【マルハニチロ】日本食ブームに乗り、M&Aで海外に活路を見出す

国内水産大手のマルハニチロ<1333>。日本食ブームに乗って海外で水産物市場が活況を呈しているのを受けて、M&Aによるグローバル展開を進めてきた。

2021年の買収を最後に鳴りを潜めていた同社が、満を持してM&Aに乗り出した。

4年ぶりのM&Aは欧州企業

マルハニチロの2025年3月期決算は、売上高が前年比4.7%増の1兆786億円、営業利益が同14.5%増の303億円、当期純利益が同11.6%増の232億円と、増収増益を達成した。好調な業績を受けてか、同社は4年ぶりのM&Aを実施している。

2025年5月、欧州での基盤強化を狙って、オランダの水産加工企業Van der Lee Seafish Beheer B.V.(VDLグループ)を子会社化すると発表した。VDLグループは、パン粉付け水産物や調理済み製品の製造・販売に強みを持ち、欧州大手の小売チェーンや業務用向けに多様な商品を提供している。

マルハニチロは同社の加工能力と大西洋地域における原料調達のネットワークを利用し、漁獲から加工、流通に至る垂直統合型のサプライチェーンを欧州に構築する方針だ。

欧州連合(EU)の水産物輸入市場は今後も堅調な成長が見込まれており、同社は2032年までに年平均5.3%の成長を予測している。こうした市場環境を背景に、冷凍水産物販売子会社Seafood Connection Holding B.V.がVDLグループの株式70%を取得し、欧州における事業展開を加速する。

M&Aで旺盛な海外需要に対応

同社は、アジアでもM&Aで事業を拡大している。2021年1月にベトナム水産・食品加工メーカーであるサイゴンフードの株式57.93%を取得し、子会社化することを決定。

サイゴンフードは日本向け水産加工品の製造委託先として2017年から取引実績があり、自社ブランド「SG FOOD」で冷凍食品やレトルト食品、ベビーフードなどを展開。買収により東南アジアでの生産基盤を強化し、製造から販売までの安定供給体制を狙った。

日本食ブームにより、海外で寿司、刺身、魚介を使った和食などへの需要が高まっている。マルハニチロは、冷凍魚介類や加工食品などを供給。

品質の高い日本の水産物は海外で評価が高く、マルハニチロの強みが生かせる。こうした旺盛な需要に対応するため、海外で生産拠点や販売ネットワークの構築を急ぐ。海外で増加している日本食レストランに水産物や加工食品を提供するため、M&Aでサプライチェーンを強化しているわけだ。

国内でも、本業である水産事業に関連する事業は積極的に取り込んでいる。新たな製造インフラとして林兼デリカを2010年に買収し、自社の冷凍・缶詰事業の内製化を推進。さらに、業務用冷凍食品メーカーのヤヨイ食品を2012年に買収し、冷凍食品の拡充を図っている。市販用と業務用の販売チャネルや商品開発体制を相互活用し、事業の相乗効果を狙う。

「選択と集中」でノンコア、不採算事業を売却

一方で、マルハニチロはコア事業に集中するため、収益性の低い事業や周辺事業の整理による「選択と集中」も断行してきた。2014年、米子会社のWestward Seafoods, Inc.が所有するコディアック工場をTrident Seafoods Corporationに譲渡し、アラスカ・ダッチハーバーの主力工場に現地事業を集中している。

2016年にマレーシアでエビ養殖を行うAGROBEST(M)SDN.BHDの全株式を中国の福建恒水股份有限公司に譲渡。2011年以降、東南アジアで蔓延した病害の影響で経営悪化が続き、改善が難しいと判断された。

2020年にはアラスカ産紅鮭・カラフト鱒の加工販売を手がけていた米子会社Peter Pan Seafoods Inc.の事業をNorthwest Fish Companyに譲渡している。原料価格の高騰と集魚不足により営業損失が続いており、収支改善が見込めないことから撤退を決めた。


非水産分野の事業にも大鉈(なた)を振るい、経営資源の集中を進めてきた。2008年に段ボール製造子会社の大興製凾、2010年には包装機械製造のニチロ工業も売却。2012年に函館国際ホテル、2013年には清涼飲料や果汁飲料を手がけるニチロサンパックも売却している。

日本の水産市場は人口減少や食生活の変化により、中・長期的には縮小傾向にある。一方、世界的な水産物需要は増加しており、海外市場でのプレゼンス強化はマルハニチロにとっても喫緊(きっきん)の課題だ。今後もアジアや欧米などの海外水産会社の買収により、収益力の強化とグローバルな市場対応力の向上を加速することになるだろう。

マルハニチロのM&A年表(2008年以降)

公表日取引価額内 容 2008年2月25日 非公表 段ボール製造販売会社の大興製凾を譲渡 2009年6月29日 6億1800万円 マダガスカルの水産子会社を譲渡 2010年8月30日 1億円 子会社のマルハニチロ食品が、食品製造業の林兼デリカを取得 2010年9月27日 非公表 包装梱包機械メーカーのニチロ工業を譲渡 2012年4月23日 非公表 業務用冷凍食品製造のヤヨイ食品を取得 2012年7月9日 非公表 函館国際ホテルを譲渡 2013年5月7日 非公表 清涼飲料水製造のニチロサンパックを譲渡 2014年12月22日 39億2200万円 米子会社のアラスカ水産物加工工場を譲渡 2016年3月28日 非公表 マレーシアのエビ養殖会社AGROBESTを譲渡 2020年11月2日 非公表 米子会社のアラスカ産鮭鱒事業を譲渡 2021年1月8日 非公表 水産加工のベトナム「サイゴンフード」を取得 2025年5月12日 非公表 水産物加工のオランダVDLグループを取得

文:糸永正行編集委員

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