ITエンジニアの採用競争が激しさを増す中、未経験者を含む若手エンジニアをどのように育成し、早期活躍につなげるかを重要課題に挙げる企業が増えています。
そうした企業にとって大きなヒントとなるのが楽天グループの取り組みです。
※ エンジニアが集まり、あらかじめ決められた時間や日数の中で特定テーマに基づく新たなサービスやシステムを開発して成果を競い合うイベント。”Hack”(ハック)と”Marathon”(マラソン)を組み合わせた造語
一連の取り組みには、どのような工夫があるのでしょうか。オンボーディングチームを主導するチャウ ウィンイン氏と中島未宙氏に聞きました。
IT人材(新人:新卒、第二新卒、微経験)が早期活躍できる「育成体制簡易チェックシート」 ITエンジニア育成の重要度は高まり続けています。そして早期活躍・定着を実現するために育成体制を見直すことが必要です。自社の育成課題や状況の整理をするきっかけとして活用できる、簡易チェックシートになっていますので、ぜひご活用ください。
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技術・スキルに加えて「コラボレーション」を育むオンボーディング
──楽天グループが、未経験者を含むエンジニア育成に重点的に取り組んでいる背景を教えてください。チャウ氏:楽天グループには、テクノロジー領域に携わる従業員が世界中に6,000名を超える規模で在籍しています。多様な文化的・専門的背景を持つ人たちが、さまざまな部署やロケーションで勤務しているのです。新卒社員にとっては、このように大規模で多様な職場環境に適応することが、最初の大きなチャレンジになると思います。
このチャレンジをサポートするため、私たちはオンボーディングプログラムに力を入れて取り組んでいます。
また、新卒エンジニアが実際のチームプロジェクトに参加する機会を持つことも重視しています。この体験によって、さまざまな役割や文化を持つ同僚とのコミュニケーションやコラボレーションを育むことができます。
中島氏:当社のミッションは「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」ことです。このミッションに基づき、オンボーディングプログラムでは単に知識を提供するだけでなく、学んだことを応用し、創造性を発揮できるようになることを目指しています。
こうしたアプローチが新卒エンジニアの自信を高め、コラボレーションスキルを伸ばすとともに、当社の精神を体現しながら活躍する人材へ育てることにつながると考えています。
──オンボーディングを担う組織体制や役割分担について教えてください。中島氏:当社のオンボーディングチームは、「楽天市場」をはじめとしたECサイトなどを運営するコマース & マーケティングカンパニーの開発管理室と、開発部門であるTech Divisionsでエンジニア向け人事を担うTechラーニング課が共同で運営しています。
このチームはオンボーディングの運営・進行を担当するコーディネーターと、講師・指導役を担当するトレーナーで構成されており、プログラム全体の設計から各セッションやアクティビティ、さらには座席配置や情報共有のためのコミュニケーション環境づくりに至るまで、細部にわたって担当しています。
メンバーは人事や技術スキル、ソフトスキルといった多様な専門性を活かし、それぞれの視点からプログラム設計に貢献しています。また、人事およびLearning and Development(社員の教育・能力開発を担うチーム)マネージャーの監督の下、他部門との円滑な連携を図っています。
──オンボーディングチームではどんなツールを活用しているのでしょうか。チャウ氏:社内の学習管理システムを用いて必修のeラーニング講座を配信しているほか、個々の学習ニーズに応じて、外部のeラーニングの講座も受講できるようにしています。
新卒エンジニア同士のコミュニケーションや、オンボーディングチームからのお知らせ・問い合わせ対応の場としてはチャットアプリを活用していますね。研修スケジュールや手順書、教材、配布資料などは情報共有ツールやクラウドストレージ上で整理しており、必要な情報を一元的に参照できるようになっています。
さらに、アンケートツールを用いて新卒エンジニアからのフィードバックを定期的に収集し、結果をデータで可視化することで、進捗の把握や改善点の検討に役立てています。
多様な視点から物事への理解を深め、アウトプット重視の研修プログラム
──新卒エンジニアの入社後に設けている研修プログラムや、育成スケジュールの全体感を教えてください。チャウ氏:新卒オンボーディングのプログラムは約1カ月間にわたります。
最初の1週間は、エンジニア職とビジネス職の新卒社員が合同で、企業文化や社内ツール、コンプライアンス、日本のビジネスマナーといった基礎的な研修を受講します。
2週目以降は新卒エンジニア向けの専門研修が始まります。参加者はチームに分かれ、まずはチームビルディングのワークショップから始まり、仲間を知ると同時に、自身が伸ばしたいスキルや研修後に達成したい目標を言語化していきます。
技術研修では、社内のAIツールやデータ分析、サイバーセキュリティ、品質保証、プロジェクトマネジメント、プロダクトマネジメントといったテーマを扱います。また、技術面以外のソフトスキルとしてはデザイン思考や異文化コミュニケーション、ビジネスライティング、論理的思考を身に着けてもらうことを重視していますね。
なお、セッションの進行や制作物は全て英語となっていますが、現場でのサポートについては日本語と英語の両方で行っています。
──講座で学ぶだけでなく、アウトプットする機会も多いのでしょうか。中島氏:はい。プログラム全体を通じて、新卒エンジニアは学んだことを整理・共有しながらアウトプット重視の活動に取り組みます。
例えばあるアクティビティでは、参加者それぞれが異なるeラーニング講座を受講。学んだ内容をさまざまな形式で可視化し、その後に行われるプレゼンテーション発表会で別のグループにも披露します。こうした活動によって、多様な視点から物事への理解を深め、英語で説明する力も磨かれていくのです。
これまでの学びを総括し、最終プロジェクトとして、最後はハッカソンで締めくくることになります。ハッカソンでの成果発表とオンボーディング全体の振り返りを終えた後、新卒エンジニアは配属先の部署での業務を開始します。
「ハッカソン」の実践的な経験を通して、仲間と協働しながら活用できる力を育てる
──ハッカソンでは具体的にどのような取り組みを行うのでしょうか。チャウ氏:新卒エンジニアが当社の既存サービスを活用し、特定の社会問題に対する新しいソリューションを考案することに挑戦します。この過程を通じて、デザイン思考のフレームワークを実践的に活用し、当社の70を超えるサービスから成る「楽天エコシステム(経済圏)」についてより深く理解できるようになります。
ハッカソンは単なるアイデア創出やプロトタイプ作成にとどまりません。提案を論理的かつ説得力のある形で、英語で発表することも求められます。ハッカソンを通じて、新卒エンジニアは調査やブレインストーミング、プロトタイピング、プレゼンテーションに至るまで、プロジェクト提案を一からつくり上げる実体験を積むわけです。
中島氏:ポジティブな声が多く寄せられています。
ある参加者は、「同じ課題に対してチームごとにまったく異なる創造的なアプローチが見られたことが刺激的だった」とコメントしていました。「最初は緊張したけれど、とても楽しかった。短い時間の中でやりきった達成感を得られた」という声も。
また多くの参加者が、技術力だけでなく、プレゼンテーションやタイムマネジメント、コミュニケーションといったスキルの向上にもつながったと語っています。
私たちはこのハッカソンを通じて、実践・イノベーション・協働を重視する当社の姿勢を伝えたいと考えています。オンボーディングの意義は、知識を増やすことだけではなく、実践的な経験で仲間と協働しながら活用できる力を育てることにもあるんです。
新卒エンジニアには、イノベーションのためのフレームワークやツール、そしてそれを実行するための環境を提供し、配属前に実践的な経験を積んでもらいます。このハンズオンの体験こそが当社ならではの価値であり、新卒エンジニアがキャリアを歩み始める上で重要な一歩だと考えています。
エンジニアだからこそ求められる「成長要素」とは
──エンジニアの早期活躍を実現するために、楽天グループではどのようなスキルやマインドを求めていますか。チャウ氏:スキル面では、まず多様な役割を持つ同僚と関わり、大規模な組織の中で円滑に動くためのコミュニケーション力が重要です。さらに、複雑なシステムを理解し、新しい知識を素早く習得する学習力、そしてタスクと自己学習の目標を両立させるためのタイムマネジメント力も求められます。
マインドセットの面では、主体性がカギとなります。新卒エンジニアには、勇気を持って質問し、同僚と積極的に関わる姿勢を早い段階で持ってもらいたいと考えています。また、自身のスキルに不足している部分を認識し、自ら学び補っていく「成長マインドセット」も不可欠ですね。
中島氏:ビジネス職と比較すると、エンジニアには自分の担当するサービスやプラットフォームが社内でどのように使われ、どのように他チームに影響を与えるのかを理解する力がより求められる面もあります。
そのため、自分の担当範囲だけでなく、他チームの取り組みとのつながりを理解し、それが最終的にお客さまへの価値提供に貢献していると意識することが重要になります。
──そうした求める要素に対して、ここ数年で若手層の志向の変化は見られますか?中島氏:はい、ここ数年の新卒エンジニアを見ると、新しいテクノロジーを積極的に取り入れ、自分なりに工夫しながら業務効率を高めていこうとする志向が以前より強くなっていると感じます。その象徴が、AIツールを日常的に使いこなしている点です。AIを前提に物事を考えられることが、スキルアップや「成長マインドセット」の習得を後押ししています。
また、私たちのプログラムでは、新卒エンジニアが「Rakuten AI」(自社が開発したエージェント型AIツール)を活用して生産性を高める方法を学べるようにすると同時に、独自の視点やアイデアも活かせるよう、バランスの取れた学習機会を設計しています。
社内ビジネスアイデアコンテスト「R-Pitch」で中途入社者も刺激を受けている
──新卒社員向けとは別に、中途入社者向けに取り組んでいることもあるのでしょうか?チャウ氏:中途入社者向けのオンボーディングプロセスは、既存のスキルをできるだけ早く新しいチームで発揮してもらえるように、新卒社員向けと比べてより簡潔に設計しています。一方で、新しい環境に適応するために必要な情報やサポートはしっかりと提供しています。
新卒社員向けのオンボーディングと比べると、リアルタイムのセッションは少なく、研修の多くをeラーニング形式で提供しているため、参加者が自分のペースで受講できるようになっていますね。
社内ネットワークづくりや会社とのつながりを深めるためのWelcome Session(会社や参加者同士について理解を深める機会)やMeet Tech Leaders(シニアリーダーとのQ&Aセッションを通じて組織への理解を深める機会)なども設けています。
中島氏:現状、中途入社者向けのオンボーディングにハッカソンは含まれていません。ただ、配属後は社員が参加できる全社的なプログラム「R-Pitch」(社内ビジネスアイデアコンテスト)があります。このプログラムでは、さまざまな部署の参加者が協働して新しい企画を開発します。
「R-Pitch」は、社員の起業家意識をグループ全体で育成するために2017年12月から始まった新規事業インキュベーション・プログラムです。社員が自分たちのビジネスアイデアの実現に向けてチームを組成し、企画を作り上げていきます。精査したアイデアを経営陣にプレゼンし、認められた暁には資金が提供され、事業化を本格的に進めることができます。2019年には「R-Pitch」から生まれた新規サービス「Rakuten Pasha」をローンチしました。
このプログラムに加わる中途入社者は、エンジニア職とビジネス職が共同で、「楽天エコシステム」に加わる可能性のある新しいサービスをともに考えたり、スタートアップのような環境の中で一緒に学んだりできます。中途入社者も実際に刺激を感じてくれているようです。
──ありがとうございます。今後のエンジニア育成と早期活躍に向けた展望も教えてください。チャウ氏:テクノロジーは常に進化しています。業界の重要なトレンドに合わせてプログラムを継続的に改善しつつ、新卒エンジニアが変化の激しい環境の中でも柔軟に適応し、効果的に協働できるよう、安定的なソフトスキルの基盤を築けるよう取り組んでいきたいです。
今後の重点分野の一つは、オンボーディングにおけるAIのさらなる導入です。新卒エンジニアには、単にツールに慣れるだけでなく、状況に応じて最適なAIツールを選択し、最大限に活用できる「AIリテラシー」を身につけてもらいたいと考えています。
中島氏:私たちの目標は、新卒社員がスムーズに社会人生活を始め、新しい技術を生み出すグローバルなエンジニアとして大きく成長できるよう、お手伝いすることです。そのために研修内容はもちろんのこと、新卒社員の「同期」のつながりをつくる機会も、さらに強化していきたいと思っています。同期との関係が、人として、また仕事人として成長する上でとても大切だと考えているからです。
充実したオンボーディングプログラムを通して、新卒社員が自信を持って仕事に取り組み、変化の速い技術の世界に適応できるエンジニアへ育っていくことを楽しみにしています。
【取材後記】
取材を通して印象的だったのは、「知識を与える」ことよりも「実践の機会を与える」ことに強いこだわりがある点でした。技術研修に加え、英語での発信やチームでの創造活動、そしてハッカソンという総仕上げまで、全てが新卒エンジニアの自信と主体性を引き出すよう設計されています。研修は“イベント”ではなく“最初の成功体験をつくる場”である──そんなメッセージが強く心に残りました。
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企画・編集/森田大樹(d’s JOURNAL編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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