地上権は、建物や工作物を所有する目的で、他人が所有する土地を利用できる権利であり、賃借権と同じく借地権の一種です。地上権が設定されている物件を購入する場合、その権利内容や残存期間、譲渡の可否などを把握しておかなければ、想定外のリスクを抱えることになりかねません。
本コラムでは、地上権の意味や法的性質、借地権・賃借権・所有権との違いについて詳しく解説します。また、地上権が発生するケースや、不動産投資において地上権付き物件を購入検討する際のポイントについても紹介します。
■地上権とは|他人の土地を物権(直接的に支配する権利)として利用できる権利
(画像:PIXTA)地上権とは、建物や工作物を所有する目的で他人の土地を利用できる権利のことで、民法上の「物権」に分類されます。物権とは物に対する直接的な支配権であり、賃借権のような「債権」と異なり、第三者に対しても権利を主張できます。
地上権を持つ借地人は、地主の許可を得ることなく土地を直接かつ排他的に使用でき、譲渡や転貸も自由に行うことが可能です。
地上権には通常の地上権のほかに「区分地上権」と「法定地上権」という特殊な形態があります。「区分地上権」とは、他人が所有する土地の上空や地下を利用する権利です。地下鉄や送電線、トンネルなどのインフラ設備に利用されます。「法定地上権」は後述しますが、これは法律の規定によって当然に成立する地上権です。
このように、地上権にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる場面で活用されています。
●地上権が「物権」であることの意味
地上権が物権であることの最大の意味は、第三者に対して直接、権利を主張できる点にあります。
例えば、土地の所有者が変わった場合でも、新しい所有者に対して自分の権利を主張し、引き続き土地を使用することができます。
また、物権は登記を備えることで契約当事者間だけでなく、第三者に対しても対抗できる効力を持ちます。このため、地上権は土地に対する権利として安定性が高く、長期的な事業計画を立てる際にも有利に働きます。地上権者は土地所有者に準じた権利を持つため、地主との関係においても対等に近い立場で交渉することが可能です。
●不動産投資における地上権の扱い
地上権は、賃借権と比べて物権としての独立性や第三者に対する対抗力が強く、長期にわたって土地を利用する方法として活用されることがあります。一般的な不動産投資では土地と建物を丸ごと所有する所有権付き物件が主流ですが、借地権が設定されている物件の場合には、地上権ではなく賃借権が用いられることがほとんどです。
一方で、大規模な再開発事業や公共事業など、より強固で長期的な土地利用権が必要な場合には、地上権が選択されることもあります。これは、安定した事業基盤を確保したい事業者と、土地を手放さずに活用したい地主側のニーズが合致するためです。
また、地上権は独立した物権として、それ自体を担保に設定することが可能ではありますが、通常の所有権と比べると権利内容や存続期間の制約があることから、融資額や条件が所有権物件よりも厳しくなることがあります。
不動産投資で地上権付き物件の購入を検討する際には、契約期間や残存期間、利用範囲、更新や再設定の条件、登記の有無などを丁寧に確認し、自身の投資方針に合っているかを慎重に判断することが重要です。
■借地権(地上権・賃借権)と底地権の違い|法的性質と権利内容を比較
土地の権利関係を理解するには、所有権・底地権・地上権・賃借権の違いを整理することが重要です。これらの権利について法的性質や譲渡の可否、担保設定の可否などの観点から比較すると、次のようになります。
(完全所有権)底地権
(不完全所有権)地上権賃借権法的性質物権(最も強い権利)物権(地主による利用は制限される)物権(他人の土地を直接かつ排他的に使用・収益できる権利)債権(賃貸借契約に基づき賃料を支払って他人の土地や建物を使用できる権利)第三者対抗要件登記登記登記登記または建物登記(賃借権の登記は実務上まれ)譲渡の可否自由に可能自由に可能自由に譲渡・転貸可能地主の承諾が必要相続の可否相続・遺贈とも承諾不要で可能相続・遺贈とも承諾不要で可能相続・遺贈とも承諾不要で可能承諾不要で相続可能(ただし相続人以外の第三者に遺贈する場合は譲渡とみなされ地主の承諾が必要)担保設定の可否設定可能設定可能地上権・建物のいずれも設定可能原則として賃借権は担保にできない。建物は地主の承諾を得ることで抵当権設定が可能存続期間無期限無期限契約により任意(建物所有目的の借地権として設定する場合、最低30年以上)・一般借地:30年→更新20年→以後10年
・定期借地:50年以上など更新可否更新不要更新不要契約により定める・普通借地権:更新あり
・定期借地権:更新なし特徴価値安定・融資が通りやすい完全所有権より取引価格は安価所有権物件と比べて取引価格が安価地上権よりもさらに取引価格は安価だが、融資は付きにくい
借地権には地上権と賃借権の2種類があり、それぞれ異なる法的性質を持っています。より詳しい内容については、以下の関連記事もあわせてご覧ください。
【関連記事】借地権とは?|種類やメリット・デメリットなどをわかりやすく説明
【関連記事】底地・底地権とは?借地との違いや売却方法・注意点を解説
【関連記事】賃借権とは?借地権・地上権・旧法賃借権との違いを解説
●法的性質の違い
地上権者は、土地を直接かつ排他的に使用・収益できる権利を持っており、所有者に近い立場で土地を利用することができます。これに対して賃借権者は、契約に基づいて地主から土地を借りている立場であり、地主との関係性が重要になります。
この違いの背景には、地上権は「物権」であり、賃借権は「債権」であるという法的性質の差があります。物権である地上権は、土地に対する直接的な支配力を持ち、第三者に対してもその権利を主張することができます。一方、債権である賃借権は、契約当事者間の約束に基づく権利であり、原則として契約の相手方に対してのみ権利を主張できます。
このように、「物権」と「債権」という性質の違いは、地上権と賃借権それぞれの効力の差として表れ、法的安定性や長期的な土地利用への適合性に大きな影響を及ぼします。さらに、譲渡や担保設定、相続といったさまざまな場面でも、この違いが具体的な取り扱いの差となって表れます。
●第三者対抗要件の違い
第三者対抗要件とは、権利を譲渡した人と譲渡された人との間で有効な権利関係を、売買などで新たに現れた「第三者」に対して主張するための要件のことです。不動産の場合、この対抗要件として最も一般的なのが「登記」です。
地上権については、地上権設定登記をしておくことで、土地の所有者が変わっても、新しい所有者に対して地上権の存在を主張することができます。
賃借権も本来は賃借権自体を登記することで第三者に対抗できますが、実務上は賃借権の登記はほとんど行われていません。賃借権の登記をするには地主の協力(署名・押印など)が必要となり、地主側にとって手間や負担が生じることから省略されることが多いです。その代わり、借地上の建物の所有権を登記することで、土地の賃借人としての立場を第三者に主張するのが一般的です。
このように、地上権も賃借権も「登記によって第三者対抗力を持てる」という点では同じですが、賃借権は対抗要件の備え方が実務上やや不安定になりやすい側面があります。不動産投資にあたっては、登記の有無や対抗要件がきちんと具備されているかを登記簿で確認し、権利関係の安定性やリスクを慎重に見極めることが重要です。
●譲渡の可否の違い
地上権は、地主の承諾を得なくても第三者に売却したり、転貸したりできるため、権利としての流動性が高いという特徴があります。
一方、賃借権の場合、契約上「譲渡・転貸には貸主(地主)の承諾が必要」と定められているのが一般的です。地主の承諾が得られないと、権利を第三者に移転させることが難しく、売却しにくいケースもあります。
●相続の可否の違い
地上権と賃借権はいずれも相続が可能ですが、遺贈の場合には取り扱いが異なります。地上権の場合は、相続人への相続はもちろん、第三者への遺贈についても地主の承諾を得ることなく自由に行うことができます。
一方、賃借権の場合は相続については地主の承諾なく行うことができますが、相続人以外の第三者に遺贈する場合は譲渡とみなされ、地主の承諾が必要となります。
●担保設定の可否の違い
地上権は独立した物権として、抵当権などの担保を設定することが可能です。地上権そのものに担保を設定できるほか、地上権に基づいて建てられた建物にも担保を設定することができます。このため金融機関からの融資を受けやすく、不動産投資において資金調達の選択肢が広がります。
これに対して賃借権は債権であるため、原則として賃借権そのものを担保にすることはできません。建物自体は地主の承諾を得ることで抵当権を設定することが可能ですが、賃借権が担保とならないことで、融資の担保となるのがあくまでも建物の価値のみに留まるため担保価値は限定的になります。そのため、金融機関の融資審査は地上権の場合よりも厳しくなることが多く、融資条件も不利になります。
●存続期間・更新可否の違い
地上権の存続期間は当事者間の契約によって自由に定めることができますが、建物所有を目的とする借地権として設定する場合は、最低30年以上とする必要があります。更新については当事者間の合意が必要というのが基本ですが、建物所有目的の地上権の場合は借地借家法の適用を受けるため、契約満了時には正当事由がない限り更新される可能性があります。
実務上は地上権設定契約の条項として、更新条件や期間満了時の取り扱いを詳細に定める場合が一般的です。借地借家法による保護がある一方で、特にそうした取り決めが十分にされていない場合には、残存期間が短くなるほど、金融機関から長期融資を借りにくくなる点には注意が必要です。
一方、賃借権も借地借家法によって借地人が保護されており、普通借地権であれば法律上の更新制度が適用されます。
●特徴の違い
地上権は権利の内容が明確で法的安定性が高く、譲渡や担保設定も自由に行えるため、不動産資産としての価値が高いという特徴があります。所有権には及びませんが、物権として土地に対する強い権利を持っており、流動性や市場評価の面で賃借権よりも優れています。ただし取引価格は完全所有権の物件と比較すると安価になる傾向があり、投資物件として検討する際はこの点を考慮する必要があります。
賃借権は地上権よりもさらに取引価格が安価になる傾向にあります。さらに融資が付きにくく、投資対象としての制約が大きくなります。譲渡や転貸には地主の承諾が必要であり、処分の自由度が限られるため、市場での流動性も低くなります。ただし、普通借地権の場合は借地借家法による保護が強く、長期的に安定して土地を利用できるというメリットもあります。
■地上権が設定されるケース
ここまでで地上権の基本とほかの権利との違いを解説しましたが、実務上は「どのような場面で地上権が発生するのか」を知ることも大切です。以下からは、地主と地上権者の合意(地上権設定契約)に基づいて発生するケースと、法律の規定により当然に成立する(法定地上権)のケースに分けて、代表的なパターンを解説します。
●地上権設定契約|地主と地上権者の合意で発生
地上権が発生する最も一般的なケースは、土地所有者と地上権者の間で地上権設定契約を締結する場合です。
地上権設定契約は大規模な開発事業や長期的な事業用地の確保が必要な場合に利用されることが多く、主に法人間の取引で活用されています。
例えば、鉄道会社が駅舎や線路用地として土地を確保する場合や、大型商業施設やオフィスビルの開発において地上権が設定されるケースが挙げられます。
地上権設定契約では、契約期間や地代の額、土地の利用目的などを明確に定めることが重要です。契約締結後、地上権設定登記を行うことで、第三者に対しても地上権を主張できるようになり、法的な安定性が高まります。
●法定地上権|建物と土地の所有者が分離した場合に成立
法定地上権とは、法律の規定によって当然に(特段の契約などを要さずに)成立する地上権のことです。
具体的な例として、土地と建物の双方に抵当権が設定されている状況で土地と建物の所有者が返済不能となり、競売手続きなどによって、建物だけ、もしくは土地だけが売られて土地と建物の所有者が分かれてしまうといったケースです。
このとき一定の要件(社会経済上の不利益になると判断された)を満たすことで、建物所有者が土地を使い続けるために、法律上当然に地上権が成立したものと扱われます。これを法定地上権といいます。
法定地上権が成立するためには、①抵当権設定時に土地上に建物が存在すること、②その土地と建物の所有者が抵当権設定時と同一人物であること、③抵当権の実行により土地と建物の所有者が異なることなど、いくつかの細かな要件を満たす必要があります。
法定地上権が成立すると、建物所有者は土地所有者に対して地代を支払う義務を負いますが、その地代の額については当事者間の協議または裁判所の決定によって定められます。
■不動産投資で地上権が設定されている物件の評価ポイント
最後に、不動産投資家の視点から、地上権付き物件をどのように評価すべきかを確認していきます。地上権の残存期間や更新条件に加え、譲渡制限や利用制限の有無が収益性や出口戦略にどのような影響を与えるのか、投資判断の際にチェックしておきたいポイントを確認していきましょう。
●残存期間と更新条件
地上権が設定されている物件を投資対象として検討する際、最も重要な評価ポイントの一つが地上権の残存期間です。残存期間が長い物件であれば長期的な収益をより見込みやすくなります。一方で、残存期間が短い物件では、契約の更新があるとしても、自身が売却する際に買い手から敬遠される可能性があります。
また、契約の更新について事前に詳細まで確認しておくことが重要です。地上権の更新は当事者間での契約による合意を原則とするため、更新の可否や更新条件については契約書の内容を精査する必要があります。
更新が認められる場合でも、更新料の額や更新後の契約期間、地代の改定条件などを把握しておくことで、より正確な投資判断が可能になります。場合によっては地主との交渉によって更新条件を有利に変更できる可能性もあるため、契約内容を十分に理解した上で投資を検討することが大切です。
●譲渡制限・利用制限の有無
地上権は原則として自由に譲渡できますが、契約によって譲渡制限が設けられている場合があります。譲渡制限がある場合、投資物件として流動性が低下し、出口戦略に制約が生じる可能性があるため注意が必要です。契約書を確認し、譲渡に地主の承諾が必要かどうか、承諾を得るための条件や手続きはどうなっているかを把握しておくことが重要です。
また、土地の利用範囲についても制限が設けられているケースがあります。例えば建物の用途や規模、構造などについて契約上の制限がある場合、投資家が計画している事業内容によっては契約違反となる可能性があります。不動産投資では物件の用途変更やリノベーションによって収益性を高める戦略もありますが、利用制限があるとこうした柔軟な運用ができなくなります。
投資判断を行う前に、契約内容を詳細に確認し、自分の投資戦略と合致しているかを慎重に検討することが必要です。
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