとしてください。

知名度に頼らず応募獲得につなげる方法とは?「ファンベース採用」の新潮流
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いま、採用市場で起きていること

―BtoB企業の採用が難しい理由

石井宏司氏(以下、石井氏):BtoB企業は、BtoC企業や、一部の知名度の高いBtoB企業と比べて、どうしても転職希望者の目に留まりにくいという現実があります。

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たとえ世界的に重要な技術や製品を支えていても、生活者に直接届かないために、「その会社で働くリアルなイメージ」が持たれにくいからでしょう。その結果、応募が集まりづらく、採用活動においては不利な状況に陥りがちです。

この壁を乗り越えるために注目すべき考え方が、数ではなく質、仲間づくりを基盤に据えた「ファンベース採用」です。

また、コロナ禍を経て転職市場は大きく変化しました。一時的に活性化した後、落ち着きを見せていますが、賃上げの動きや、役職定年を迎えた氷河期世代の転職再開などを背景に、ミドル・シニア層の転職活動も活発化しています。

若手や第二新卒層の動きは依然として旺盛で、特に「異業界・異業種への転職」はもはや当たり前となり、転職希望者は、これまで以上に幅広い選択肢を持ちながらキャリアを模索しています。

こういった状況を受け、企業側では従来の施策のみならず、中長期的で本質的な打ち手が必要という認識が強まってきました。

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―情報収集行動に大きな変化あり。「私にとってどうか」が重要な視点

石井氏:ここで重要なのは、転職希望者の情報収集行動が大きく変わったという点です。企業のWebサイトや求人情報を見比べるだけでなく、SNSや口コミサイト、同世代の体験談などを参考にして意思決定をする「レビュー時代」に突入しました。つまり転職希望者は、企業からの一方的な発信や権威ある人の言葉よりも、「身近な人の声」「リアルなエピソード」を強く信頼するようになっているのです

また、時代の変化と共に、「一般的に良い会社か」どうかではなく、「私にとってどうか」という考え方がベースになりつつあります。「その会社はあなたらしく働けそうだね」などと、身近な人から受容の言葉を得られるかどうかが重要であることを、頭の片隅に置いておきましょう。

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ファンベースとは何か。ファンが生み出す価値とは

坂本宗隆氏(以下、坂本氏):「ファンベース」とは、ファンを大切にし、その基盤をもとに事業価値やブランドを中長期的に高める考え方です。これはマーケティングの世界で注目されてきた概念ですが、採用にも非常に親和性があります。

採用を「数を集める活動」と捉えるのではなく、「仲間をつくる活動」と捉え直すこと。まさにこれがファンベース採用の核心です。企業の価値観や文化に共感した人がファンとなり、そのファンが社員になる。そのようにして入社した方たちは、長期的に活躍してくれるだけでなく、退職後も「アルムナイ」として会社を応援し続ける可能性を持っています。

つまりファンベース採用とは、短期的な母集団形成ではなく、長期的に共感と信頼を育み、企業を支える人材を集めていくためのアプローチなのです。

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―採用におけるファンベースの可能性と注意点

ファンベース採用を進めていくと、理念や価値観に共感している人が入社するためオンボーディングがスムーズになります。また、「この会社のファンです!」という言葉やエネルギーは、既存社員のモチベーションを上げる力を持っているため、社内の志気が高まるということも利点として挙げられるでしょう。

さらに、応募者がファンになってくれることで、人材を採用できる可能性が高まります。会社のミッション・ビジョン・バリューに共感してくれる人材が多く集まるにつれ、会社の事業に好影響をもたらすことは言うまでもありません。

一方で、ファンベース採用を行う上での注意点もあります。

面接では、「自社で採用すべき人材かどうか」と見極める必要がありますが、相手を値踏みするようなコミュニケーションをとってしまうと、相手の「ファン度」を下げてしまう可能性があります。「目の前の相手は、自社のファンになってくれる可能性がある人だ」という認識を持つだけで、使う言葉が変わってくるものです。

また、選考過程で取り入れられることの多い「先輩社員との面談」も重要です。 先輩社員にミッション・ビジョン・バリューが浸透していなかったり、情熱が感じられなかったりすると、転職希望者は「人事の人が言っていることと違うな…‥」と違和感を持ちかねません。

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―社外だけでなく、社内に向けてのコミュニケーションも大切

上記のような状況に陥らないようにするためにも、既存社員に向けてしっかりコミュニケーションをとる必要があります。ファンベース採用において、真に会社の魅力を伝えるべきは「既存の社員」だと言えるでしょう。

既存の社員が会社のファンとして働き続けていれば、会社の魅力は自然に伝播していきますし、事業にも好影響を与えます。ファンの対象は社員だけでなく、会社に関わるあらゆる人(ステークホルダーファン)、会社を卒業した人などもコミュニケーションの対象となります。

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ファンが感じる3つの価値

坂本氏:では、人はなぜ企業のファンになるのでしょうか。その答えは「価値」にあります。ファンが企業に感じる価値は、大きく次の3つに整理できます。

1.機能価値:給与や待遇、仕事内容などの目に見える条件
2.情緒価値:共感・愛着・信頼、そして「一緒に働きたい」という感情的なつながり
3.未来価値:社会への貢献や自己成長の可能性、将来への期待や希望など

これまで多くの企業は「機能価値」を中心にその魅力を訴求してきましたが、今の転職希望者にとって、「条件が良い」だけでは不十分です。

「ここで働くと、自分はどう成長できるのか」「社会にどんな影響を与えられるのか」といった未来価値、さらに「この会社の人たちと働きたい」と思わせる情緒価値が、応募意欲を決定づける大きな要因となっているのです。

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機能価値は他社から真似されやすいものですが、ファンを増やすためには、情緒価値、未来価値の発信が大切です。働いている人や技術について、また、会社の歴史や伝統、価値観のほか、地域にどう貢献しているか、どんな社会課題を解決しようとしているか。創業の志やミッション・パーパスなどをどんどん外に伝えていきましょう。

ファンベース採用は何から始めるべきか

坂本氏:ファンベース採用を自社で実践する最初の一歩は「ファン社員に耳を傾けること」です。どの会社にも必ず「この会社が好き」「ここで働き続けたい」と思っているファン社員がいます。彼らの声を傾聴することで、自社ならではの魅力が見えてきます。

例えば、ある部門のファン社員は「風通しの良さ」を価値と感じ、別の部門では「本気で意見をぶつけ合える文化」に魅力を感じているかもしれません。

こうしたリアルな声を整理することで、採用メッセージをより具体的に描けるようになります。

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さらに、転職希望者に向けては「物語」を発信することが重要です。抽象的なスローガンよりも、社員一人ひとりのストーリーのほうが、共感を生みやすいのです。これこそがファンベース採用の強みです。

採用からオンボーディング、成長、卒業までを一つの流れとして捉えると、ファンベースの効果は長期的に企業を支える仕組みとなるのです。

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ファンベース採用セミナーを受けて

参加者の方からいただいたご質問と回答をいくつかご紹介します。

―1.ファンになってくれる人が採用したい人材ではない場合、どうすればよいか

坂本氏:ファンでいてくれる人、すなわちカルチャーフィットとする人と、実務経験があり、スキルセットがある人のどちらを重視すべきか、という問題でもあると思います。ここは「カルチャーフィットだけを考えれば良い」 と言いたいところなのですが、ある研究結果によると、最初のスクリーニングはスキルセットでスクリーニングしたほうが短期的な事業成果にとって効果がある、という研究結果もあります 。

ファンが集まる環境づくりは大切ですが、だからといってスキルがなくてもよいというわけではありません。「入社にはこういう条件があります」と丁寧に伝えればよいと思います。

石井氏:ファンに対するリスペクトを最大限にもちつつ、必要なスキルセットは明確に伝えればよいということですね。

―2.インタビュー対象はファン社員のみで、ファンではない、ハイパフォーマーの社員は含みますか?

ベストなソリューションは、社員の中から、「ハイパフォーマーかつファン」という社員を選ぶ、ということです。

もしそれが難しい場合は、「ハイパフォーマーである」ということを優先するのではなく、「ファンである可能性が高い、つまりモチベーション高く働いている人」などにインタビューするとよいでしょう。

自社の良さ、ファンになる要因が分かりづらい場合、すでにそのことに気が付いているファン社員に聞くのが最も効率が良いからです。

また、モチベーション高く働いているファン社員は、「ハイパフォーマーかどうか」という、業績などの数字には表れない影響・効果 を与えている可能性が高いものです。

知名度に頼らず応募獲得につなげる方法とは?「ファンベース採用」の新潮流

採用市場の変化を受け、従来の訴求だけでは限界があると感じている企業は少なくありません。ファンベース採用を通じて、社員のリアルな声や物語、企業の価値を表現・発信することが、これからの採用戦略には不可欠なものとなるでしょう。

今日のセミナーをきっかけに、ぜひみなさまの会社でも「ファン社員の声を聴くこと」から始めていただき、未来の応募者を惹きつける力にしていただければ幸いです。

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自社の魅力を効果的に整理するのに役立つ採用広報の『4P』ワークシート 採用広報の4Pは 「人が組織に共感する4つの要素(4P)」に沿って自社の魅力をわかりやすく整理するための、採用戦略に関するフレームワークです。すぐに使えるワークシートになっておりますのでぜひご活用ください。⇒資料を無料ダウンロード

[取材・編集/d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション]

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