シャープ<6753>は1973年に世界初の液晶電卓を発売して以来、「液晶のシャープ」として成長した。1980~90年代にはノートパソコンや携帯電話向けに液晶を供給し、2001年には液晶テレビブランド「AQUOS」を投入。
巨額M&Aで事業転換した電機メーカー
シャープが頂点に立っていた頃、国内電機メーカーはM&Aを通じて事業構造を大きく転換しつつあった。ソニーグループ、日立製作所、パナソニックホールディングスなどは巨額の買収を重ね、ITサービスやコンテンツなど成長分野へ事業をシフトしている。
一方、シャープは同じ電機メーカーでありながら、M&A戦略ではまったく異なる道を歩んできた。その結果、2016年には、台湾に本社を置く世界最大手EMS(電子機器受託製造サービス)の鴻海精密工業の傘下に入るという、日本電機史でも異例の展開を迎えることになる。
2010年代以降、日本電機大手はM&Aを成長戦略の中核に据えてきた。ソニーグループは、映画や音楽などコンテンツ事業への投資を加速させている。2022年には米ゲーム会社Bungieを約4800億円で買収するなど、IP(知的財産)を軸にエンターテインメント企業へと変貌を遂げた。
日立製作所はさらに大規模な再編を進めている。2019年にはスイスABBの電力事業を約7000億円で買収し、2021年には米IT企業GlobalLogicを約1兆円で取得した。ITと社会インフラを融合した「デジタルインフラ企業」へと転換している。
パナソニックホールディングスも同様だ。2021年にサプライチェーンソフト企業Blue Yonderを約7800億円で買収し、製造業からBtoBソリューション企業への転換を進めている。これらの企業に共通するのは、M&Aを通じて「事業ポートフォリオそのもの」を変えた点だ。
シャープのM&Aは小規模にとどまった
これに対し、シャープの買収規模は日立やソニーなどと比較して、極めて小さい。2012年に液晶価格の暴落でシャープの業績が長期凋落を余儀なくされていることもあって、同時期には逆に多くの資産を売却している。太陽光発電事業のRecurrent Energy、メキシコのテレビ工場、欧州テレビ事業などを次々と手放した。M&Aを通じた拡大というより、むしろ事業整理が中心だった。
もし、液晶全盛期の2000年代初頭に、大型M&Aで新規事業を獲得していれば、シャープは液晶に代わる新たな経営の柱を獲得できたかもしれない。しかし、シャープは「選択と集中」で液晶事業に特化した。その結果、「集中」した液晶市場の競争激化で同社の業績に急ブレーキがかかる。
最大のM&Aは「シャープ自身の買収」
シャープのM&A史を語るうえで避けて通れないのが、2016年の鴻海精密工業による買収だ。
鴻海は第三者割当増資を引き受け、約3888億円を投じてシャープ株式の66%を取得した。日本の大手電機メーカーが外資企業の傘下に入った例は極めて珍しい。
皮肉なことに、シャープの歴史で最も大きなM&Aは「シャープが企業を買った案件」ではなく、「シャープが買われた案件」だった。
背景には、液晶事業への巨額投資がある。2009年に稼働した堺ディスプレイプロダクトは約4300億円を投じた大型投資だったが、その後の液晶パネル価格の急落により経営を圧迫した。結果として財務体質が悪化して、大型M&Aに踏み出す余力を失ったのだ。
鴻海傘下でのM&A戦略
鴻海傘下に入った後、シャープのM&Aは再び動き出す。ただし、その内容は「小型・実務型」が中心となる。
欧州の販売会社、ベトナムのカメラモジュール企業、台湾の携帯電話販売会社など、販売網や部品事業を強化する案件が多い。2020年にはNECディスプレイソリューションズを買収し、BtoBディスプレー事業の拡大を図った。
2026年にはERP開発企業シナプスイノベーションを買収し、DX領域にも進出している。
これらの案件はいずれも数十億円規模で、巨大買収とは性格が異なる。鴻海の製造ネットワークと組み合わせ、実務的なシナジーを追求する戦略といえる。
鴻海グループのグローバルな製造ネットワークを背景に、M&Aで再び成長の機会を得ようとしているのだ。M&A規模は小さいものの、販売網や部品、BtoB機器などを補完する形で着実に事業基盤を広げている。
とはいえ、業種は既存事業の関連ビジネスであり、事業ポートフォリオの拡充には手をつけていない。
M&A戦略がシャープの命運を分けた
日本電機メーカーの現在の姿を見ると、M&A戦略の違いが企業の進路を大きく分けたことが分かる。日立はIT企業へ、ソニーはコンテンツ企業へ、パナソニックはBtoBソリューション企業へと転換した。いずれもM&Aを通じて新しい成長分野を取り込んでいる。
一方、シャープは液晶事業への集中投資と経営危機の影響で、大規模M&Aによる事業転換の機会を逃した。その結果、鴻海傘下という新たな体制のもとで再建を進めることになった。
シャープのM&A史は、国内電機産業が経験した構造転換を分析する上でも重要だ。巨大買収による事業転換を選んだ企業と、外資傘下で再出発した企業。その対比は、日本企業にとってM&A戦略の重要性を改めて示している。
シャープは2023年3月期、2024年3月期に2期連続で赤字転落したものの、2025年3月期には黒字に転換。2026年3月期には営業利益が従来予想から150億円上方修正して65%増の450億円、連結純利益が前期比47%増の530億円になる見通しだ。業績回復を受けて、新たな事業ポートフォリオ構築に向けたM&Aを実施するのか。これからのシャープのM&A戦略に注目したい。
シャープのM&A年表(2008年以降)
公表日内 容取引総額(億円) 2008年3月24日 芙蓉総合リース<8424>、シャープのリース子会社を取得 312 2010年9月22日 シャープ、太陽光発電プラント開発の米Recurrent Energyを子会社化 246.62 2012年4月10日 シャープ、凸版印刷<7911>と大日本印刷<7912>の液晶カラーフィルター事業を子会社に統合 2014年9月26日 シャープ、ポーランドの液晶テレビ生産会社Sharp Manufacturing Polandを売却へ 1 2015年2月3日 シャープ、太陽光発電プラント開発の米Recurrent Energyを売却 304.70 2015年7月31日 シャープ、メキシコの液晶テレビ生産会社を中国ハイセンスグループへ譲渡 27.09 2015年12月22日 シャープ、太陽光発電・照明機器製造のシャープ新潟電子工業を経営陣に譲渡 5.9 2016年2月25日 台湾の鴻海精密工業グループ、経営再建中のシャープを買収 3888.12 2016年8月26日 シャープ、香港の合弁販売会社Sharp-Roxyを完全子会社化 7.14 2016年11月2日 シャープ、ソフト開発子会社のシャープビジネスコンピュータソフトウェアをNTTデータ<9613>に譲渡 24.45 2016年12月22日 シャープ、キプロスのテレビ製造販売会社SKYTEC UMCを買収 104.19 2017年2月8日 シャープ、スイスの複写機販売会社Fritz Schumacherを子会社化 19.35 2017年4月24日 シャープ、マレーシアのオーディオメーカーのS&O Electronicsを子会社化 0.01 2017年5月12日 シャープ、ベトナムのカメラモジュールメーカーを子会社化 3.54 2018年6月5日 東芝<6502>、パソコン子会社をシャープへ譲渡 40.05 2019年10月25日 シャープ、携帯電話販売の台湾「震旦電信」を子会社化 3.3 2020年3月25日 シャープ、NEC<6701>傘下でディスプレー・プロジェクター製造のNECディスプレイソリューションズを子会社化 92.4 2021年4月1日 nmsホールディングス<2162>、シャープ傘下のカンタツから3Dプリンター事業を取得 2021年4月30日 オンキヨーホームエンターテイメント<6628>、ホームAV事業をシャープと米ヴォックスに譲渡へ 33.23 2021年6月29日 シャープ、マイクロレンズユニット製造の中国子会社「連雲港康達智精密技術」を現地社に譲渡 2022年2月18日 シャープ、液晶パネル製造の堺ディスプレイプロダクトを再子会社化へ 2023年11月14日 シャープ、マイクロレンズユニット製造子会社のカンタツを永輝商事に譲渡 2024年2月1日 シャープ、中国の工業団地で管理サービスを手がける東芝杭州を子会社化 2026年3月2日 シャープ、ERP開発のシナプスイノベーションを子会社化 38.01文:糸永正行編集委員
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