メンタル不調によって1カ月以上の休職、あるいは退職に至る従業員の割合は増加傾向にあります。特に若年層では不調経験率が増加傾向にあり、離職につながりやすい傾向が指摘されています。
人事や管理職は、メンタル不調のどのような兆候に注目するべきなのか。また、従業員へどのように関わり、どんな言葉をかけていくべきなのか。メンタル不調を悪化させるNG対応や、職場で実践できる予防・再発防止のポイントを聞きました。
若手に顕著なメンタル不調。新卒1年目の20%が休職しているケースも
──メンタル不調によって休職や離職につながる人の数は増加傾向にあると見られます。堤さんは近年の状況をどのように見ていますか?堤氏:ご指摘の通り、メンタル不調で休職や離職に至ってしまう人は、ここ20年で右肩上がりになっています。
企業ごとのデータはあまりオープンになっていませんが、公立小・中・高校に勤務する教員など、公開されているデータでは明確に増加傾向にあるのです。
堤氏:はい。多くの若手がメンタル不調に陥っている状況は、企業の将来にとって大きなリスクです。企業によっては、新卒入社したばかりの1年目従業員の20%が休職しているようなケースもあります。
また、若手のメンタル不調は上の世代にも影響します。部署の人員減によって業務負荷が高まることに加え、上司・先輩としても「若手をメンタル不調に陥らせてしまった」ことへの責任を感じてしまうでしょう。こうした心理的負担が、管理職層の疲弊にもつながりかねません。
企業の多くでは、中間層が空白化した状況も顕在化してきています。フットワークが軽く、前線でプレイングマネージャーとして活躍できるような入社10年目前後の人材が好条件を求めて転職する動きが加速し、残った中間層に負担が集中しているのです。高いプレッシャーの下で、若手だけでなく、幅広い世代にメンタル不調が拡大していく恐れもあります。
世代別のメンタル不調理由と、4つのストレス要因
──なぜ、はたらく人がメンタル不調に陥ってしまうのでしょうか。きっかけや要因を教えてください。堤氏:世代別に見ていくと、さまざまな要因があります。
20代では、そもそも必要な基礎スキルが足りなかったり、自分の特性・能力と業務がマッチしていなかったりして、仕事内容に悩む人が少なくありません。
いわゆるタイパ志向(タイムパフォーマンス重視)もメンタルに影響することがあります。若手の中には、キャリアを早期に構築したい、スキルを身に付けたいという傾向が強まっており、違和感を覚えた段階で立ち止まるケースも見られます。入社前に抱いていた期待と実務とのギャップが想像以上に大きく、戸惑う人も少なくありません。
また、意外と無視できないのが「生活面の変化」です。実家暮らしが長い場合、生活リズムや食事管理を自分で整える経験が少ない人もいます。良いか悪いかはさておき、たとえば昔は職場の先輩が遅くまで飲みに連れていってくれて、そこで食事もとっていた。生活のちょっとした悩みも相談できていた。それこそ、上司が親代わり、先輩が兄・姉代わりになっていることもありました。でもいまはかつてのように、上司・先輩がいろいろと面倒を見てくれる状況はなくなりました。
堤氏:30代では、育児・出産はもちろんですが、盲点として不妊治療の影響が出ることがあります。不妊治療が保険適応になったり、会社の補助が出るようになったりしたこともあり、以前より治療を受ける人が増えていますが、治療そのものが本人や家族にとって大きな負担となることはあまり知られていません。精神的、時間的、体力的に負担がかかり、出産へのプレッシャーも相まって不調になってしまう方は一定いらっしゃいます。
40代以降は仕事面でも家庭面でも責任がさらに重くなり、育児に加えて介護や相続問題に直面する人もいるでしょう。50代では自分自身の健康問題が顕在化することもあります。
このように、メンタル不調に陥る要因は各世代に潜んでいるのです。
──こうした要因の積み重ね以外に、何かしら突発的な出来事がメンタル不調の引き金になることもあるのでしょうか。堤氏:はたらく人のストレスは、基本的に「業務」「人間関係」「環境」「プライベート」の4つに大別できます。
「業務」は自分の仕事内容が自分でこなせるものなのか。「人間関係」は上司や同僚との関係が良好か。「環境」はリモートワークなどの働き方の変化に適応できているか。「プライベート」は育児・介護・健康・お金などの問題を抱えていないか。
たとえば若手の場合、業務に起因するストレスがメンタル不調の引き金になることも多いですね。苦手な業務が引き金になることもありますが、キャリア形成を意識しすぎるあまり、本人の業務への捉え方が極端になってしまうこともあります。「これで成長できているのか?」とむやみに焦ったり、実際には一定できて評価されているのに、「自分はできていない」と思い悩んでしまったりすることがあるんです。「もっとできる同期」や「理想の自分」さらには「SNSなどで見かけたキラキラ同世代」と比較した結果、「もっと頑張らないとキャリアが終わる」と落ち込んでいってしまうのです。
──従業員に対して、人事や管理職がついやってしまいがちな「NG対応」はありますか?堤氏:表向きの指導やマネジメントの場面でいうと、やりがちなNGは若手に対して「とりあえずやってみようよ!」と言ってしまうことです。そうすると、若手は「上司から見放された」と感じてしまう可能性があるのです。
上司としては「やってみないと結果がわからないこともあるよ、何かあればサポートするから思いきって挑戦してごらん」という意図で、良かれと思って言っているのかもしれません。でも、言い方一つでその意図は大きくねじ曲がって伝わってしまいます。
若手の中には、「未知回避」や「失敗回避」の傾向が見られる場合もあります。知らないことや失敗に対して慎重になる傾向が強まっているとも指摘されています。たとえば、食事に行く前にレビューを確認したり、知らない場所へ行く際に地図アプリを活用したりすることは、今では一般的になっています。新しいことに挑戦する際も、事前に情報収集をする人が増えています。
そうした志向を持つ世代にとって、「失敗から学べることもあるよ」という言葉は、必ずしも前向きに受け取られるとは限りません。十分な情報や見通しがないまま行動すること自体に、不安を感じる人もいます。とくにキャリアに直結する場面では、その傾向が強まることもあるでしょう。まずは、こうした価値観を理解するところから始めることが大切なのではないでしょうか。
「食う・寝る・遊ぶ・考える」にメンタル不調の兆候が現れる
──ここからはメンタル不調を未然に防ぐ方法についてお聞きします。周囲が注目すべき「メンタル不調の兆候・サイン」には、どのようなものがありますか?堤氏:メンタル不調の兆候は「食う・寝る・遊ぶ・考える」に現れます。これらはメンタル不調の一歩手前の黄信号だと思ってください。これらは、人事や管理職が従業員の変化に気づくための視点であると同時に、本人がセルフチェックする際の指標にもなります。
「食う」では、食欲の変化や飲酒量の増加がないかが目安になります。直接確認できるものではありませんが、顔色の変化や体重の急激な増減、雑談の中での発言などから変化に気づくこともあります。1~2日であれば問題ありませんが、2週間以上続いている場合は注意が必要です。
「寝る」は、睡眠の質の変化です。これも本人にしかわからない部分ですが、朝の表情や日中の強い眠気、遅刻の増加などがヒントになることがあります。
「遊ぶ」は趣味の活動ができているか、あるいは趣味に取り組む気持ちがあるかを見てください。
「考える」は、その人が普段通り考えられているかを見ます。メールやチャットの返信スピードが普段よりも明らかに遅い場合は要注意かもしれません。
──さらにメンタル不調が切迫している「赤信号」の状況とは?堤氏:こうした状態を「KAPEサイン」として紹介しています。Kは「勤怠」、Aは「安全」、Pは「パフォーマンス」、Eは「周囲への影響」です。
急な遅刻や欠勤が増えたり、不注意によるミスが頻発したり、仕事の質が明らかに低下したり、急に怒りっぽくなったり。こうした状態が顕著になっていたら、早急に産業医や精神科医などの専門家を頼ってください。
──ただでさえ業務負荷が高まる中、現場の管理職がこうしたサインに気づけないケースもあるのではないでしょうか。堤氏:そうですね。管理職に頼りきりでは限界があると思います。メンタル不調に関するメンバー全体の理解レベルを底上げする必要があるでしょう。
はたらく人は、自分自身の「食う・寝る・遊ぶ・考える」の状態をセルフモニタリングできるよう、何らかのルーティンを持つことが大切だと考えています。
私の場合は、週1回ジムに通っているのですが、このペースを守れなくなったら黄信号。また、メールの未読が5件程度ならOKですが、「10件未読が積み重なったら要注意」と自己認識するようにしています。
堤氏:1on1のように、上司と部下が本音で会話できる場を持つことが重要です。ただし、業務進捗ばかり聞くような無機質な1on1だと、部下は「この仕事は自分じゃなくてもできる」とネガティブに感じてしまうかもしれません。
予防医学研究者の石川善樹さんは、1on1などの場で「3つのしごと」、つまり「仕事」「志事」「私事」について会話することが重要だと指摘しています。
「仕事」は、今の業務が部下にとって成長や気づきになっているか。「志事」は、今の業務が部下のキャリアにとって有益なものになっているか。「私事」は、趣味などの活動を楽しめているか。ついでに「食う・寝る・遊ぶ・考える」について聞いてもいいでしょう。
この3つについて質問していけば、上司が部下を業務遂行のリソースとしてではなく、一人の人間として向き合っていることが伝わるはずです。
人事は、管理職がこうした質問を1on1で展開できるよう、スクリプトを作成するなどしてサポートするべきだと思います。
メンタル不調からの復帰を支えるのは、配慮ではなく「合理的調整」
──すでにメンタル不調に陥っている人から相談を受けた場合、人事や管理職はどのように対応すべきでしょうか。堤氏:人事や管理職ができることは、治療ではありません。できるのはあくまでもケアでありマネジメントです。「吐き気がする」などの症状を改善することはできませんが、その原因となっている業務負荷を調整するなど、ボトルネックを取り除いていくことはできるはずです。
「今、しんどいんだね。どこがボトルネックになっているの?」と聞き、そのボトルネックとなっているリソースを見直していく。それが人事や管理職の役割だと認識してください。
──メンタル不調の人への対応におけるNGは?堤氏:「腫れ物扱い」や「極端な配慮」は絶対にNGです。
これは、自閉症スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)などのいわゆる発達障害がある人への対応でも重視されていることです。「この人は病気だから」と腫れ物扱いすると、本人をその場にとどまらせてしまい、自分はこれでいいんだと認識して成長しなくなってしまう恐れがあります。業務を進める上で足りないスキルがあったり、改善すべき点があったりする場合は、人格を傷つけることのないように事実を事実として伝えることも大切です。
はたらきやすい環境をつくるため、先回りして調整するなどの配慮はもちろん大切なのですが、本人の成長を本気で考えるなら、本人が自ら対策や調整を行える状態を目指すべきでしょう。
合理的配慮という言葉が広まる一方で、その意味が十分に共有されていないケースも見受けられます。しかし職場で本当に必要なのは、周囲による勝手で極端な配慮ではなく、本人との対話の中で「こうしたほうがいいね」と合意する「合理的調整」なのです。
メンタル不調に陥っている人への対応でも、同じことが言えます。周囲が先回りする配慮だけでは、本人が主体的に力を伸ばす機会が減り、長期的には負担が増すおそれがあります。
あるべき理想と現状を共有した上で、先回りするのではなく、「あなたが主体になってどうギャップを埋めていくか」を話し合う。こうした対応が、メンタル不調に陥った人の復帰を支えることはもちろん、メンタル不調を未然に防ぐ上でも欠かせないと考えています。
【編集後記】
メンタル不調というと、「特別な問題」「専門家だけの領域」と考えがちかもしれません。しかし堤さんの話を聞く中で、メンタル不調の兆候は日常的な場面で感じ取ることができ、職場での何気ない一言が引き金になりかねないこともわかりました。特に印象的だったのは、善意でかけた「とりあえずやってみようよ!」の言葉が、若手には「見放された」と響く可能性がある点です。人事や管理職に求められるのは、完璧な対応ではなく、「早く気づき、対話し、合意する」こと。メンタル不調対策は福利厚生ではなく、組織運営の基盤である――そんなメッセージを強く感じた取材でした。
早期離職を防ぐためには、人事と配属先が一体となり、入社後3ヶ月以内のオンボーディング支援を進めることがとても重要です。
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企画・編集/森田大樹(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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