【豊和工業】工作機械で人員削減や工場縮小に着手するもM&Aで業容を拡大 

工作機械をはじめ、火器や建材、特装車両など幅広い事業を手がける豊和工業<6203>は、さらに業容を拡大するためにM&Aを活用する。

新市場への参入や新製品の投入により事業領域を拡大するのと並行して、M&Aにより新たな資源やノウハウなどを獲得し、インオーガニック成長(外部の資源を活用した成長)を追求する方針だ。

不透明な自動車関連メーカーの設備投資需要

豊和工業は現在の事業環境について、工作機械関連事業とかかわりの深い自動車業界で、EV(電気自動車)化の流れが鈍化し自動車関連メーカーの設備投資需要が不透明化している半面、火器事業では防衛予算の増大などで防衛装備品に対する需要が増加するとともに、建材事業や特装車両事業でもニッチ市場である防音サッシや路面清掃車は継続して一定の需要が維持されるとの認識を持つ。

このため、工作機械関連事業では市場規模に合った収益構造への変革が必要であり、合わせて既存事業の収益力の向上や、新市場の開拓、新製品の開発などが不可欠と判断。

この課題解決のために今後3年間(2026年3月期~2028年3月期)は、既存事業では生産性の向上や、生産能力の増強、新商品、新サービスの投入などに取り組み、新市場や新規事業の開拓については、新たな市場ニーズの調査や、将来の事業拡大に向けた財務体質の強化などに取り組んだうえで、2029年3月期以降にM&Aを活用して業容を拡大することにした。

次々と新分野に参入

豊和工業は1907年に、豊田式織機の製造、販売を目的として名古屋市内に豊田式織機が設立されたのが始まり。

1936年に昭和重工業を設立し、兵器や工作機械の製造を始めたあと、1941年に昭和重工業を合併し、豊和重工業に改称。1945年に現在の豊和工業に社名を変更した。

その後、事業領域を広げ、1952年に加工対象物を固定するための治具であるチャックと空圧機器の製造を、1958年にはサッシやドアなどの金属製建具を、1968年には米国のウエイン(現 ジョンストン・スイーパー)との提携による路面清掃車の製造を始めた。

さらに1983年にはピストンロッド(棒状のシャフト)がない形状のロッドレスシリンダー(直線的な動きを生み出す機械)を国産化し、2000年にプリント基盤露光装置に参入。

2004年には可動防水板の製造を始め、2019年に産業用ロボットによる自動化を提案するロボットSIer(ロボットシステムインテグレーター)事業を開始するなど、次々と新分野に乗り出していった。

M&Aでインドネシア事業と特装車両事業を拡大

M&Aによる事業領域の拡大にも取り組んでおり、2016年12月に工作機械の修理や改造を手がけるインドネシアのアスカインターナショナルインドネシアを買収し、翌2017年1月にホーワスカメシンインドネシアに社名を変更、豊和工業のインドネシア現地法人とした。

このM&Aで、インドネシアで工作機械や各種機械、機器の販売、修理、改造、据え付け、アフターサービスなどの業務に乗り出し、海外事業の拡大につなげた。

また、2018年には官公庁向けの防弾、耐爆仕様などを備えた特殊車両の製造、販売や、民間警備会社向けの現金輸送車の製造、販売を手がけるセキュリコを買収した。

豊和工業が手がけていた路面清掃車事業に、需要の拡大が見込まれるセキュリティー関連の特殊車両を加えることで事業を拡大するのが狙いで、2022年にはセキュリコを吸収合併し、路面清掃車事業と防弾車両事業などを一体運営することでシナジーを高めた。

【豊和工業】工作機械で人員削減や工場縮小に着手するもM&Aで業容を拡大 
豊和工業の沿革と主なM&A

強みは多角的な事業展開

豊和工業は現在、工作機械、空油圧機器、電子機械からなる「工作機械関連事業」が全社売上高の28%ほどを、陸上自衛隊向けの自動小銃や、海外向けのスポーツライフルなどを手がける「火器事業」が同32%ほどを、防水建材や防音サッシなどの「建材事業」が同13%ほどを、防弾車両や路面清掃車などの「特装車両事業」が同12%ほどを、不動産賃貸、国内販売子会社などの「その他事業」が同15%ほどを占める。

豊和工業の強みは、こうした多角的な事業展開による景気変動に対する耐性と、長年工作機械製造で培ってきた精密加工技術にある。

同社では自身の強みとして「工作機械を中心に多彩な事業を展開」「産業用機械のパイオニア」「変革に挑み続けた100年の歴史」「国家資格を持つ技能者集団」の四つを挙げており、今後もこれら強みを活かした事業展開を進める計画だ。

工作機械関連事業は黒字転換

豊和工業は2025年2月に2025年3月期の業績予想を修正し、好調な火器事業によって増益が見込まれるとして営業利益を当初予想より3億6000万円多い11億2000万円に引き上げた。売上高は防衛装備品の増加や海外向けスポーツライフルの売り上げが増加する半面、工作機械の売り上げ減少などを見込み、当初の予想の241億円を据え置いていた。

2025年5月15日に発表した2025年3月期の実際の数値は、修正予想を上回り売上高は248億2700万円(前年度比25.5%増)、営業利益は12億5300万円(同3.2倍)と大幅な増収営業増益となった。

この結果を踏まえ2028年3月期には売上高250億円(2025年3月期比0.69%増)、営業利益22億円(同75.5%増)を見込む。

売上高の伸びが小さいのは、工作機械関連事業で需要の減少に合わせて人員削減や工場の縮小、中国子会社の縮小などに取り組み、2025年3月期よりも5億円を超す減収となるためで、火器や特装車両、建材などの7億円を超える増収効果打ち消す形となる。

ただ、利益は工作機械関連事業で2025年3月期に4億円強あった営業赤字が、2028年3月期には3億円を超える黒字に転換するため、営業利益は70%を超える伸びを見込む。

同社では2028年3月期までの3年間は、収益構造の改革や事業拡大などにつながる基盤を構築し、その後にM&Aの実施に踏み切る計画だが、インオーガニック戦略などの実施に向けた資金確保のために、2028年3月期までの3年間に10億~20億円の財務基盤強化枠を設け、決断の日に向け準備を進める。

工作機械、火器、建材、特装車両などに次ぐ新たな事業とはどのようなものになるだろうか。

【豊和工業】工作機械で人員削減や工場縮小に着手するもM&Aで業容を拡大 
豊和工業の業績推移
2026/3は予想、2028/3は計画

文:M&A Online記者 松本亮一

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