こう見ると面白い!投資用不動産の集計結果
こう見ると面白い!投資用不動産の集計結果

筆者:横山 幸次
保有資格:不動産鑑定士、不動産証券化マスター他

2011年大手不動産会社に入社し、売買仲介、不動産鑑定などを経験。2020年に(株)コラビット入社。
データ分析、価格推定エンジンの開発、査定書システムの企画、PMを担当した。2024年よりコラビットのデータ分析/AI開発研究室の主席調査員として業務を兼任、(株)トランジットの不動産鑑定部門の責任者。

私は新卒で不動産会社に入社し、不動産仲介、不動産鑑定評価を経験したのち、不動産AI査定の株式会社コラビットにて不動産価格推定エンジンの企画・改修に携わっています。

AI査定で大事なことは「データの質」です。特に精緻なAI査定を行うためにはデータを綺麗にしなければなりません。

例えば、あるポータルサイトに同じ物件がいくつも掲載されていることがありますね。その際、物件名がちゃんと記載されているものもあれば、<○○駅から徒歩5分!>や<リフォーム済み!希少な角部屋>などと記載されているものを見たことがあると思います。

人が見れば写真や間取図などで同じ物件と判断できますが、これを機械的に同一物件と判断させるには、実は結構複雑なロジックが必要なのです。

私どもは不動産のAI査定で日本一を自負する会社ですので、データを綺麗にする作業”クレンジング”には非常に気を使っています。
丁寧なデータクレンジングの結果、様々な実用的なデータを得ることができましたので、中でも投資用不動産の情報をよく見られる方に耳寄りな集計結果をまとめました。

今回は地域別データ数、利回りといったオーソドックスなものだけでなく、販売期間や価格改定についても集計を行っています。その中で、以下の仮説を検証したいと思います(いずれも私が仲介会社で営業をしていた時によく耳にしたものです)。

仮説① データ数が多い地域が利回りは低い?
仮説② 古い物件ほど販売に苦戦する(長期化する)?
仮説③ 価格が高い地域ほど高値チャレンジが多く値下げする?
仮説④ 販売期間が長期化すると値下げする?

※データについて
・投資用不動産ポータルサイトに掲載された区分マンション
・集計期間:2023年10月~2024年3月までの6ヶ月間
・専有面積:20~40㎡
・利回りないデータは除外

■地域別データ数、利回り相場

今回は極端な利回りの事例に影響されないよう、平均値ではなく中央値を採用しています。中央値は数値が小さいものから順に並べてちょうど中央に位置する値のことです。

例えば【1%,4%,4%,4%,30%】の平均値は8.6%ですが、中央値は4%です。

不動産データの中でも、特に利回りデータは地域別で見ようとすると数が少なく、利回り1%や30%といった外れ値も多いことから中央値を採用することとしました。

また、表にはデータ数が100件以上の地域のみ表示しています。

  • 都道府県別

都道府県別のデータ数を見てみると、東京都と大阪府が圧倒的に多く、肌感覚と同じ結果でした。次いで神奈川県、京都府、福岡県が概ね同水準となっています。築年ごとの利回りの推移をみると、東京都が他の地域に比べていかに利回りが上がりにくい=価格が下がりにくいかが良く分かりますね。

都道府県データ数利回り
全体利回り
築10年以内利回り
築10~20年利回り
築20~30年利回り
築30年超東京都4,7874.604.114.424.465.94大阪府3,3615.044.805.115.547.63神奈川県8206.104.364.845.098.35京都府8075.164.715.105.317.59福岡県7876.314.515.076.319.10兵庫県5805.284.785.335.719.15愛知県3185.124.685.20 9.84埼玉県1667.684.515.098.578.57北海道12712.726.02  12.74千葉県12310.005.056.255.2910.76出典:株式会社コラビットによる集計結果

●データの見方)神奈川県の利回り6.10%は狙い目か!?

利回り_全体を見ると、データ数3位の神奈川県が6.10%と高めです。高利回りを狙えるエリアなのでしょうか?

答えは否です。

利回りは立地の影響を大きく受けますが、それと同時に建物の築年数の影響を大きく受けます。したがって地域別の利回りを比較するときは、可能な限り築年数もそろえて比較することが重要です。

神奈川県が高くなってしまっているのは、築30年超のデータが多いためです。

築10年以内の利回りを見ると、神奈川県は4.36%と東京都に次いで2番目に利回りが低いことが分かります。世にある利回りランキングなども築年数がそろっていない場合がありますので、注釈をよく読んでいただければと思います。

●仮説検証)データ数が多い地域が利回りは低い?

データ数が多い=投資需要が旺盛と考えると、利回りが低くなりそうです。上の築10年以内の利回りを見てみましょう。

データ数が最も多い東京都では利回りが最も低いのは仮説通りですが、2位の大阪府を見ると、利回りでは下位であることが分かります。

このように、必ずしもデータ数が多い地域の利回りが低いとは限らないことが分かりました。築10年以内の利回りでは、東京都が4%台前半、神奈川県、福岡県、埼玉県が4%台中盤、愛知県、京都府、兵庫県、大阪府が4%台後半という結果でした。

個人的な見解ですが、データ数が多い地域は相場が崩れにくい(=資産性が維持されやすい)と思います。売出事例が常に多数ある状態ですので、相場も読みやすく、次々と地域内で同じ価格帯・利回り帯の事例が出てくるためです。

居住用でタワーマンションを販売する際に、同じ理屈で資産性の維持を謳うことがあります。

  • 都市別

都市別で見ても東京23区と大阪市にデータが集中していることが分かります。

築10年以内の利回りを見ると、東京23区に次いで利回りが低いのは川崎市で、横浜市、福岡市、京都市、名古屋市という順位となります。大阪市は築10年以内だと下位ですが、徐々に順位を上げて築30年超だと東京23区に次ぐ利回りの低さとなっています。

 データ数利回り
全体利回り
築10年以内利回り
築10~20年利回り
築20~30年利回り
築30年超東京23区45724.564.104.414.455.81大阪市32975.034.805.115.537.50福岡市6835.884.515.086.318.15京都市6045.184.625.135.177.72横浜市5535.904.414.775.007.98神戸市5225.214.785.325.809.00名古屋市3095.094.685.20 9.61川崎市1614.794.304.855.448.31札幌市10212.006.02  12.00

●中期保有なら利回りが上がりにくい都市を

利回りを築年ごとの推移でみると、東京23区は築30年までは非常に緩やかな上がり方ですが、福岡市は急激な上がり方となっています。現在の築30年超の物件の立地やスペックにもよるので一概には言えませんが、利回りの将来予測の参考にはなるかと思います。

例えば20年保有して売却する戦略の場合、どちらの地域で買うべきかは明白です。

●保有利回りにこだわるなら築年か場所を妥協

保有期間中のキャッシュフローを重視するのであれば、築年を妥協するのが一般的です。しかしこのように地域別で見てみると、場所を変えるという選択肢も出てきそうです。

例えば利回り5%を求める場合、東京23区だと築30年超、横浜市・川崎市でも築20年超になりますが、大阪市、福岡市、京都市、神戸市、名古屋市では築10年超で購入できます。

  • 東京23区

都心3区だけでなく、大田区や豊島区といった地域でデータ数が多いことに注目です。特に大田区は築10年以内が4.22%と高めですので、キャッシュフローを求める人にとっては狙い目かもしれません。データ数が多いので相場が崩れにくいという点でも安心です。
また、築30年を超えても5%台の地域が多いですね。

 データ数利回り
全体利回り
築10年以内利回り
築10~20年利回り
築20~30年利回り
築30年超千代田区1054.183.653.924.255.10中央区2104.343.844.074.355.25港区2964.143.724.014.084.92新宿区4144.593.904.264.415.54文京区2334.613.914.264.575.13台東区2024.504.104.474.575.62墨田区2784.484.284.504.856.12江東区2084.464.134.524.466.36品川区2554.493.874.424.515.56目黒区1264.553.884.134.465.67大田区3354.614.224.524.736.31世田谷区1924.624.004.404.686.41渋谷区2444.383.754.114.295.21中野区1135.264.294.544.586.41杉並区1815.274.134.705.016.25豊島区3074.853.984.414.785.90北区1384.554.274.604.615.61荒川区734.784.134.774.946.07板橋区2304.544.224.564.727.10練馬区1914.884.174.765.046.97足立区1155.184.305.299.477.73葛飾区864.744.454.837.107.49江戸川区406.464.304.667.096.58

■販売期間

それでは、ここから少しマニアックな集計となります。東京23区における売出事例の販売期間を集計しました。販売期間とは、広告開始時点から広告終了時点までの日数です。

気になる販売期間ですが、60日以上となっているのは23区中6区のみで、40日台の区が半数以上を占めます。

私が不動産仲介会社に籍を置いていたころ、売主様には「多くの物件は3か月以内に売れる」という肌感覚トークをしていましたが、こうして集計してみるとその半分の期間で売れているものが多いのですね。

販売期間も中央値を取っていますので、半数はそれよりも早く売れているということです。販売が2か月目を迎えた物件はもはや「売れ残り」と言えるかもしれません。良いと思った物件は早めに問い合わせないと2か月以内になくなりますのでご注意を。

一方で、築年ごとに見ると中央区・港区・江東区の築10年以内などでは90日以上となっていますので、局所的に見れば「半数が90日以内に売れる」ということも可能です。

 データ数販売期間
全体販売期間
築10年以内販売期間
築10~20年販売期間
築20~30年販売期間
築30年超千代田区1054040404057中央区2105790565251港区2966590436670新宿区4146163554770文京区2334242384344台東区2024254413141墨田区2785664583055江東区2085090359250品川区2555545613854目黒区1266964925859大田区3354742445357世田谷区1926861865978渋谷区2444862783447中野区1135047303463杉並区1816060594172豊島区3074039393743北区1384645454163荒川区734749432866板橋区2304337443944練馬区1916866639365足立区1154332891757葛飾区864747522049江戸川区404865458244

●仮説検証)古い物件ほど販売に苦戦する(長期化する)?

築年数の浅い物件は売りやすい、古い物件は売りにくい、このような感覚があるのですが、果たしてどうなっているでしょうか。

集計結果を見ると、このような傾向は見られませんでした。むしろ中央区、港区、江東区などでは築10年以内の販売期間が最も長くなっており、築年数は販売期間に影響を与えないようです。

思うに、築浅の場合は残債も多く、キャピタルゲインへの期待も高いことから高値チャレンジの傾向があるのかもしれません。また、23区では築古であっても需要が堅いため、相場で売り出せば長期化せずに成約するという事情もあるのかと思います。

今回は23区で検証しましたが、地方都市でも検証してみたいですね。

■価格改定

●発生率

まずは価格改定の発生率について見てみましょう。発生率は、各地域の事例数を分母に、そのうち1回以上価格改定を行った事例を分子に取った率です。

最も発生率が高い港区では27%の確率で価格改定が発生しています。その他の区でも20%前後が多い結果となっております。これは投資用不動産を探すにあたり知っておきたいことですね。

もし「物件はいいけど価格が・・・」という物件があれば、待つというのも一つの手です。お気に入り登録をして動向に注視しましょう。

 事例数発生数発生率千代田区1051817%中央区2093818%港区2958027%新宿区4088621%文京区2324319%台東区1993216%墨田区2765821%江東区2073718%品川区2544919%目黒区1242117%大田区3346921%世田谷区1923619%渋谷区2434719%中野区1112119%杉並区1793218%豊島区3074715%北区1382216%荒川区721115%板橋区2294218%練馬区1903820%足立区1151614%葛飾区861619%江戸川区4038%

●仮説検証)価格が高い地域ほど高値チャレンジが多く値下げする

高値チャレンジとは、価格改定前提で相場より高く売り出すことを言います。急いで売らなくても良い人だけがやっているわけではなく、「最初の1ヶ月はチャレンジで」という売主様は結構いらっしゃいます。

価格が高い地域=利回りが低い地域と置き換え、築10年以内の利回りが低い千代田区、中央区、港区について発生率を見てみます。

港区は前述の通り発生率が高いのですが、千代田区・中央区は17%と18%で、特段発生率が高いわけではなく、価格帯と価格改定発生率との間に特段の傾向はみられませんでした。23区内ではどの地域でも一定程度は価格改定が発生しているようです。

思うに、最近は不動産価格が上昇基調ですので「売っている間に相場が追い付いて売れてしまう」ということも一定数あるのかもしれません。

●仮説検証)長期化すると値下げする

販売期間が長い区の方が価格改定の発生率が高いのではないかと思いましたが、前項の販売期間が60日を超える6区(港区、新宿区、目黒区、世田谷区、杉並区、練馬区)について発生率を見たところ、他の区との差はみられませんでした。

思うに、この仮説を検証するためには長期化した事例の発生率を調べる必要がありそうです。

集計結果をみると、地域単位で価格改定が増減するわけではないことが分かりました。どの地域でも値下げする物件は一定数存在する、ということを理解して物件探しをすると良いですね。

■改定率

価格改定が発生したとき、どのくらい価格が下がるものなのでしょうか。こちらも興味深い集計結果が得られています。

全体として、概ね5%前後の結果が多いです。4000万円の物件で-200万円、2000万円の物件で-100万円程度の値下げです。

購入者の立場から見ると物足りないかもしれませんが、売主様の立場でみると、反響が芳しくないときは価格を5%下げると改善されるかもしれないという指標にもなる結果でした。

 事例数改定率千代田区17-5%中央区39-7%港区79-5%新宿区85-5%文京区42-5%台東区30-4%墨田区59-5%江東区36-4%品川区47-5%目黒区22-4%大田区67-5%世田谷区33-4%渋谷区46-5%中野区22-5%杉並区32-5%豊島区46-5%北区19-5%荒川区12-6%板橋区42-6%練馬区38-5%足立区15-7%葛飾区16-6%江戸川区2-10%

●仮説検証)販売期間が長いと価格改定率も大きくなる

こちらも地域的な傾向はみられませんでした。前にも述べた通り、この仮説の検証についても販売が長期化した事例を調査する必要がありそうです。

■改定回数

価格改定が発生した事例についてその回数を調査したところ、下のグラフの通りおよそ8割は1回のみの改定でした。2回改定する事例は17%、3回以上の事例は5%にとどまります。

発生率と合わせて考察すると、全体の8割は価格改正せずに売れる、残りの2割は価格改定するが、そのうち8割は1回の改定で売れるという結果と読み取れます。価格改定した物件は「値下げ」のバッジが表示されますが、そのような物件は時間の問題で売れてしまうと考えるのが良いかもしれませんね。

こう見ると面白い!投資用不動産の集計結果
こう見ると面白い!投資用不動産の集計結果

■売るときの戦略が見えてくる

ここまでのデータを売主目線で見ると、売却の戦略が立てられそうです。

まず販売期間については、多くの物件が40日以内で売れていることを理解し、長くとも60日以内の成約を目指しましょう。60日を超えると売れ残っている印象を持たれてしまい、大幅な指値交渉を受けることにもなりかねません。

価格設定については、もし価格改定するとしても1回だけで相場に到達するような設定がよさそうです。相場価格(不動産会社の査定価格)の5%ほど高値からスタートし、1ヶ月ほど様子を見て引き合いが少ないようでしたら価格を5%下げることにしましょう。

■まとめ

日頃よく見るポータルサイトの事例を集計してみましたが、いかがでしたでしょうか?

検証した仮説はいずれも立証できませんでした。販売期間や価格改定についてもデータ集計ができる時代になりましたので、思い込みや不動産会社の意見に囚われることなく、客観的なデータを用いて投資判断ができると良いですね。

このような知識をもって物件探しを行うと、購入検討する物件が増えるかもしれません。

また、売主の立場になった際には、是非とも売却戦略の参考にしていただければと思います。

こう見ると面白い!投資用不動産の集計結果の画像はこちら >>

筆者:横山 幸次
保有資格:不動産鑑定士、不動産証券化マスター他

2011年大手不動産会社に入社し、売買仲介、不動産鑑定などを経験。2020年に(株)コラビット入社。データ分析、価格推定エンジンの開発、査定書システムの企画、PMを担当した。2024年よりコラビットのデータ分析/AI開発研究室の主席調査員として業務を兼任、(株)トランジットの不動産鑑定部門の責任者。

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