【関電工】グリーンイノベーション関連事業の拡大に向けM&Aを活用

電気設備工事大手の関電工<1942>は、グリーンイノベーション(環境への負荷を減らすために社会システムを変化させる取り組み)関連事業の拡大に向け、M&Aを活用する。

脱炭素コンサルティング(EMS=エネルギーマネジメントシステムなど)ビジネスの確立や、次世代O&M(再エネ、蓄電池、建築設備の保安やエネルギー需給の最適運用)の体制構築などを進める中で、関連する企業や事業の取得に取り組む。

過去最高更新で投資枠を拡大

グリーンイノベーションは、再生可能エネルギーやEV(電気自動車)、省エネ技術、カーボンリサイクルなどの技術を中心に環境と経済の両立を目指す取り組みで、今後、環境問題を解決するための新しい技術やサービスの誕生が見込まれる。

関電工ではすでにEV充電設備などを手がけており、今後発電量予測システムや、次世代型太陽光電池、省エネ変圧器、直流給電などの事業を拡充し、さらに2027年3月期までに、無線給電やヒートポンプ、産業空調などに進出し、将来的には次世代原子炉、水素、CO2貯蔵、太陽光パネルリサイクルなどの事業参入を模索する。

こうした取り組みの中で、事業領域の拡大や、既存事業の深化、さらには新たなグリーンイノベーション関連事業などを対象に、2025年3月期~2027年3月期の3年間に、M&Aなどに550億円を投じる計画だ。

当初、同期間の投資額は400億円を想定していたが、2025年3月期に旺盛な民間建設投資を背景とした収益の改善や生産性の向上などが進み、売上高は6718億8800万円(前年度比12.3%増)、営業利益583億2600万円(同42.5%増)と大幅な増収営業増益を達成。

さらに今後も半導体工場やデータセンターなどの建設、大規模な再開発事業の計画、脱炭素化に向けた設備更新需要などが見込めるため、M&Aなどへの投資額を一気に150億円引き上げた。

また2025年3月期は、2024年4月に策定した中期経営計画の最終年度である2027年3月期の業績目標である売上高6400億円、営業利益450億円を2年前倒しで達成し、過去最高業績を更新した。

このため中期経営計画の数値目標も上方修正し、2027年3月期の売上高を7160億円に、営業利益を670億円とするとともに、ROE(自己資本利益率)、ROIC(投下資本利益率=税引き後営業利益を投下資本で割った値で、企業の稼ぐ力を表す)を、ともに8%から10%に引き上げた。

【関電工】グリーンイノベーション関連事業の拡大に向けM&Aを活用
関電工の業績推移
2026/3は予想、2027/3は計画

2021年以降は適時開示案件ゼロ

関電工は1944年に協立興業社や関東配電など8社がまとまり、電気工事会社として東京都内で設立された関東電気工事が前身。

M&Aには早くから前向きで、同社の沿革によると1961年に應用電気(現 関工商事)に、1971年に第一企業(現 関工パワーテクノ)にそれぞれ資本参加。

1984年に関電工に社名を変更。その後もM&Aの勢いは衰えず、1985年に東京工事警備に、2003年に阪急電気工事(現 阪電工)に、2004年にTLC(現 タワーライン・ソリューション)にそれぞれ資本参加した。

2008年には、空気調和設備工事や給排水衛生設備工事などを手がける川崎設備工業<1777>をTOB(株式公開買い付け)で子会社化。直近では2021年に、ケーブルテレビ局向けソフトウエア開発を手がけるネクストキャディックス(東京都渋谷区)子会社化した。

これ以降はM&Aからは遠ざかっており、適時開示した案件はない。

【関電工】グリーンイノベーション関連事業の拡大に向けM&Aを活用
関電工の沿革

子会社化の川崎設備工業も上方修正

関電工は、東京電力ホールディングスの子会社である東京電力パワーグリッドが大株主で、2025年3月末時点で東京電力パワーグリッドが関電工の46.35%の株式を保有している。

東電グループの一員としての知名度や信頼度は高く、グループ全体の事業や顧客基盤を活かしたシナジーが強みだ。

単体の業績と並んで子会社の業績も好調で、2008年に子会社化した川崎設備工業は2025年7月末に、2026年3月期の業績を上方修正し、売上高を15億円多い360億円(同23.5%増)に、営業利益を9億円多い40億円(同47.4%増)に引き上げている。

電気設備工事の業界団体である日本電設工業協会によると「電気設備工事業界は受注高や業績が堅調に推移しており、今後も需要は堅調であるとみられる」としている。

一方で、技術者、技能者の高齢化や若年入職者の減少傾向は継続しており、現場を支える人材の不足が深刻化しているという。

こうした状況の中、関電工では人材の育成や活用、従業員エンゲージメントの向上などに取り組む計画で、研修やリスキリングの拡充や、業績貢献に応じた報酬配分、処遇改善などを実施する。

活発化が見込まれるM&A

電気設備工事業界では、関電工以外の電力会社系の電気設備工事会社もM&Aに前向きで、九州電力グループの九電工<1959>は、事業領域の拡大に向けた戦略的なM&A(能動的M&A)を実施する。

同社では今後5年間(2026年3月期~2030年3月期)に、カーボンニュートラル関連事業などとM&Aに、合わせて800億円を投じる計画だ。

中国電力グループの中電工<1941>は、事業拡大に向けたM&Aに取り組む方針を打ち出しており、施工体制の強化に向けたM&Aの推進を目標に掲げているほか、関西電力グループの、きんでん<1944>も事業基盤の整備、拡充にM&Aを活用する考えを示している。

今後、電気設備工事業界でM&Aが活発化することが予想される中で、4年ほどM&Aから離れている関電工はどのような手を打つだろうか。

文:M&A Online記者 松本亮一

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