【MCJ】業績好調なゲームPCの雄がMBOに乗り出した理由

「マウスコンピューター」で知られるMCJ<6670>がMBO(経営陣による買収)に乗り出した。その狙いの一つが、既存事業とのシナジー創出を重視するボルトオンM&Aによる事業拡大だ。

同社はこれまでもM&Aで事業を拡大してきた。もちろん、買収には成功もあれば、失敗もある。そこで、同社のM&Aの流れと、何がMBOにつながったのかを振り返ってみた。

M&Aで形成した事業ポートフォリオ

MCJは、PC(パソコン)製造販売の「マウスコンピューター」を中核に成長してきた企業だ。国内PCメーカーとして一定の存在感を持つ一方、市場の成熟化や価格競争の激化を受けて、早くからM&Aを活用した事業多角化を進めてきた。

同社のM&Aの特徴は、単純な規模拡大を目的とした大型買収ではなく、比較的規模の小さい案件を積み上げながら、事業ポートフォリオを調整してきた点にある。

その流れを大きく整理すると、①多角化模索期、②本業強化期、③サービス・海外展開期、④選択と集中期という4つの段階に分けることができる。

非PC事業への挑戦と撤退で多角化を模索

2000年代後半のMCJは、PC事業を軸にしつつも、新たな収益源を模索していた。インターネットポータル事業や金融関連事業、出版、EC(電子商取引)など、PCとは直接関係の薄い分野への投資が相次いだのはこの時期である。

こうした動きの背後には、PC市場の価格競争激化と収益性低下への危機感があったようだ。新たな成長分野を模索する意味では合理的な判断だったが、結果としては短期間で撤退する案件も少なくなかった。

こうした経験を通じて同社は、「関連性の低い事業への進出はシナジーを生みにくい」という教訓を得たと考えられる。後のM&A戦略が本業周辺に収斂していくのは、この時期の試行錯誤の影響が大きい。

MCJのM&A案件一覧(2008年以降、東証適時開示ベース)

公表日取引総額(億円)内 容 2008年3月28日 非公表 ライコスジャパンからポータルサイト事業を取得 2008年3月31日 未確定 子会社iiyamaの国内産業用モニター事業を東京特殊電線<5807>へ譲渡 2009年5月8日 非公表 ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のカフェスタをジークレストへ譲渡 2009年6月15日 非公表 FX(外国為替証拠金取引)事業のFXトレードを売却 2012年2月23日 2.95 HDDを販売するソルナックを完全子会社化 2012年4月26日 6.99 パソコン専門店及びECサイト運営のグッドウィルを子会社化へ 2013年8月14日 19.52 カフェ運営のアイエスコーポレーションを子会社化 2014年5月12日 非公表 レセプトシステム開発のワールド情報システムを子会社化 2015年9月24日 10.30 パソコン関連書籍販売の秀和システムを譲渡 2016年4月1日 非公表 アパレルECサイト運営のティアクラッセをオンワードHD<8016>へ譲渡 2017年9月21日 非公表 シンガポールのIT製品修理会社R-logic Internationalを子会社化 2020年5月14日 1.30 接骨院・鍼灸院経営のMJG(破産手続き開始決定)の事業を取得 2025年12月1日 非公表 接骨院事業を国内法人に譲渡 2026年2月5日 2079.17 MBOで株式非公開化し、ボルトオンM&Aを推進

バリューチェーン統合型M&Aで本業強化

2010年代に入ると、MCJのM&Aは明確に方向性を変える。PC関連事業のサプライチェーンや販売網を補完する企業の買収が中心となった。

PC専門店の取得や部品・周辺機器関連企業を取り込み、調達力の強化、販売チャネル拡大、ブランド補完などの効果を狙ったものだ。いわば同業・周辺領域の「規模を買うM&A」である。

この段階では、単なる売上拡大よりも利益率改善やコスト競争力強化が重視されたとみられる。実際、PCメーカーとしての収益基盤はこの時期に強化された。

ハード依存からの脱却を目指す

PC市場は長期的に成熟傾向にある。買い替え周期の長期化やスマートフォンの普及などにより、PC単体の成長余地は限定的となった。

MCJが複合カフェ、フィットネス、ITサポートなどのサービス領域に進出したのは、こうした市場構造の変化への対応だったと考えられる。

これらの事業は、ハード販売と異なり、会員制やサービス課金による継続収益を生みやすい。キャッシュフローの安定化という観点では合理的な投資といえる。

また海外ITサポート事業への進出も、この文脈で理解できる。ハード販売だけではなく、アフターサービスまで取り込むことで、顧客接点を広げる狙いがあった。

「選択と集中」で非中核事業を整理して収益性重視

2020年代に入ると、同社のM&Aは「取得」より「整理」の色彩が強まる。新規分野への進出は続くものの、シナジーの乏しい事業は比較的早期に売却されるようになった。

これは資本効率重視の経営への転換を示唆している。

実際、利益率改善やROIC(投下資本利益率)向上を重視する姿勢が強まり、売上規模より収益性を優先する経営方針が明確になった。

M&A戦略を大転換した直近3年間の業績を見ると、売上高こそコロナ禍によるPC需要特需の反動や市場成熟の影響で一時伸び悩んだものの、利益面では着実な改善が見られる。

特に近年は売上だけでなく利益を重視する経営姿勢が鮮明となり、製品ミックスの改善やコスト管理の徹底、サービス事業の拡充などにより営業利益率は9%を超えてきた。

資本効率の面でもROICは20%を超え、国内製造業における資本コストの目安とされる7%を大きく上回っており、強い収益力を示している。

MCJの過去3年間の収益

会計年度売上高(億円)営業利益率(%)ROIC(%) 2023年3月期 1910 7.5

18.8

2024年3月期 1874 9.2

22.6

2025年3月期 2071 9.4

23.3

PC事業、周辺機器、サービス事業という現在の事業構成は、こうした整理の結果として形成されたものだ。

なぜMBOを決断したのか?

こうした流れの中で発表されたのがMBOである。米大手投資ファンド ベインキャピタルの支援を受け、株式非公開化を目指す。

背景にあるのはゲームPC市場の成熟だ。少子化に伴い主要顧客層である若年人口が縮小するため、高性能なゲームPCを利用する国内ユーザーも減っていく見通し。

さらに家庭用テレビゲーム機やスマートフォンの進化を受けて、デジタルゲーム市場での競合は激化している。大きな市場成長が見込みにくい中で、企業価値向上には長期投資が不可欠だ。

しかし上場企業である以上、四半期業績や株価動向への配慮が必要になる。設備投資、海外展開、サービス分野開拓など、中長期投資を進めるには非公開化した方が意思決定しやすい。

PBR(株価純資産倍率)がMBO発表前の1年間で約1.3~1.6倍という水準だったことも無関係ではないだろう。

極端な割安ではないが、成長企業としては評価が伸びきらない水準であり、資本政策見直しの余地があった。

非公開化後のMCJのM&Aは、大型買収よりも既存事業の補完を目的としたボルトオン型が中心になる可能性が高い。具体的には以下のような戦略が考えられる。

①周辺機器、修理サービス、販売ネットワークなど、本業シナジーの高いPC関連バリューチェーン強化
②アジア・欧州での販売・サポート体制強化による海外事業の基盤拡張
③人材・技術の確保と充実

などだ。

M&Aで得た「教訓」は?

MCJの歩みを見ると、M&Aは単なる経営戦略にとどまらず、企業体質そのものを変える役割を果たしてきたことが分かる。

多角化の失敗を経て、同社は「選択と集中」を学び、本業シナジー重視へと戦略を修正した。結果として利益率や資本効率は改善し、現在の安定した収益構造が形成された。

MBOはその延長線上にある資本政策と言えるだろう。非公開化によって長期投資を加速し、ボルトオンM&Aで着実に事業領域を広げるというシナリオだ。

非公開化後に同社がどの領域に投資し、どのような企業を取り込んでいくのか。その動向は、同社の次の成長ステージを占う重要な指標となりそうだ。

文・写真:糸永正行編集委員

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