ダイレクト・ソーシングなど、企業と転職希望者が直接やり取りをする機会の多い採用手法が普及したことで、面接の場では見極めだけでなく「アトラクト」(自社の魅力づけ)の重要性が増しています。

なかでも面接時に転職希望者から寄せられる「逆質問」は、転職希望者の企業理解と志望度を高める絶好のチャンス。

しかし、逆質問にうまく答えられるか自信が持てず、悩む面接官も多いようです。

数多くの企業の採用活動を支援するマルゴト株式会社の今啓亮氏は、「転職希望者が求める個別情報を提供するために、面接官が自分を主語にしてリアルな経験を語れるかがカギ」だと指摘します。転職希望者からの逆質問にうまく対応し、効果的なアトラクトへつなげていくには何が必要なのか。具体例を交えて聞きました。

転職希望者からの逆質問には「魅力づけ」の側面しかない

──面接時に転職希望者からの逆質問にうまく答えられず、困った経験のある面接官が多いようです。今さんは、人事・採用担当者からこうした悩みを聞くことは多いですか?

今氏:あまり面接に慣れていない人だと、悩むことが多いと聞きます。「転職希望者に響く回答ができている気がしない」「一般的な内容しか答えられない」といった声をよく耳にしますね。社長や役員は自分の意思ですぐに回答できるかもしれませんが、担当面接官は苦戦しがちです。

面接経験が浅い人の場合は、どんな質問が来るかわからないという不安もあるでしょう。

──転職希望者側と企業側それぞれにとって、逆質問の機会はどのような意味を持つのでしょうか。

今氏:転職希望者にとっては、企業選びの判断材料をさらに得るための良い機会ですよね。求人票などの事前情報だけではわからないことを「もっと知りたい」と思うのは自然なことだと思います。

企業としては、転職希望者に合わせて個別に自社の魅力を伝えられる、またとないチャンスでしょう。

そもそも面接には、見極めと魅力づけの2つの機能があります。企業からの投げかけでよく見られる「その場面をどう突破したか」「これについてどう考えているか」などの質問は、どちらかというと見極めに寄りがちです。

一方、転職希望者からの逆質問には魅力づけの側面しかありません。どう答えるかによって転職希望者の意向を上げるか下げるかが左右される、とても大切な場面なんです。

【回答例付き】もう“逆質問”は怖くない!転職希望者からの問いかけを「魅力づけ」に変える実践テクニック

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「私」を主語にして実際のエピソードを語れるかが問われている

──逆質問に対する「よくない回答例」には、どのようなものがありますか。

今氏:一般論で返してしまう回答です。

転職希望者がせっかく逆質問してくれているのに、自社の求人票に載っているようなことをそのまま伝えても意味がありません。「御社の雰囲気は?」と聞かれ、「良い雰囲気ですよ」と漠然と答えるだけでも意味がない。具体例として「入社1週間でランチ会などの機会がある」「部活が盛んで、ゲーム好き同士が集まる場もある」などのリアルな情報を伝えるべきだと思います。

また、面接官自身が持っているリアルな体感値を伝えることも大切です。

逆質問の瞬間は企業対個人ではなく、個人対個人の会話となります。「◯◯さんから見て、この仕事のやりがいは?」と聞かれたときに、「当社」を主語にしているとおかしいですよね。

「私」を主語にして、実際のエピソードを語れるかが問われています。

だからこそ、自分を主語にして語ることに不安を感じる面接官が多いのかもしれません。

──自社にとってネガティブなことを聞かれてしまったときは、どう対応すべきでしょうか。

今氏:基本的には、事実を基に率直に回答するのがよいと思います。

事実として平均残業時間が30時間あるなら、それをぼかすのではなく、「30時間くらいは残業があり、頑張りたい人も多い」「でも無理せずに残業をほとんどせず帰っている人もいる」など、事実を基に語ればいいんです。それこそが転職希望者の求めている回答でしょう。

ただ、面接官個人の判断ではどこまで伝えるべきか迷うかもしれないので、ある程度の線引きを会社として明確にしておくのも大切だと思います。

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本当に大切なのは「相手が何を知りたいのかを意識する」こと

──逆質問の回答で魅力づけをするために意識しておくべきことを教えてください。

今氏:転職希望者が逆質問を通じて見ているポイントは「私にとってこの会社はどうなのか」。

つまり、自分のために個別化された回答を求めているということです。これが逆質問対策の結論ではないでしょうか。

求人情報を見れば、仕事内容や福利厚生、条件などの一般的な情報はある程度把握できます。転職希望者が本当に知りたいのは、「私」にとって意味のある個別の情報です。ここを面接官が理解できているかどうかがとても重要です。

転職希望者のことを理解できていないと、回答がどんどんずれてしまう恐れもあります。逆質問の意図が見えないときは、「役立つ回答をしたいので、差し支えなければ、ご質問の背景をもう少し伺ってもよろしいでしょうか?」と確認することも大切です。転職希望者は懸念点を解消したいのか、あるいはポジティブに会社のことをもっと知りたいのか。こうしたポイントを理解してから回答するのがよいでしょう。

面接官としては「自分がどう答えるべきか」に意識が向いてしまうかもしれません。でも、本当に大切なのは「相手が何を知りたいのかを意識する」こと。それを相手に合わせて具体的に伝えるのが面接官の役目であって、「名言を言う係」だと気負う必要はないんです。

【回答例付き】もう“逆質問”は怖くない!転職希望者からの問いかけを「魅力づけ」に変える実践テクニック
──よく転職希望者がする逆質問と、それに対して魅力づけできる回答の例を教えてください。

今氏:よくあるのは「御社では、どんな人が活躍していますか?」という質問です。転職希望者としては純粋に知りたいことですし、企業からは「やる気がある」と見られやすい面もあるので、定番の質問となっていますね。

こうした場面で、相手に合わせて個別化した情報を伝えることを意識してほしいんです。

たとえば新卒で入った会社を1年で退職した第二新卒の人なら、「若手はこんな研修を受けて配属される。結果的に入社時点のスキルは関係なく、スタンス次第で活躍できる」といった情報が響くでしょう。

経験豊富な人であれば、「経験を活かし、前職の知見をこんなふうに活用している人がいる」と伝えるのもいいですね。

書類や一次面接の情報から、ある程度は相手に応じた準備ができるはずです。「若手」「経験者」など、属性ごとに想定質問への回答例を用意しておくのも有効だと思います。

ただし、「全員一律」の回答ですべての転職希望者に魅力づけするのは難しいでしょう。用意した回答例に加え、面接官が「自分自身の体験談として」語れる内容を事前に考えておくことが大切です。

──業界経験者などから事業に関する突っ込んだ質問が出て、うまく回答できない場合、面接官はどう対応すればいいのでしょうか。

今氏:その場で明確に答えられないものは、「社内で確認してメールで回答しますね」といった対応でいいと思います。

自分ではわからないことなのに知ったかぶりをして、中途半端な回答をするのは逆効果。一方、答えられないことで「この会社はレベルが低い」と思われてしまうリスクもあります。こうした質問が出た際には面接担当者間で共有し、どのように回答できるか、対策をしていくことが必要です。

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想定ケースをたくさん用意し、ロールプレイングで鍛える

──ちなみに、これまでに今さん自身が思わずうなった転職希望者からの逆質問は?

今氏:事前準備を入念にしている人からの質問ですね。

ある転職希望者は、当社のサイトに掲載されている代表インタビューや社員インタビューなどを読み込み、組織図を理解し、役職者の役割などを仮説立てした上で業務範囲や連携度合いなどを質問してくれました。「このポジションのマネジャーは、こんな役割を担っているのではないでしょうか?」といった具合です。

つまり、自分が入社した場合にどう活躍すべきかを具体的に想定しているんですよね。こうした転職希望者には、とても良い印象を持ちます。

こうした準備をして臨んでくれる人もいるため、面接官は「何か質問はありませんか?」と積極的に逆質問を促していくべきだと思います。

──面接官向けに、逆質問に対して魅力づけした回答をするためのトレーニング方法があれば教えてください。

今氏:基本的な事柄として「転職希望者へ伝えてほしいこと」は、ある程度マニュアル化して回答例として準備できるでしょう。

大切なのは、会話を通じて転職希望者に対する理解を深めながら、個別化した回答を伝えるためのトレーニングです。

トレーニング方法としては営業職のロールプレイングが参考になるのではないでしょうか。「年収アップしたいと燃えている人」「未経験で不安を抱えている人」など、転職希望者の心理をケース別に想定しながら、自分ならどう答えるかを考えて実践していきます。

想定するケースは多ければ多いほど役立つはず。トレーニングシートなどを活用して言語化し、ロールプレイングを通じて自然に伝える練習をしていただければと思います。

冒頭でもお伝えしたように、転職希望者からの逆質問はアトラクトのまたとないチャンス。恐れることなく積極的に、転職希望者と向き合っていただきたいですね。

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【取材後記】

「逆質問の場面ではアトラクトの要素しかない」という今さんの指摘が印象的でした。会社を代表する面接官という立場では正しい答えを返すことに意識が向きがちですが、転職希望者が求めているのは決まり文句ではなく、面接官個人のリアルな体験や価値観。だからこそ、逆質問の機会を活かすためのトレーニングが重要となります。本記事の関連資料では、取材で教えていただいた逆質問例や回答例をまとめています。ぜひ社内でのトレーニングに活用してください。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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