不動産賃貸仲介における「AD」とは、オーナーが入居者を募集するために特別に行う広告の費用を指します。賃貸物件の入居者募集を効率的に進めるための選択肢のひとつですが、正しく活用しなければ、コストがかさんでしまうこともあります。
本コラムでは、不動産賃貸仲介におけるADの基本的な仕組みから、仲介手数料との違い、広告の種類、メリット・デメリット、そして活用すべき物件の特徴まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
■不動産賃貸仲介のAD(広告料)とは?
(画像:PIXTA)不動産賃貸仲介における「AD」とは「Advertisement(アドバタイズメント)」の略称で、オーナーが物件の入居者募集のために実施する特別な広告の費用を指します。
一般に不動産仲介会社が賃貸仲介にあたって通常必要とされる広告宣伝費用は、営業経費として仲介手数料の中に含まれていると解されるのに対し、ADは入居者募集にあたりオーナーの依頼に基づき、特別な広告を実施する場合に利用されます。
不動産情報サイトへの掲載など一般的な入居者募集活動にあたっては、通常ADは発生しません。
本コラムではADや広告について詳しく解説しますが、不動産投資を行うにあたって、基本的にはADに頼らずとも通常の募集活動で十分に賃貸付けが期待できる物件を購入することが重要です。
●仲介手数料とADの違い
仲介手数料は賃貸借契約成立時にオーナーが不動産仲介会社へ支払う成功報酬になります。仲介手数料には貸主と借主を合わせて「家賃1カ月分」の上限が宅地建物取引業法で定められています。オーナーもしくは入居者のいずれか一方から受け取るケースとオーナーと入居者の両方から受け取るケースがあります。
一方、ADは契約成立時(あるいは掲載時・申込時)に仲介手数料とは別で支払われる広告費用になり、法的な上限額の定めは明確にありません。オーナーからの依頼によって行う広告なので、その費用についてオーナーの承諾があった場合という一定の条件を満たしていれば、仲介会社が受領できるものとされています。ADはオーナーの全額負担となり、利用はあくまでオーナーの任意です。
不動産仲介会社のなかには、ADの名目としながらも、実質的な成約報酬として、宅地建物取引業法で定められた仲介手数料の報酬の上限を超えて金銭をオーナーに請求することができると誤解している会社も存在します。
●不動産賃貸仲介の広告の種類
物件広告にはさまざまな媒体があり、それぞれの特徴があります。代表的なものとしては、大手不動産情報サイトへの掲載(例:SUUMOやHOME'Sなど)、不動産会社が運営する自社サイトへの掲載、物件周辺でのチラシ・ポスティング、現地看板やのぼり広告などがありますが、一般的にこれらの広告は特別な広告とはみなされないケースがほとんどです。
近年ではSNS広告も増えてきていますが、その活用には慎重な判断が必要です。SNS広告を活用する場合、一般的にADが発生します。不特定多数に告知できるというメリットがある一方で、物件への興味関心が高くない層にも広く表示されるため、費用対効果の観点からは決して効率がいいとはいえません。
むしろ、物件を積極的に探している層や物件の近隣に住む層など、より成約につながる可能性が高い層への効果的なアプローチができる広告媒体に費用を集中させるほうが効率よく広告運用をできる可能性が高いです。
■不動産賃貸仲介でADを設定するメリット
広告宣伝を行うことでより多くの人に対して物件情報を見てもらうことができるため、広告を実施しない場合と比べて、短期間での成約やより高い賃料で成約できる可能性が高まります。
ただし、周辺の賃料相場と大きく乖離した条件で広告を行っても成約にはつながりにくくなります。その後成約に至らずに募集条件を変更した場合、売れ残り物件としてネガティブな印象を与えてしまうケースもあります。
ここでは、広告を活用することで得られる主なメリットを3つ紹介します。
●閲覧頻度が上がる
毎年1月から3月頃にかけては4月からの新生活に向けて、進学や就職、転勤など人の移動が多い時期になり、それぞれの不動産情報サイトでも膨大な数の募集物件が掲載されます。
そこで、ADを設定し広告を行うことによって、多くの物件がある中でも露出が増え、入居希望者の目に留まりやすくなるといった大きな利点があります。掲載順位の上位表示や特集ページへの掲載など、物件の視認性を高める施策によって、閲覧数を増やすことができます。閲覧数の増加は、問い合わせ数の増加、ひいては成約率の向上にもつながる可能性が考えられます。
●物件の特長を伝えやすくなる
不動産情報サイトに掲載される物件の写真には、ルールが決められており、そのルールの範囲内で外観や内観の掲載をしています。写真の枚数や掲載できる情報にも制限があるため、物件の魅力を十分に伝えきれないことがあります。
そこで広告を活用することによって、不動産情報サイトと異なる見せ方を利用することができます。例えばリノベーション物件であれば内装のこだわりや、眺望が良い物件であれば実際の景色を動画で見せることなどで入居希望者の関心を引きやすくなります。通常と異なる見せ方を利用することで、その物件の特徴をより伝えやすくなる場合があります。
●データ分析による戦略改善ができる
広告の閲覧数や問い合わせ件数などのデータを分析することで、現在行っている募集活動の改善点を洗い出すことができます。
例えば、閲覧数は伸びているものの問い合わせには至らない場合は、外観や内観など視覚的要素には一定の魅力があるが、賃料や敷金、礼金などの条件設定に課題がある可能性が考えられます。
このような分析結果をもとに募集条件を見直すことで、成約につなげられる可能性が高まります。
■不動産賃貸仲介でADを設定するデメリット
ADを設定して広告を行うにはメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。前述した通り、ADは仲介手数料とは別で支払いが発生するため、オーナーが支払うコスト面への影響と、それに見合った費用対効果が見込めないケースについて理解しておく必要があります。
まず、広告料を支払うとその分費用が上乗せされ、キャッシュフローに影響します。賃料設定が適切で需要のある物件には、基本的にADを設定する必要はありません。通常の募集活動で入居者が見つかる物件であるにもかかわらず広告を行っても必要のない費用を支払うことになります。
また、空室期間の想定と費用対効果を検討せずにADを設定すると、費用に見合った十分なメリットを受けられない可能性があります。例えば、賃貸需要のある物件で2カ月程度の期間があれば通常の募集でも十分に入居者付けができるだろうと想定される場合に、家賃3カ月分のADを支払って特別な広告を実施しても広告を行う意味がありません。
あくまで、結果論なので一概には言えませんが、ADを設定する際には空室が続いた場合の機会損失とADのコストを比較し、総合的に判断することが重要です。
■不動産賃貸仲介のADの費用相場
一般的なADの費用相場は家賃の1~2カ月分程度といわれています。ただし、これはあくまで目安であり、所有している物件の条件や入居募集する時期、実施する広告の内容によって変動します。競合が激しいエリアや繁忙期には3カ月分以上かかるケースもありますが、相場を把握したうえで設定することが重要です。
そもそも費用は広告の媒体や掲載する期間によっても異なります。
■不動産賃貸仲介でADを設定すべき物件の特徴
ここまで紹介したように、ADを設定すべきかどうかは、所有している物件によって異なります。以下からは、ADを設定すべき物件の特徴を2点紹介します。
●競合物件が多い激戦エリアの物件
間取りや築年数など周辺に同条件の物件が多数あるエリアでは、仲介手数料の範囲内での募集活動だけでは競合物件に埋もれてしまい空室が長引いてしまう可能性があります。駅近の人気エリアや、新築物件が多く供給されている地域などでは、特にこの傾向が顕著です。
特別な広告を行うことで、より多くの賃貸物件探しをする人の目に触れる可能性が高まるため、その分成約に近づきやすくなります。競合が多い中で自分の物件を選んでもらうためには、まず多くの人に認知してもらうことが重要です。
●短期間で成約しなければ空室が続きそうな物件
進学や就職、転勤など新生活に向け、1月から3月の賃貸繁忙期には多くの人が賃貸物件探しをするため、一般的にこの時期の賃貸募集は成約しやすい傾向にあります。しかし逆に、こうした時期を逃すとなかなか成約しにくくなってしまう物件も多くなります。
そのため、1月から3月の短期間での成約を目指す場合にはADが有効となる場合もあります。繁忙期に確実に入居者を確約することで、その後の長期空室を避けたい場合には活用の検討余地があります。
■不動産賃貸仲介でADを設定する際の注意点
特別な広告は入居者募集にあたって武器となりうる一方で、その費用となるADは仲介手数料のように法律で上限が設けられていないことから、費用の内訳や効果が不透明になりやすい点に注意しなければなりません。
ここでは、特別な広告を行う際に気をつけるべきポイントを3つ紹介します。
●広告の種類と費用をしっかり確認する
ADは法律で上限が定められていないため、業者によっては必要以上の広告費用を要求してくるケースがあります。原則として、仲介会社がオーナーから受け取ることができるADは、広告実施において生じた実費のみです。
支払いにあたっては、広告実施に生じた金額の内訳を確認し、必要以上の金額を請求されていないか注意する必要があります。どの媒体にいくら使うのか、制作費用はいくらかかるのかなど、具体的な内訳を提示してもらいましょう。
不明瞭な項目や説明がない費用については、納得できるまで質問することが大切です。
●費用対効果の意識を持つ
広告期間・金額・広告内容を計画する際には、市場動向を踏まえつつ、必要以上の費用を投入しないように心がけましょう。
●募集条件や市場調査を徹底する
ADの設定を検討する前に、まず家賃設定や募集条件が適切か再確認しましょう。近隣の類似物件の状況を丁寧に調べ、家賃の見直しや設備改善で解決できないか検討することが重要です。
例えば、周辺相場より家賃が5,000円高いことで入居者が決まらない場合には、ADに家賃数カ月分使うよりも、家賃を適正水準に下げることですぐに入居者が決まる場合もあります。また、エアコンや温水洗浄便座などの所有物件の設備を見直すことで、広告をせずとも長期的に見て有利になる可能性もあります。
このように、まずは物件自体の魅力を高めることに注力し、それでもなお入居者が集まらない場合の、最終手段として特別な広告を活用するという姿勢で臨むのがおすすめです。
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