応募者が面接後に、選考内容や面接官の対応についてSNSに投稿する──。こうした事態は、もはや珍しいものではありません。

日本ではSNSの利用者数が1億200万人に達しており、総人口から見ても、8割超はSNSに接しています(※1)。こうした時代に、「個人の発信」は採用活動と切り離せないリスク要因の一つになっているのです。

では、応募者によるネガティブな投稿に対し、企業はどこまで関与できるのでしょうか。人事・労務問題やインターネット上のトラブル対応に詳しい弁護士法人プロテクトスタンスの正畠大生弁護士は「対応を誤れば、企業イメージをかえって損ねるおそれもある」と指摘します。どんな投稿内容なら対応すべきなのか?企業側で投稿者(アカウント保持者)を特定し、削除を求めても問題はないのか?人事・採用担当者が理解しておくべき、法的根拠に基づく実務対応のポイントを聞きました。

※1 出典:令和5年版 『情報通信白書』

その投稿は名誉毀損にあたる? 個人の感想に過ぎない?

──最近では、選考を受けた応募者のSNSアカウントをリサーチし、問題のある投稿をしていないかを確認する企業も増えているようです。人事・採用担当者がこうしたリサーチを行うことは問題ないのでしょうか。

正畠氏:SNSの投稿とは公に公開されているものです。インターネットにアクセスして誰でも調べられるものをリサーチすること自体は、まったく問題ありません。

ただし、やり方によっては企業イメージを損ねるリスクがあることも認識しておくべきです。たとえば、いわゆる鍵アカウント(※2)になっているものについて、その人のフォロワーへアプローチしてリサーチするなどの行為は、慎重な判断が求められます。

※2 SNS上の投稿を閲覧できる対象者を自身のフォロワーに限定する、非公開アカウント設定の一種

「面接官の態度最悪だったw」は“名誉毀損”か“個人の感想”か?対応すべきSNS投稿の見極めと対処法【弁護士監修】
──自社の選考内容に関する投稿や、企業のイメージダウンにつながるような投稿を見つけた際、どのような内容だったら対処すべきなのでしょうか。

正畠氏:どの程度の書き込みなのかが判断のポイントとなります。

たとえば「◯◯社の面接を受けた。面接官の態度が悪かった」と、企業名を特定して書かれていたとしましょう。企業としてはイメージダウンにつながりかねない内容だと感じると思いますが、「面接官の態度が悪かった」という投稿自体は、個人の主観的な感想に過ぎません。これだけでは名誉毀損にあたるとは言えず、法的な対応は難しいです。

名誉毀損にあたるかどうかの判断では、虚偽の内容が含まれていることが大きな要素となります。面接官の態度が悪いと感じた背景として、たとえば「面接官がガムを噛みながら面接していた」などと書いてあり、それが事実でない場合には名誉毀損にあたる可能性があるので、企業として対応すべきでしょう。

こうした虚偽の内容が含まれていない場合は、名誉毀損に思える内容でも「個人の感想に過ぎない」「一般的な評価を受けているに過ぎない」と認識するしかありません。

──社名のみならず、人事・採用担当者の個人名まで掲載されている場合はどうでしょうか?

正畠氏:この場合は企業として、個人情報保護の観点から放置すべきではありません。投稿者(アカウント保持者)に対して「個人情報を出さないでください」と通知し、削除を求めるべきでしょう。

アカウント特定・削除要請・法的対応などのポイント

「面接官の態度最悪だったw」は“名誉毀損”か“個人の感想”か?対応すべきSNS投稿の見極めと対処法【弁護士監修】
──名誉毀損や個人情報漏えいにつながるSNS投稿を見つけた際は、応募者本人にアカウント確認を行っても問題ないのでしょうか。

正畠氏:確認すること自体が違法になるわけではありません。虚偽の内容を含む名誉毀損が行われている投稿なら、その応募者はもはや採用の対象ではなく、法的な対応が必要となり得る対象のため、アカウントを特定して対応することを推奨します。

──応募者情報などから投稿者が誰なのかを判断できる場合は、本人に直接確認しても問題ありませんか?

正畠氏:「アカウント名に本名の一部が含まれる」「本人と思われる写真がある」「投稿内容や投稿時間が面接直後である」など、その応募者本人の可能性が高いと判断できる場合は直接確認しても問題ありません。

ただ、疑わしいものの確証がない場合には、一般的には開示請求をして特定することが望ましいとされています。

この対応は速やかに行うべきです。IPアドレス(※3)は2~3カ月経つと確認できなくなる場合があり、対応が遅れると発信者情報開示などに影響があるためです。また、時間の経過とともに元の投稿内容が拡散されるおそれもあります。

※3 インターネットに接続するパソコンやスマートフォンに割り当てられる識別番号

──企業からの発信者情報開示請求はスムーズに進むものですか?

正畠氏:名誉毀損の事実が認められなければならないので、開示請求のハードルは高いです。いわゆる捨て垢(※4)で、メールアドレスが誰のものかわからない場合は、特定に時間を要することもあります。SNS事業者によっては開示請求への対応自体に前向きではないこともあるのです。

とは言え、企業自身で投稿者を特定できない場合は開示請求しか手立てがありません。専門家に助言を求めるなどして、粘り強く対応していくしかないと思います。

※4 「捨てアカウント」の略。登録時にフリーメールのアドレスなどを用い、個人を特定しづらいようにして作成されることが多い

「面接官の態度最悪だったw」は“名誉毀損”か“個人の感想”か?対応すべきSNS投稿の見極めと対処法【弁護士監修】
──応募者本人に直接アカウント確認をする場合は、どのような方法が適切ですか?

正畠氏:電話や対面で口頭のみのやり取りをするよりは、文書のやり取りで確認事項を通知したほうがよいと考えられます。口頭のみだと、「電話口で不適切な対応を受けた」などと言われてしまい、別のトラブルに発展する可能性もあります。

正式な書面による通知文とするか、メールなどのテキストツールで通知するかなどバリエーションがあるものの、いずれにしても何らかのやり取りの記録が残るようにするべきでしょう。

──投稿者が応募者本人だと確認でき、投稿を認めた場合には、削除要請をしても問題ありませんか?

正畠氏:もちろん投稿の削除を要請しても問題ありません。虚偽の内容を含む名誉毀損や、個人情報が含まれている場合は、間違いなく削除してもらわなければいけません。

そこまでのレベルではないとしても、会社として望ましくない内容が含まれている投稿について、投稿者に「削除してください」とお願いすること自体は法的に問題ないのです。

とは言え、企業からの「お願い」の段階では、投稿者に拒否されてしまうこともあります。名誉毀損や個人情報漏えいの問題がある場合は、法的には投稿者に削除する義務があるため、削除を求めて裁判を起こすのも一つの選択肢です。

──すでに元の投稿内容が拡散されてしまっている場合は、どうすればいいでしょうか?

正畠氏:「名誉毀損の内容にリポストや引用で同調する行為も名誉毀損にあたる」という裁判例が出ています。この裁判例を根拠に、元の投稿内容を拡散している人に対しても削除を求めることができます。

ただ、広範囲に拡散されている場合は、一つひとつのアカウントを特定して対応するのは現実的に難しいでしょう。元の投稿者の名誉毀損が法的に裁判所で認定された段階で、その事実を踏まえて企業側から広く周知し、名誉回復を図っていく必要があります。

自社からの発信で「こんな情報が出回っているが、事実ではない」と世の中へ伝えることが大切です。

入社承諾後にSNS投稿を発見した場合、「採用取り消し」はできるのか?

──入社承諾者が名誉毀損や個人情報漏えいに該当する投稿をしているのを発見した場合は、採用を取り消しできるのでしょうか?

正畠氏:法的に名誉毀損にあたる内容を投稿していたり、個人情報を漏えいしていたりする場合は悪質性が高く、「自社の就業規則に違反している」などの理由で採用取り消しができる場合もあります。

ただ、悪質に思える事案でも、本人に悪意はなく、誰かの個人情報を「うっかり漏えいしてしまった」というケースもあるでしょう。

こうした場合に採用取り消しをしてしまうと、法的にも社会的にも「処分が重すぎる」と見られる可能性もあります。これは「名誉毀損なのか、個人の感想に過ぎないのか」の判断が微妙な場合にも当てはまります。

──企業としては、釈然としない思いが残る状況になってしまうかもしれませんね。

正畠氏:企業側の気持ちはよくわかります。しかし、採用条件通知書を出すという行為は企業と個人の契約締結であり、契約の取り消しにはそれだけ重い判断が求められるのも事実です。問題のある投稿を調べ、対応をするのであれば、採用条件通知書を出す前に進めるべきでしょう。

SNSが普及して以降、アルバイト従業員などが勤務中の不適切な行為をSNSに投稿して炎上する、いわゆる「バイトテロ」と言われる事案も頻発しています。企業側に明白に大きな損害を与えている場合は解雇が認められることもありますが、これさえもケースバイケースで慎重な判断が求められるのです。

採用の取り消しを検討せざるを得ない状況になってしまった際には、労働問題を多く手掛け、専門的な知見を持つ弁護士へ相談することを推奨します。

現実的な対策は「自社の情報発信を充実させる」こと

──こうした一連の対応を進めていく際、対応者は人事・採用担当者部門の担当者で問題ありませんか?

正畠氏:応募者に対して確認する限りでは、人事・採用担当者で問題ないと思います。

ただ、企業のイメージを侵害するような投稿や、従業員の個人情報をさらしているような投稿に対応する場合は、専門的な知見を持つ法務部と連携して対応するのが望ましいでしょう。

中小企業の場合は法務部門を設けていないケースもあるかと思います。投稿内容が名誉毀損にあたるか、開示請求ができるかなどは、専門の知見を持つ弁護士に相談してください。

中小企業の場合は中小企業庁が窓口となり、相談に対応してくれる場合もあります。

「面接官の態度最悪だったw」は“名誉毀損”か“個人の感想”か?対応すべきSNS投稿の見極めと対処法【弁護士監修】
──実際に問題が発生してからの対応の手間や時間を考えると、「こうした事態にまで至らないようにする」ことが大切だとも感じました。

正畠氏:その通りだと思います。

こうした問題は人間関係のもつれから生じていることがほとんどです。昔は企業が選ぶ側で、応募者が選ばれる側という立場でした。しかし現在は、応募者に対して「労働契約を結ぶ相手方」との認識を持ち、企業として好印象を残せるよう努めなければならない時代です。採用成功はもちろんのこと、誤解を招きかねない面接官の態度を防ぐためにも、こうした意識を社内に醸成しなければなりません。

また、採用に関する情報は企業の重要な内部情報なので、募集要項を発信する段階から「SNSなどへの投稿は控えてほしい」と応募者へ注意喚起をしていくことも大切です。特に個人情報の投稿などは「厳に慎んでください」といった伝え方でお願いすべきでしょう。

ただし、SNSへの投稿そのものを否定的に言ってしまうと、応募者の良い体験も共有されなくなってしまうかもしれません。自由な感想を言うこと自体が許されないとなると、過度な制限を設けている企業だと受け取られる可能性もあります。伝え方に注意しながら、それでも応募者に守ってほしいことを理解してもらう必要があります。

そもそも、企業側で外部の誰かの発信内容を管理しようとするのには限界がありますよね。自社の情報発信を充実させることが、日ごろから取れる、より現実的な対策だと思います。

普段から企業側で充実した情報を発信していれば、何かトラブルが起きた際にも世の中から信頼してもらえる要因となります。発信量の多さはオープンな企業イメージにつながるのです。採用に関することも、日ごろから積極的に発信しておくことが大切ではないでしょうか。

【取材後記】

今回の取材を通じて強く感じたのは、SNSトラブルへの対応は「法律の問題」である以前に、「採用の姿勢」が問われているという点でした。応募者の投稿をどう扱うかという議論の裏側には、企業と個人の関係性の変化があります。正畠さんの言葉からは、企業が誠実な情報発信を続け、信頼を積み重ねることの重要性がにじみ出ていました。採用活動は、「選ぶ」「選ばれる」の関係ではなく、対等な契約の入り口である。その意識を持てるかどうかが、トラブルを未然に防ぐ最大のポイントなのだと感じさせられる取材でした。

企画・編集/酒井百世(d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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