【カルチュア・コンビニエンス・クラブ】「衰退期」ビジネスで生き残る買収戦略

自社のビジネスが「衰退期」に入ったら、企業はどのような舵取りをすべきなのか?その成功事例がカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の取り組みだ。主力事業だった書店とCD・DVDレンタルがデジタル化のあおりを受けて「オワコン(魅力がなくなり、消費者の興味を引かなくなったコンテンツ)化」した中で、同社はビジネスをどう立て直したのか?M&A の視点で読み解く。

落日の「Tポイント」

CCCの「Tポイント」と三井住友フィナンシャルグループ(FG)の「Vポイント」が2024年春をめどに統合することになった。統合後は「Vポイント」の名称で統一され、20年もの歴史を持つ共通ポイントの老舗「Tポイント」ブランドは姿を消す。ポイント統合に先駆けて2023年4月に三井住友側がCCCMKHDに40%出資し、CCCの持ち株比率は60%となった。

TポイントはCCC子会社のCCCMKホールディングス(HD)、Vポイントは三井住友FG子会社の三井住友カードがそれぞれ運営している。Tポイントの会員数は約7000万人とVポイントの約2000万人に比べて圧倒的に強いが、CCCが「名を捨てて実を取った」形だ。

老舗の「Tポイント」も自社の主力事業だったレンタルビデオの市場縮小で新規会員が減った上に、2013年に統合した「Yahoo!ポイント」のユーザーがバーコード決済のPayPayから派生した「PayPayポイント」へシフトするなどして顧客基盤を失った。

その結果、後発組だった楽天グループの「楽天ポイント」やNTTドコモの「dポイント」といった大手企業主導のポイントとの競争で劣勢を強いられている。CCCにとっては、もはや業界トップの座から陥落した「Tポイント」に興味はない。三井住友FGへの事実上の「事業譲渡」で身軽になり、次のステップに踏み出そうとしているのだ。

M&Aで事業ポートフォーリオを組み換え

CCCは2017年に自社チェーンのフランチャイジー最大手のトップカルチャーへ東日本地区を中心に15店舗を譲渡すると発表。その一方で同年に出版大手の徳間書店や主婦の友社を買収、2018年にはカメラ販売チェーンのキタムラをTOBで子会社化するなど、M&Aによる事業ポートフォーリオの組み換えを図った。

それに加えて主力事業の書店とレンタルビデオに替わる、新たな収益源の開拓にも挑戦している。その一つが自治体を顧客とする市立図書館の指定管理者ビジネスだ。CCCの「TSUTAYA図書館」は単なる図書館ではなく、地域コミュニティーの賑わいと交流を創造する空間づくりで高い評価を得ている。

CCCはこれまでのビジネスで蓄積した経験と知識を活かして、図書館をより魅力的で利便性の高い空間とするよう提案。図書館を通じて地域コミュニティーと連携することで、地域密着型のビジネスへの展開も視野に入れている。

さらには図書館の運営を通じて利用者の行動データや嗜好データを収集・分析することができ、その結果を他のビジネスにも応用できるというメリットも。

CCCは蔦屋書店を「本を並べて売る」だけの書店から「来たくなる」書店づくりに転換して成功した。図書館運営でも同様のリニューアルで、カフェの併設やデザインを凝らした空間づくりで来館者を増やしている。

本を借りなくても落ち着ける空間があったり、カフェでゆっくり本を読みながらお茶を楽しんだり、市民が行きたくなる図書館を目指しているという。一方で選書や独自分類などで、公立図書館が果たすべき役割を果たしていないとの批判もある。

MBOで大胆な経営転換を実現

CCCがこうした大胆な事業改革に乗り出せた背景には、2011年のMBO(経営陣による買収)による非上場化がある。外部環境の変化により主力事業の書店とレンタルビデオが「オワコン化」する中で、商品やサービスではなくライフスタイルを売る事業モデルへシフトするには、短期的な利益にとらわれない長期的な視野での経営が必須。そのためのMBOだったのだ。

MBO後にCCCは図書館の指定管理者ビジネスだけでなく、次世代型書店の「蔦屋書店」や新業態の「蔦屋家電」の展開にも踏み出している。脱「オワコン化」の成功のカギはM&Aだったのだ。

2023年3月に「Karuizawa Commongrounds」(長野県軽井沢町)をオープンした。書店の「軽井沢書店 中軽井沢店」をはじめ、インターナショナルスクール、カフェ、コワーキングスペースなどが点在する複合施設だ。

これは「街づくり」という新しい不動産ビジネスだ。不動産ビジネスは量販店大手のイオンや東京・大阪に店舗を構える百貨店など本業が苦戦する業種での新たな収益源となっている。高い地域ブランド力がある軽井沢で「街づくり」ビジネスを着手したのは、CCCがパイロット事業と位置づけている証拠だろう。

同社にとって「オワコン化」しつつある共通ポイントからも身軽になり、この新たなビジネスを加速することになりそうだ。

カルチュア・コンビニエンス・クラブの沿革 1982年 - 大阪府枚方市で喫茶店兼レンタルレコード店の「LOFT」を開店。 1984年 - TSUTAYAとカフェとオフィスが融合した「蔦屋書店 江坂店」をオープン。 1985年- カルチュア・コンビニエンス・クラブ設立、 大和郡山市にフランチャイズ加盟1号店をオープン。 1988年- 中古商品を取り扱うユー・ファクトリー(カルチュア・パブリッシャーズ)を設立。 1989年 - 100%子会社のレントラックジャパンを設立。 1992年 - 不動産部門としてシー・シー・シーエステートを設立、日本エー・ブイ情報ネットワークを吸収合併。
1993年 - CD販売事業「TSUTAYA RECORDS」のフランチャイズ展開を開始。 1994年 - 書籍販売事業「TSUTAYA BOOKS」のフランチャイズ展開を開始。 1997年 - ゲームソフト販売事業「Game TSUTAYA」のフランチャイズ展開を開始。 1998年 - プロサッカークラブ「FC東京」の運営会社「東京フットボールクラブ」に共同出資。 2000年 - 東証マザーズに上場、アコムよりレンタルビデオ店25店舗を譲受。 2001年 - ジェット・リーシング・インターナショナル有限会社を株式取得により子会社化、ビデオ・CDのレンタル・販売のイワキインフォテインメントより12店舗を譲受。 2002年 - 株式取得により星電明石家電(兵庫ツタヤ)と星電健康産業(関東ツタヤ)を子会社化、グルーヴコーポレーションよりレンタルビデオ店8店舗を譲受、リバティハウス(神奈川ツタヤ)を完全子会社化。 2005年- スターバックスコーヒージャパンとライセンス契約を締結し、Book&Cafeコンセプトの店舗を展開、丸井から英ヴァージン・グループの日本法人「ヴァージン・メガストアーズ・ジャパン」の全株式を取得して子会社化。 2009年 - TSUTAYAをCCCに社名変更。 2010年 - 中古本事業「TSUTAYA ecobooks」のフランチャイズ展開を開始、シャープと合弁で「TSUTAYA GALAPAGOS」を設立。 2011年 - 経営陣による自社買収(MBO)により、非上場化、創業者であり社長の増田宗昭氏が出資するMMホールディングスが全株式を取得。 2012年 - Tポイントの運営事業を会社分割により分社化して「Tポイント・ジャパン」を設立。
2013年 - 初の「TSUTAYA図書館」となる武雄市図書館・歴史資料館(佐賀県武雄市)の運営を開始。 2014年 - Tカードがチケットになる「Tチケット」、電子マネーになる「Tマネー」を開始。 2015年 - フリービットモバイル(トーンモバイル)の第三者割当増資を引受け子会社化、安田造船所とイタリア高級家具ブランド「B&B ITALIA Japan」を運営する合弁会社「progetto81」を設立、 東京都二子玉川に「蔦屋家電」をオープン、アーク・スリー・インターナショナルを子会社化。 2017年 - スターバックスコーヒーと新本・中古本・文房具・雑貨の販売を行う複合施設「草叢BOOKS 新守山店」をオープン、オートバックスセブンとの合弁で「ABTマーケティング」を設立、徳間書店を子会社化、子会社のSKIYAKIが東証マザーズに新規上場、子会社を通じて大日本印刷から主婦の友社の全株式を取得して子会社化。 2018年 - 指定管理者として山口県周南市で「徳山駅前賑わい交流施設・周南市立徳山駅前図書館」の運営を開始(トップ写真)、子会社を通じてキタムラをTOBで子会社化。 2021年 - キタムラ・ホールディングスの株式の過半をインテグラルtoその関連ファンドへ譲渡し、同社をCCCグループの連結子会社から持分法適用会社へ移行、髙島屋と合弁で「TTC LIFESTYLE」を設立。 2022年 - スマートフォン買取・販売を手がけるイオシスの全株式をMBOで売却、福岡市からの運営受託によりアーティスト支援施設「Artist Cafe Fukuoka」と女性の起業を支援する「わたラボ」を立ち上げ、武雄市観光協会から運営を受託した「武雄 旅 書店」「武雄温泉駅観光案内所」が開業。 2023年 - 軽井沢のライフスタイルを提案する複合施設「Karuizawa Commongrounds(軽井沢コモングラウンズ)」をグランドオープン。

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。

文:M&A Online

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