「CASIO」といえば「G-SHOCK」というイメージが強いだろう。だが、カシオ計算機<6952>を一躍有名にしたのは社名にある通り「計算機」、いわゆる電卓(パーソナル計算機)だ。
長年にわたって時計や電卓、電子辞書といった独自の技術で市場を築いてきたカシオ計算機だが、近年は既存事業の伸び悩みから事業ポートフォリオの再構築を迫られている。その打開策として、同社が打ち出しているのが「“攻守”にわたるM&A戦略」だ。
創業の精神を礎に、いかにしてM&Aで新たな成長を描こうとしているのか。その戦略を読み解く。
ユーザーとの「良好な関係」がさらなる成長につながる
カシオ計算機は1946年、東京・三鷹市で創業。世界初の小型純電気式計算機「14-A」の開発で注目を集めた。「消費者の利便性を最優先にする姿勢」で、計算機の小型化にまい進。「トランジスタ計算機」から「メモリー付き電子式卓上計算機 001」、世界初のパーソナル電卓「カシオミニ」、「IC電卓 152」、ゲーム電卓に関数電卓と、次々と電卓を便利に、そして小さくしていった。カシオ計算機の歴史は、まさに「電算機」「電卓」の歴史でもある。
現在は時計や楽器、システム機器、EdTech(教育)関連からメディカル機器まで、幅広い分野で高品質でオリジナリティに富んだ商品を提供しているが、その礎になっているのがこうした創業当初から自社で培ってきた発明の精神と、独自の研究開発から生まれた多彩な技術やノウハウ。長年にわたって、そこに投資し続け、新たな市場へ転用、応用しながら、次の新たな“商材”を捉えてきた。
時計の耐久技術や、関数電卓や電子辞書などで培った精密加工技術、楽器での音声・音質技術などがそれで、相互に補完し合いながら、新たな商品開発を支え、さらに幅広い分野で培ったノウハウを組み合わせることでユーザーの多様なニーズに合わせた商品を素早く生み出せる体制を整えていった。
その一方で、当時としては革新的な取り組みだったテレビCMは目を引き、話題になった。こうしたマス広告で消費者への認知を高めながら、同時に学校教育の現場に出向き、教師や生徒に手厚く電卓の使い方を教え、声を聞き、メンテナンスに努めた。そんなきめ細かなサポート活動や販売手法は、現在も関数電卓を使って数学教育を支援する「GAKUHAN」活動につながる。また、頑丈で耐久性に優れたうえ精巧な「G-SHOCK」や、やさしく使いやすく正確性が象徴的な関数電卓、電子ピアノをより身近にしたキーボード「カシオトーン」と、どれも「使いやすく故障しにくい」商品力が「CASIO」の信頼性を高めてきた。
そこには、ユーザーサポートや公式ファンクラブ、SNSを活用したコミュニケーションによって、ユーザーとの交流を深めることで、新しい需要の発見や既存製品の改良を加速。ユーザーフィードバックを商品改良へつなげる流れを早期から実践してきたことが功を奏している。
例えば同社では2018年から、一人ひとりの思い出がつまったG-SHOCKをより長く使ってもらえるように修復し、保守対応が終了したモデルの部品を交換するレストアサービスを実施。23年12月5日には、1983年発売の初代モデル「DW-5000C」などの8機種を対象に受け付けた。
アクセサリーも、G-SHOCKの交換用ベルトやカスタマイズパーツなどのファンを飽きさせない工夫で収益拡大に貢献。販売後も継続的な売り上げを確保しやすくした。顧客との関係を深めていくなか、商品が長く使われるからこそ、購入後のサポートが重視される。“つかんだファンを逃がさない”地道な努力が「CASIO」ブランドの価値を向上させ、“成長の源”になっているといってよい。
不採算事業の見直し 将来への“地固め”のためのM&A
そうしたなか、カシオ計算機は2030年に向けて策定した中期経営計画(2年目総括)で、「不採算領域の抜本改革、成長領域への重点投資の推進」を打ち出し、大きな赤字を生む不採算事業を整理。全社のリソースをコンシューマ事業に集中できるポートフォリオを整備した。
「成長候補事業」に、教育アプリ、HR(人事ソリューション)、メディカル(AI画像ソリューション)、SMB(経営支援ソリューション)の4分野を据えて、競争環境や事業状況を見極めながら適切な投資(M&Aを含む)を通じて市場におけるポジションを確立する。時計と教育関数の分野は「成熟事業」。積極的な事業投資とM&Aを含む戦略投資、周辺領域への事業拡大で、さらなる成長へ導くとした。
電子辞書、楽器、PA(ハンディターミナル)、SA(電子レジスター)は「課題事業」。このうちSA事業は事業を終息、PA事業は新規開発・新規顧客の販売活動を停止する。電子辞書(EdTech事業)と楽器は構造改革や効率化・撤退など抜本的な施策を含め、早期に事業の方向性を見極め、収益性を改善。M&Aによるテコ入れを含め不採算事業の見直しも進める、としていた。2025年2月14日、電子辞書の新規開発を中止。生産・営業体制も縮小を発表した。
2025年2月25日、カシオ計算機が運営する中小企業向け販売管理と経営支援システム(SMB事業)を、連結子会社である人事システム子会社のカシオヒューマンシステムズ(東京都渋谷区、CHS)に吸収分割の方法で事業を承継したうえで、その株式をジャフコグループ<8595>が管理・運営するファンド(ジャフコBO7投資事業有限責任組合及びジャフコSV7-S投資事業有限責任組合)が出資するCSホールディングス(東京都港区、HD)にすべて譲渡する、と発表。カシオ計算機はCSHD株を20%取得。
25年4月1日には、グループ不動産を管理する連結子会社のカシオエステートを吸収合併した。カシオエステートは解散。これにより、不動産管理業務の内製化によるコスト削減と経営資源の一元化による迅速な意思決定を可能にする。
「積み上げた技術をムダにしない」CASIO成長の“源”
一方、“攻め”の部分では中期経営計画(最終年は2026年)で、アライアンスやM&Aなどの戦略投資枠として200億円を設けた。その第1弾が、中高生向けにデジタル教材プラットフォーム「Libry」を提供する教育系ベンチャー企業のLibry(東京都港区)の連結子会社化だ。2024年3月26日、カシオ計算機はLibryの株式を第三者割当増資等で68.9%を取得した。教育事業では「アプリビジネスへの積極投資」を掲げており、Libryの子会社化で、自社で展開する総合学習プラットフォーム「ClassPads.net」との協働を進め、アプリ事業のシナジーを最大化する。
AI(人工知能)の分野では、24年7月31日、カシオ計算機は独自開発のAIによるソーシャルメディアの分析やマーケティングサービスなどのAIQ(東京都文京区)と資本業務提携を結んだ。AIQ株を8.2%取得。新商品開発やソーシャルメディアマーケティング施策の領域、仮想人格生成AI技術の「DIGITAL CLONE」を企画開発に活用する考え。
かつて、2017年3月期に赤字に陥ったデジタルカメラ事業からの撤退は衝撃的だった。ただ、「積み上げた技術をムダにしない」のがCASIO流。「カメラ」という商品からは撤退したが、そこで培ったモジュール、身体の動きを捉えるセンサーなどの技術のほか、光源や音源の要素をかけ合わせ、開発資源を集約。新たな分野を開拓できる商品開発を目指した。それが現在の医療やヘルスケア分野での専門技術の強化につながり、新たな市場を切り拓くことになる。
医療界業は今後、ICT化の進展で大きな需要が見込める。例えば産婦人科向けの子宮頸部観察・撮影用のコルポカメラ「DZ-C100」とカメラスタンド「CST-100M」は、2022年3月に国内で販売を開始。翌23年9月に欧州、24年3月に米国と豪州、ニュージーランドと積極的に海外展開を図ってきた。25年7月30日には、台湾で販売を開始。新興国へのシェア拡大やカスタマイズサービスを進めることで、さらなる成長につなげる。
カシオ計算機には、まだまだ楽しみな“商材”が埋もれていそう。そんな期待をもたせてくれる。
なお、東京・成城に「樫尾俊夫発明記念館」がある。かつての私邸で、発明人・企業人の樫尾俊夫氏の足跡と、「計算機」の歴史がわかる。カシオ初の電子楽器「カシオトーン」や初の時計「カシオトロン」なども見学できるので、ぜひ足を運んでみてほしい。
文・髙橋べん(ライター)
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