マンダム、「着地点」は見つかるか? 創業家の目論見が完全に外れ混迷深めるMBO

老舗化粧品メーカーのマンダム<4917>を巡るMBO(経営陣による買収)が、4回にわたって募集期間を延長するなど、異例の混迷を深めている。創業家主導で始まったはずのMBOは、市場から「割安」と断じられ、アクティビストの介入を招き、ついには米投資ファンドKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)による買収提案に発展した。

マンダムがMBOを決断した背景と当初計画

このMBOは創業家が経営の主導権を取り戻し、中長期的な観点から意思決定を下すための非公開化として構想されたものだったが、逆に創業家の経営関与は弱まりかねない。MBOはどこへ向かい、マンダムはどのような着地点を見いだすのか?

マンダムは1927年創業の老舗企業であり、男性化粧品「マンダム」「ギャツビー」「ルシード」などのブランドで国内市場に確固たる地位を築いてきた。

一方で、近年は若年層人口の減少や原材料価格の高騰、海外事業の伸び悩みといった構造要因から成長力が鈍化し、株価は長期低迷が続いていた。

創業家の西村元延会長と西村健社長が経営を担い続けていたものの、株式の保有比率はおよそ11~12%にとどまっている。そのため、機関投資家や市場からの短期的な評価に縛られ、「中長期視点の経営が難しくなっている」という問題意識が強まっていた。

こうした背景のもとで選択されたのが、英CVCキャピタル・パートナーズ系ファンドのカロンホールディングスと組むMBOだった。当初構想では、非公開化によって株主の短期圧力から解放され、創業家が再出資することで全体の34%を保有し、ファンドと創業家が準共同支配の体制を築く。

そのうえで、ブランド投資や海外展開といった中長期戦略に腰を据えて取り組む。創業家にとってMBOは、「経営への関与を取り戻す」ための手段だった。

市場は「安すぎるMBO」と判断、アクティビストが介入

しかし、このシナリオは早い段階でつまずく。TOB価格は1株1960円と設定されたが、発表後も株価はTOB価格を上回って推移し続けた。市場はこの水準を「安すぎるMBO」と判断したのである。

マンダム側は、独立算定機関による評価結果や過去の平均株価との比較を根拠に、価格は適正であると主張。澤田正典CFO(最高財務責任者)も決算説明会で、「短期的な株価ではなく、中長期的な企業価値を重視する」と強調した。

カロンの資金調達手段は親会社からの出資270億円と銀行借り入れ530億円と、買付価格の引き上げは容易ではないという事情もあった。結果的に対抗提案や敵対的な買収を排除するには、いささか資金不足だったと言えそうだ。

この機を逃さなかったのが、村上世彰氏の長女である野村絢氏ら、いわゆる村上系アクティビストだった。大量保有報告書の提出を皮切りに株式を買い進め、MBO価格を「著しく割安」と公然と批判した。

マンダムは、「大規模買付行為への対応方針」を策定。これは一般的な買収防衛策とは少し性格が異なり、MBOが進行する局面で、株主の判断機会と時間を確保するための手続ルールだった。

具体的には議決権割合を20%以上とすることを目的とした大規模買付者に60営業日前までの趣旨説明書の提出や必要情報の追加提出を義務付け、この間を「株主の熟慮期間」として取得行為を停止させる。これを破った場合は全株主に新株予約権を無償交付し、大規模買付者の議決権比率は、概ね半分程度に希薄化する仕組みだ。

しかし、事態は収束しなかった。最終的にTOB価格は2520円へと3割ほど引き上げられ、野村氏らは応募契約を締結する。これによりMBOは前進したかに見えたが、思わぬ「落とし穴」があった。

KKRの参入、なぜマンダムは狙われたのか?

それは皮肉にも、MBOの妨害を防ぐための「大規模買付行為への対応方針」だった。マンダムとしてみれば大規模買い付けを防ぐための「手続」を定めたものだが、裏を返せば「手続」を遵守すれば、買収の可能性があるということだ。

しかも、長期間の「株主の熟慮期間」を設けたために、新たな参入者に時間的な猶予を与えてしまった。これに呼応したのが、12月15日に1株約2800円という対抗案を提示したと報じられたKKRだ。同社は敵対的買収ではなく友好的買収を前提とし、創業家との関係維持や再出資の可能性にも言及した。

マンダムが狙われた理由は明確だ。第一に、ブランド力や事業基盤に比して企業価値が低く評価されていた点。第二に、創業家が経営を主導しながら持株比率は高くないという「支配と所有のねじれ」。

そして第三に、MBOを巡る一連の動きで「マンダムは買収できる」と示したこと。MBOの実施がアクティビストやファンドを呼び込み、結果として競争型入札の舞台を自ら整えてしまった。

カロン案とKKR案の最大の違いは、創業家の立ち位置にある。カロン案では、創業家が約3割を再出資し、ファンドと準共同支配の関係を築くことが前提だった。経営への関与度は高いが、その分、資金負担も重い。

一方でKKR案では、創業家は5~10%程度の戦略株主にとどまり、支配はKKRに集中するとみられる。

MBO価格が上昇した結果、創業家が当初想定していた34%の出資を維持する現実性は低下しているからだ。

決着はどうなる?三つのシナリオ

今後考えられるシナリオは三つある。第一は、KKR案で決着するケースだ。高価格での募集は株主の支持を得やすく、実現可能性が最も高いとみられる。この場合、創業家の経営関与は弱まるが、企業の「旗印」として象徴的な役割は維持される可能性が高い。

第二は、カロンが再度価格を引き上げて対抗するケースである。ただしその場合、MBO後のレバレッジ負担が増し、経営リスクが高まる。創業家の関与は相対的に維持されるものの、財務的な重みは無視できない。

第三は、MBOそのものが撤回され、上場を維持するケースだ。しかしこの場合、株価の乱高下やアクティビスト主導の経営刷新圧力が強まる可能性が高く、現実性は低いとみられる。さらには敵対的TOBを仕掛けられる余地も残るため、創業家の影響力を維持できるかどうかは不透明だ。

今回のマンダムの事例が示したのは、MBOがもはや「内輪の整理」では済まされない時代に入ったという現実だ。募集価格、ガバナンス、創業家の立ち位置が市場に受け入れられなければ、MBOには介入が相次ぎ、容易に競争入札型の買収合戦へと転じる。

創業家が株主からの影響を排除して、自らの関与を強めるために選択したMBOが、条件次第では逆効果になり得ることが明らかになった。その教訓は、日本企業、とりわけ創業家が実質支配する上場企業に突きつけられている。

マンダムの混迷は、MBOが「創業家の支配回復装置」ではなく、「創業家の出口戦略の一形態」であることを知らしめた。マンダム創業家の目論見は外れたが、その先に納得できる着地点を見いだせるだろうか?

マンダムMBOを巡る動き

時期出来事詳細9月10日マンダムがMBO実施を公表創業家主導で非公開化を目指すMBOを発表。短期的な株価変動に左右されない中長期経営を目的と説明9月26日MBO開始CVCキャピタル・パートナーズ系のカロンホールディングスが買付開始。買付価格は1株1960円9月下旬~10月株価がTOB価格を上回って推移市場株価が1960円を上回り、「安すぎるMBO」との見方が拡大同上アクティビストが買い増し村上世彰氏長女の野村絢氏らが大量保有報告書を提出し、株式を段階的に取得11月4日マンダムが大規模買付行為への対応方針を公表20%超取得を企図する買い手に対し、説明と情報開示、時間確保を求める枠組みを導入同上

カロンが募集期間を延長

マンダムの「大規模買付行為への対応方針」を受けて、11月19日まで延長11月6日マンダムが買付価格の正当性を主張決算説明会で「買付価格は適正」「中長期価値を重視」と説明11月19日カロンが募集期間を再延長応募状況や今後の応募の見通しを総合的に勘案して成立の可能性を高めるため、12月4日まで延長11月27日カロンが買付価格を引き上げ1株2520円へ約3割引き上げ。野村氏らと応募契約を締結同上

カロンが募集期間を3度目の延長

買付価格引き上げを受けて、12月18日まで延長11月下旬MBO前進との見方広がるアクティビストの応募合意で、MBO成立に向け一時的に前進したとの評価12月10日頃KKRが意向表明KKRがLOI(意向表明書)を提出したとされる12月15~17日KKRの対抗提案が報道1株約2800円の買収提案。敵対的ではなく友好的買収が前提、創業家の再出資にも言及12月16日カロンが募集期間を4度目の延長「第三者から新たな買収提案を受けた」として、2026年1月5日まで延長


文:糸永正行編集委員

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