【ラクスル】M&Aで事業領域の拡大と深耕開拓進める

印刷、広告プラットフォーム事業を手掛けるラクスル<4384>は、2009年に創業、急成長を遂げて2018年に東証マザーズへ上場、2019年に東証一部(現プライム市場)へ鞍替えした。近年はM&Aを戦略に取り入れ、より一層の事業領域の拡大と既存事業の深耕開拓を進めようとしている。

事業をどう拡大してきたか

急成長の原動力となったのが、印刷プラットフォーム事業の「ラクスル」だ。ユーザーからの印刷注文をウェブサイトで受け、その注文を提携先に渡し、印刷された商品がユーザーに届く。このフローの中でラクスルは小ロット・低価格で発注したいというユーザーニーズ、非稼働時間を埋めて少しでも売り上げにつなげたいという印刷会社のニーズをうまくマッチングさせ事業を拡大させてきた。

このビジネスモデルは、2015年12月から始まった配送サービス「ハコベル」でも応用されている。運送会社のドライバーの空き時間を活用し、荷主と配送をマッチングさせた。ラクスル、ハコベルのビジネスはいずれも、遊休資産の有効活用をする「シェアリングエコノミー」という言葉で表現され、大きな注目を集めた。なかでもラクスル事業は大きく花開き、2022年7月期の連結売上339億8000万円のうち、273億2500万円が同事業によるもので、全体の約8割を占めるに至っている。

ラクスル、ハコベルに続き、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」との企業ビジョンに従って、その後も新規事業を創出。2020年4月に広告プラットフォームの「ノバセル」、2022年2月にコーポレートITのプラットフォーム「ジョーシス」が誕生した。ノバセルはすでに柱となる事業になりつつあり、2022年7月期で28億2400万円の売り上げを計上するまでに成長している。

ラクスルのM&A戦略は?

新たな事業を生み出す一方で、2020年9月のホームページ制作のサービスを運営するペライチへの出資発表を境に、同社は出資とM&Aに力を入れ始めている。2020年12月にダンボール・梱包材の受発注プラットフォームを運営するダンボールワンを関連会社化、2022年2月に同社を完全子会社化し、2023年8月に吸収合併した。

さらに、2023年8月にはネットスクウェアのオンデマンド印刷事業をラクスルファクトリーへ承継させ、全株式を取得し子会社化し、足元でも、印鑑ECの最大手、「ハンコヤドットコム」を運営するAmidAホールディングス<7671>の完全子会社化を目指したTOB(公開買い付け)を進めており、事業の強化を図っている。

M&A/出資では事業領域の拡大も視野に入れているが、これまでは既存のラクスル事業の強化が主体となっている。

ダンボールワンへの出資でダンボール・梱包資材を取り込み、ネットスクウェアの事業承継で、デジタル印刷での商材の拡充を進めた。そして、事務用品の併買が多い、印鑑商材をハンコヤドットコムの買収で取り入れ、新規ユーザーを獲得し、クロスセルを高めようとしている。

M&Aへのスタンスは?

このM&A/出資については、健全なB/S(貸借対照表)を前提としたもので、発生したのれんは、純資産の7割程度を上限としてコントロールしていく考え。2023年7月期第3四半期決算では、のれんは43億3600万円、純資産の約4割占め、この状況を考慮した中で進められていくことになる。

なお、同社社長には、2023年8月1日に創業者の松本恭攝氏が代表取締役社長CEOから代表取締役会長に、代表取締役社長CEOには、取締役CFOで投資分野にも明るい永見世央氏が就任。新経営体制への移行について「複数事業を運営・最適化しながら、内製の事業立ち上げだけではなく、連続的なM&Aによる拡張を通して事業のさらなる成長へとつなげていくため」としており、これまで以上にM&Aを重要な経営戦略ととらえていることがうかがえる。

ラクスルの沿革と主なM&A 2009年9月 資本金200万円で会社設立 2010年4月 印刷通販の価格比較サービスサイト「印刷比較.com」の運営を開始 2010年9月 「印刷比較.com」を「ラクスル」に名前変更・サイトリニューアル 2013年3月 印刷のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」を開始 2015年12月 物流のシェアリングプラットフォーム「ハコベル」を開始 2018年5月 東京証券取引所マザーズに上場 2020年4月 広告のプラットフォーム「ノバセル」を開始 2020年9月 ペライチの株式取得を発表 2020年12月 ダンボール・梱包材の受発注プラットフォーム運営のダンボールワンを関連会社化 2021年9月 コーポレートITのプラットフォーム「ジョーシス」を開始 2022年2月 ダンボールワンを完全子会社化 2022年2月 ジョーシスを「ジョーシス株式会社」として分社化 2022年8月 セイノーホールディングスとジョイントベンチャー「ハコベル株式会社」を設立 2023年8月 ダンボールワンを吸収合併 2023年8月 オンデマンド印刷事業のラクスルファクトリーを完全子会社化 2023年9月 AmidAホールディングスの完全子会社化を目指したTOB(9月25日まで)

文:M&A Online

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