不動産投資を行うオーナーにとって、賃料収入は重要な収益の柱です。しかし、近年の物価上昇や維持費の増加によって、現行の家賃が適正かどうか見直したいと考えることもあるでしょう。
本コラムでは、家賃値上げの法的根拠から正当な理由、交渉を成功させるポイントまで、オーナーが知っておくべき知識を詳しく解説します。
■賃料の値上げはできる?
(画像:PIXTA)近年、全国的に賃料は上昇傾向にあります。下記図にある直近5年間の主要都市における賃料推移を見ても、東京都23区、大阪市、名古屋市、福岡市、札幌市のいずれにおいても、緩やかながら上昇が続いています。
このような市場環境の中で、家賃の見直しを検討することは自然な流れです。もっとも、賃貸借契約は、借地借家法上の借主保護の観点から、賃貸人からの一方的な値上げはできません。「賃料増額請求」にあたっては増額の妥当性を説明する客観的事実が必要とされており、借地借家法第三十二条1項に規定が置かれています。
(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。
出典及び引用元:e-Govポータル「借地借家法 第三十二条」(https://www.e-gov.go.jp)
賃料増額請求権は、法律上、オーナーに認められた権利ではあるものの、普通借家契約においては入居者の立場のほうが手厚く保護されています。そのため、仮に賃料の値上げを「お願い」したが通らず、さらに裁判等の法的紛争に発展した場合には、オーナーが希望する条件まで認められないケースも多いです。
■家賃を値上げするための「正当な理由」とは?
借地借家法第三十二条により、賃料増額請求が認められるためには、「正当な理由」により、現行賃料が不相当となっていることを認められる必要があります。法律上は、以下の4点が「正当な理由」として掲げられています。
①土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減
②土地もしくは建物の価格・評価の上昇もしくは低下
③物価の上昇とともに維持費や経営にかかるコストが増加、その他の経済事情の変動
④周辺物件の相場賃料と比較して明らかに家賃が安い
もっとも、裁判実務上、これらはあくまで例示とされており、最終的には諸事情を総合的に見て判断されます。ただし、これらの4点は特に重視される要素です。
このうち、①~③については、現行賃料の算定基準が変化したことを推認できる判断材料とはなりますが、その結果として現行賃料が「不相当」となっていることまでは推認できません。そのため、あくまで補助的な資料にとどまります。
これに対し、④周辺の類似物件の賃料については、説得力の強い根拠になりえます。しかし、賃料は客観的な事情(平米数、築年数、駅からの距離など)だけではなく、主観的な事情によっても変わります(賃借人に保証人がおらず、賃料が割高となっている場合など)。
そのため、単に「近傍同種物件の賃料は10万円であるため、本件物件でも10万円に値上げしたい」と主張するだけでは、「そもそも、近傍同種物件の10万円は妥当なのか」と追及される可能性があります。
そこで、近傍同種の建物の賃料を「正当な理由」の理由づけとして用いる場合には、その賃料の算出方法が合理的なものであることも、あわせて主張しなければなりません。
なお、過去の裁判例では、賃貸借契約が締結されてからの期間の長短も考慮要素として挙げられたこともあり、契約締結からの時間が短いほど賃料増額請求は認められにくくなる傾向があります。これは、契約時の賃料設定が比較的最近の市場状況を反映していると考えられるためです。
■「正当な理由」として認められないケース
家賃の値上げを検討する際、どのような理由では認められないのかを知っておくことも重要です。ここでは、典型的な2つのケースを見ていきます。
●オーナーの都合による値上げ
借地借家法が定める賃料増額請求権は、市場環境の変化や物件の客観的価値の変動に基づくものであり、オーナー個人の経済状況とは切り離して考えられます。入居者にとって、オーナーの個別事情は関係のないことであり、それを理由とした負担額の増加を受け入れる義務はないという考え方が基本となっています。
そのため、オーナーの経営悪化や収益の都合など、オーナー側の都合だけを理由とした家賃値上げは正当な理由とは認められません。
例えば、「他の入居者の滞納が増えた」「オーナー自身の利益を増やしたい」「ローン返済が厳しくなった」などの理由では増額請求権の要件を満たさず、裁判で請求が認められる可能性は低いでしょう。
●契約で値上げの禁止が定められている
賃貸借契約書に「一定期間賃料を増額しない」という特約があるときは、原則としてその定めが優先されます。借地借家法第三十二条でも「一定期間増額しない旨の特約がある場合はその定めに従う」と明記されており、この期間内に家賃を引き上げようとしても認められません。
このような特約は、契約締結時に入居者を確保するための条件として設けられることがあります。
■家賃の値上げ交渉をするオーナー側のリスク
家賃の値上げ交渉には、いくつかのリスクが伴います。これらを理解した上で、慎重に進める必要があります。ここでは主な3つのリスクについて解説します。
●値上げできずに契約更新となるリスク
交渉が更新期日までに合意に至らない場合は、賃貸借契約は従来条件のまま自動更新(法定更新)されてしまいます。
法定更新後は、期間の定めがない契約として、契約期間以外は前契約の条件がそのまま引き継がれることになります。一度法定更新されてしまうと期間の定めがない契約となるため、契約終了には正当事由が必要となり、貸主にとってより厳しい条件となります。
そのため、値上げ通知は契約更新の6カ月以上前に内容証明郵便などで行い、十分な時間を設けて交渉することが重要です。早めに動き出すことで、入居者との対話の機会も増え、相互理解を深めながら合意形成を図ることができます。
●入居者が退去してしまうリスク
家賃を引き上げることで、入居者側は「家賃が高くなるなら引っ越したほうがいい」と退去を決意する可能性もあります。退去が起きると空室期間が発生し、その期間中の家賃収入が途切れてしまいます。
とくに不動産投資はローンを利用して購入することが多く、物件のローン返済に対する負担が大きくなりがちです。
●調停・訴訟に発展するリスク
入居者が値上げに納得しなかった結果、賃料減額請求を行って調停や訴訟になることがあります。借地借家法第三十二条は賃借人側の賃料減額請求権も認めているため、交渉が決裂すると法的手続きに移行する可能性があります。
基本的には一般の住宅の賃貸借契約で法的手続きにまで至るケースはまれですが、法的紛争に発展した場合、結果的に賃貸人が希望する増額額まで認められないケースも多く、場合によっては現状維持か、わずかな増額にとどまることもあります。法的紛争に発展すると双方に手間や時間、費用がかかるため、交渉中は慎重な対応が必要です。弁護士費用や裁判所への出廷など、金銭的・時間的コストが膨らむリスクも考慮しなければなりません。
■家賃の値上げ交渉を成功させるポイント
リスクを最小限に抑えながら家賃の値上げを実現するには、いくつかのポイントがあります。ここでは、交渉を成功させるための5つの重要なポイントを紹介します。
●無理のない増額幅を設定する
増額幅は段階的かつ合理的に設定することが大切です。急激に高額な家賃に設定すると、入居者に不信感を与え、値上げ交渉の失敗や退去を招く恐れがあります。
例えば、周辺相場や現行家賃、管理費の変化などを総合的に判断し、最初から相場まで一気に上げるのではなく、契約更新ごとに数パーセントずつ段階的に増額していくアプローチが考えられます。こうすることで、入居者の負担感を軽減しながら、中長期的に適正賃料に近づけることができます。
●具体的な根拠資料を示す
家賃増額交渉では、客観的な資料で増額の正当性を示すことが欠かせません。近隣同種物件の募集家賃のデータや、地価公示、固定資産税の変化など、客観的なデータを用意しましょう。
具体的な数値や資料を提示することで、単なる思いつきではなく合理的な根拠に基づく増額であることが伝わりやすく、入居者の理解を得やすくなります。不動産ポータルサイトの情報や、地域の不動産会社から得た相場情報などを整理して、わかりやすく提示することが効果的です。
●入居者に事前通知し、丁寧に説明する
値上げの提案は、実際の値上げ時期よりも十分な余裕を持って書面等で通知し、その後、入居者と直接話す機会を設けます。疑問や不安に答える姿勢を示すことで、信頼関係を維持しながら交渉を進めることができます。交渉後に合意が得られたら、増額条件を記した合意書を作成し、双方で保管することで、後々のトラブルを防ぐことができます。
また、清掃などの建物管理を丁寧に行っておくなど、日頃から入居者に寄り添った賃貸経営ができているかどうかで、増額を提示された時の入居者の受け止め方も変わります。入居者目線での経営を日頃から意識しておきましょう。
●入居者にとってのメリットを提示する
家賃増額交渉は、基本的にオーナー側の都合によるものであり、一方的に条件を押し付けるだけでは交渉がまとまりづらいケースもあります。そこで、入居者にとってのメリットを併せて提示することで、交渉がスムーズに進む場合があります。
例えば、古くなった設備(エアコン、給湯器、キッチン設備など)を入れ替えたり、更新料を1回分無料にしたり、何らかの付加価値を提供することが考えられます。
●定期借家契約に切り替える
家賃増額について入居者の合意が得られない場合、賃料等は同条件のまま定期借家契約への切り替えを交渉するという選択肢もあります。現状の賃料が相場と大きく乖離している場合などでは、更新のない定期借家契約に切り替えることで、次回の期間満了のタイミングで入居者を入れ替えて賃料の見直しをすることができます。
定期借家契約は、契約期間が満了すれば確実に契約が終了するため、オーナーにとっては将来的な賃料改定の確実性が高まります。ただし、入居者にとっては住み続けられる保証がなくなるため、慎重な説明と合意形成が必要です。現在の入居者との関係を大切にしながら、長期的な視点で賃貸経営を考えることが求められます。
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