先が読めない不確実な時代に、私たちはどこを目指し、どんな組織をつくっていけばいいのか――そのヒントを探る、「星野リゾート」代表の星野佳路さんと、俳優、映像プロデューサーのMEGUMIさんの対談企画、第2回。本稿では、「地域の魅力をビジネスにどう生かすか」と「核となるチームをどうつくるか」に焦点を当てます。
初のカフェ出店、今振り返れば一つの「失敗」
MEGUMI:私は金沢市のひがし茶屋街で、古民家をリノベーションした「CAFEたもん」を8年ほど運営しています。私にとって初めての飲食業であり、やりたいことが多すぎて、最初はつくり込みすぎていました。それは明らかに私の“失敗”だったと思います。ロサンゼルスのカフェ文化も取り込みたいし、日本のおもてなしのカルチャーも打ち出したいし、伝統工芸を大切にして……と詰め込みすぎていたんですね。街の中に放たれる違和感のようなものもあったと思います。
そこから、お客さまが求めるものはどのようなものだろうという視点を持ち、少しずつ削ぎ落としていきました。星野さんも地方で多くの施設を運営されていますが、“街をリスペクトした宿づくり”というものはやはり意識されているのでしょうか?
星野佳路(以下、星野):僕は、街の中での自分たちのあり方というものはあまり意識していないんです。それよりも「私たちから見た地域の魅力とは何か」を表現することが大切だと思っています。つまり、地域の魅力を自分たちはどのように捉えているか。そもそも地方の方々は、自分たちが暮らす土地の本当の魅力に気づいていないことが多いとも感じます。
MEGUMI:それは本当にそう思います。
自分たちが地域で表現したいものを優先する
星野:「私たちがここで表現したいものはこれだ」ということを僕は大事にしたい。お客さまが求めるものばかりを追ってしまうと、最終的に出来上がるものは競合他社と同じになってしまうんですよね。コモディティ化は、競争する全参加者が顧客ニーズに応えるというマーケティングの基本をやり尽くすことで起こります。そうなると、結局価格差だけで勝負が決まる世界になってしまう。それよりも「自分たちが誰に何を提供したいのか」ということを大事にしています。「自分たちが見たその地域らしさとは何か」という視点から魅力を発想するとコモディティから抜け出し、個性あるサービスを提供することができます。
MEGUMI:今は圧倒的に海外の方も増えたと思いますが、何か変化はありましたか?
星野:もちろん変化はありますが、海外からのお客さまは究極的には日本人にウケているものを“本物”として見ていると考えています。「海外の人に向けたサービスを生み出す」という考え方もありますが、それは海外からの旅行者が求めているものではないと思うんですね。
大切なのは「誰もがひれ伏すような感覚」
星野:日本人に受け入れられていることこそが本物の証であるわけで、偽物にならないようにしたい。今日、(対談のために)いらしていただいた「星のや東京」は、今7割ほどが海外のお客さまですが、3割いらっしゃる日本のお客さまの存在がすごく大事だと思っていて。日本人の目利きの方々が支持しているからこそ、海外から日本文化に関心の高い方々が足を運んでくださる、というパターンをつくっていかなければいけない。日本人の目が一番厳しいですから、日本人に支持され「本物であり続ける」というのが一番大切なことだと思っています。
MEGUMI:“本物”を出せば誰もがひれ伏すということは分かります。
星野:その感覚こそが、実はすごく大事なんです。「星のや東京」をオープンする時に、入り口で靴を脱ぐスタイルに決めました。それによって「ホテルに入ってきた」というより「日本旅館に入ってきた」という感覚になる。入り口で靴を脱ぐ瞬間に、どこか違うところに来た、という体験をすることができる。それは同時に、「僕らの土俵に上げる」ということでもある。
MEGUMI:確かに、入り口を抜けた時にいい意味での緊張感がありました。ピリッと崇高な空気が、まさに本物の証である気がしましたね。私は今、東京とは別にスペインのバルセロナにもう一つの拠点があるので、海外にいることで、より日本を知りたくなるという感覚があります。日本について知らなすぎたと思わざるを得ない場面も多々あり、日本について突き詰めて考えることで、より世界とつながりやすくなるような感覚もあって。海外に行ったからこそ、改めて日本と出会っているな、と感じる場面もあります。
コアメンバーは3人。プロジェクトごとに50人または100人
MEGUMI:私は今、映像プロデューサーとしてスペインやフランスのチームと共同制作を手がけていて、毎回、異なる座組で仕事をしています。
星野:1991年に軽井沢の温泉旅館を引き継いだ時、一番苦労したのはスタッフの採用でした。当初リクルーティングはすべて自分で行っていましたが、地方の無名な会社に就職してくれる大卒の方はほとんどいなかったんですね。観光地の宿泊施設での仕事は休みが少なく、給料が高くない時代でしたから。
ただ、この最も大変だったその時期に、今も続く星野リゾートの仕組みが出来上がっていきました。なんとかいい人に入ってきてもらいたい。できれば長く働いてもらいたい。星野リゾートで働いていた時期は、自分の人生の中で良い時間だったと思ってもらいたい──。今も星野リゾートの基礎となる理念は、90年代に出来上がりました。
今ではたくさんの方々に入社してもらえるようになり、観光産業の競合他社に比べると定着率も高い。根底にある文化を今も少しずつ進化させながら、約5,000人いる正社員みんなが楽しく仕事を続けることができる環境を真剣に目指しています。
権限を持つ人はいても“偉い人”はいない
MEGUMI:素晴らしいですね。「人」が一番難しい、と言いますか。
星野:私たちが大切にする「フラットな組織文化」について、先ほどもお話をしましたが、人間関係を本当にフラットにする秘訣は、権限を持っている人はいるけれど、“偉い人”はつくらないということ。なので、代表である僕には会社の車もないですし、専用のオフィスもありません。毎日空いているスペースで仕事をし、会議をして。偉い人信号と呼んでいますが、組織内からそれをなくしていくことに努力してきました。
MEGUMI:確かに、星野さんのその動きを皆さん見ていますしね。
星野:「エンパワメント理論」を提唱した、元マサチューセッツ大学教授で経営コンサルタントのケン・ブランチャード教授は、経営トップが覚悟しない限り真のエンパワメント組織はつくれないと言っています。MEGUMIさんは、プロジェクトごとに毎回メンバーがパッと集まってくれる感じなのですか?
MEGUMI:毎回つくるものが違うので、基本となる仕組みがない中で束ねて、終わったら「次に行こう!」とまた新たなスタートを切ります。芸能界で生きてこられた方々は皆さんしっかりと主張されるので、まとめ上げるのは大変ですし、毎回笑ってしまうくらい問題はありますよ。でも、最後はみんなで泣きながら「お疲れさま」と言って乾杯をする。プロジェクトごとにさまざまな感情が芽生えますが、「この映像を絶対にカッコいいものにする」という一つの目標に向け、長い時間をかけ走り抜ける。
星野さんとは異なり、一期一会のチームづくりとも言えますが、目指している方向や掲げている目的はみんな同じ。
スペシャル対談 第3弾の公開は、2026年3月23日(月)です。どうぞお楽しみに!
[doda人事ジャーナル編集部]

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