2027年4月からの強制適用を控えた「新リース会計基準」は、単なる会計処理の変更にとどまりません 。M&Aのバリュエーション(企業価値評価)やデューデリジェンス(DD)の実務においても、一定の影響を及ぼすことが予測されています。
本記事では、新基準による主な変更点と、それがM&A実務に与える可能性がある影響について解説します。
1. 現行の基準と何が変わるのか
最大の変更点は、これまで借手側において「オフバランス(貸借対照表に載らない)」として処理されていたオペレーティング・リースが、原則としてすべて資産および負債として計上(オンバランス化)されることです。これは、リースの借手の会計処理について「使用権モデル」を採用し、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別を廃止したことによるものです。
2. 財務指標に与える影響
新リース会計基準の導入により、企業の財務諸表の数値が変動し、以下の指標の見え方が変わります。
3.大きな影響を受けることが想定される業種
上記の財務指標の変動は特に以下の業種について影響が大きいと予測されます。
4. M&A実務への具体的インパクトの予測
新基準の導入により、M&Aの実務プロセスにおいて以下の検討が必要になると考えられます。
①企業価値評価(バリュエーション)における検討事項
M&Aの実務で多く用いられている「マルチプル法(EV/EBITDA倍率)」や「DCF法」による企業価値評価に際して、新基準の導入によりEBITDAや営業キャッシュ・フロー、リース負債といった財務数値が変動することから、これらの数値を元に算定される企業価値評価額も大きく変わってしまう可能性があります。
実務上は、評価に使用するEV/EBITDA倍率や有利子負債の範囲等について当事者間での合意形成が必要になると考えます。
② 財務 DD(デューデリジェンス)における見積りの精査
新基準では契約期間だけでなく、「リース期間の見積り」の妥当性が重要になります。リース期間の見積りにあたっては、延長オプションの行使が「合理的に確実か」といった判断が必要になります。そのため財務DDの実務において、延長オプションの行使条件、過去の更新実績、対象資産の事業上の重要性などについて精緻に確認することが求められる可能性があります。
③ 銀行コベナンツ(財務制限条項)への抵触リスク
自己資本比率の低下により既存の融資契約にある「自己資本比率の維持」などのコベナンツに抵触する可能性が考えられ、新たな買収資金を融資で賄うことができない等、M&Aに支障が生じる可能性があります。
まとめ
新リース会計基準によって、企業の収益獲得能力や価値は本質的には変わりません。しかし、会計基準の変更は企業の収益性や健全性の指標の見え方に変化をもたらします。
これからM&Aを検討する企業においては、現行基準と新基準における財務指標の違いを正しく理解し、「リース期間の見積り方法」や「バリュエーション指標の定義」について整理しておくことが、円滑な交渉に寄与するものと思われます。
文:大山公認会計士事務所代表 大山陽一(公認会計士・税理士)
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