倉庫を中心に物流や不動産などの事業を展開する三菱倉庫<9301>は、課題とする事業成長とROE(自己資本利益率)の向上に向け、投資のペースを従来の2倍超に引き上げる。
過去3年間(2023年3月期~2025年3月期)の投資額は計画ベースで1300億円だったが、今後6年間(2026年3月期~2031年3月期)は5900億円を計画する。
このうちM&Aには、物流部門を中心に、1000億円以上を投入する。
過去3年間の経営計画では、M&A投資はDX(デジタルトランスフォーメーション)やIT関連投資なども含めた総額でも500億円にとどまっており、投資スタンスを大きく転換する。
慎重経営から攻めの投資スタンスへ大転換
三菱倉庫は2025年10月に公表した統合報告書で、今後の経営課題として事業成長とROE(自己資本利益率)の向上を改めて明確に示した。
同社は、資産効率の改善を、事業成長とROE向上を実現するための重要な手段と位置付ける。
長年の事業活動を通じて保有してきた政策保有株式や不動産などについては、資産効率の観点から見直しを進める方針だ。「縮小均衡ではなく、事業成長でROE 向上を目指す取り組みを進める」という。
その一つの施策が積極的な投資で、今後6年間で5900億円に達する投資計画を策定。このうち成長投資に4750億円を充て、物流分野に2500億円、不動産分野に1750億円、新規事業に500億円を配分する。加えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資に350億円、既存設備の更新投資に800億円を計画している。
物流分野を中心に1000億円以上の枠を設けたM&Aについては、トータルロジスティクスサービス(保管から配送、情報管理までを一括して担う総合物流サービス)強化を目指し、国内外の拠点拡大、重点カテゴリーの営業強化、流通加工や輸配送サービスの拡充などを進める。
一方で、M&Aを含む投資活動の活発化に伴いリスクマネジメントの重要性が高まると判断し、2025年4月に専門部署(リスクマネジメント部)を設置した。同部ではM&Aを含む投資案件について投資判断や撤退基準のルールを整備し、適切な意思決定を支援する。
同社はこれまで、M&A実績は多くない。
富士物流は、電気、電子機器の取り扱いに強みを持っており、物流事業の補完を狙った案件で、Cavalier Logisticsグループは、米国や欧州での医療・ヘルスケア物流の拡大が目的だった。
同社は、今後6年間は過去3年に比べ「年度当たり倍以上のペースの投資を計画している」としており、慎重経営から攻めの投資へと転換する方針だ。
トータルロジスティクスへシフト
帝国データバンクによると、倉庫業は保管スペースの提供にとどまらず、荷役や流通加工、梱包・包装、情報管理、輸配送調整などを担うことで、物流機能の中核を形成している。
近年はEC(電子商取引)市場の拡大などを背景に、倉庫を拠点に物流機能全般を一括で請け負う「3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)」事業の展開が加速している。
また矢野経済研究所によれば、物流市場は2025年度は拡大基調にあり、なかでも3PLについては今後も着実に市場規模が拡大していく見通しだ。
三菱倉庫がM&Aを積極化する背景には、こうした物流業界を取り巻く構造変化がある。
EC市場の拡大や医薬品・ヘルスケア物流の高度化などへの対応のためのトータルロジスティクスへのシフトは、自社投資だけでは時間を要する。
新しい機能や地域展開をM&Aによって補完することで、成長スピードを高めることにした。
資産効率改善をテコに投資・M&Aを加速
三菱倉庫は1887年、三菱為換店(1880年3月開業)の倉庫業務を継承し、東京・深川に東京倉庫会社として設立された。
1918年には社名を現在の三菱倉庫に変更。1962年にはコンピュータ用賃貸ビル事業を開始し、これを契機に不動産事業に本格進出。
コンピュータ専用ビルをはじめ、オフィスビル、商業施設などの賃貸施設を展開するとともに、マンション分譲にも乗り出し、事業領域を広げていった。
物流分野では1963年に自動車運送事業、1971年に航空貨物取扱事業に本格参入。さらに1999年には冷蔵倉庫業にも進出し、取り扱い分野の高度化、多様化を進めてきた。
こうした市場環境のもと、三菱倉庫は物流と不動産の二本柱を事業の軸としているほか、豊富な人的資源や環境変化への対応力といった強みを持つ。
現在の売上構成は、物流事業(倉庫、陸上運送、港湾運送、国際運送取扱など)が約83%を占め、不動産事業(分譲マンション販売、賃貸オフィスビル運営など)が約17%となっている。
2025年3月期は、米国のCavalier Logisticsグループが寄与したことに加え、医薬品、食品、輸出入貨物などの取り扱いが増加。
この結果、売上高は2840億6900万円(前年度比11.6%増)、営業利益203億1000万円(同7.2%増)の増収増益を達成した。
一方、2026年3月期の業績予想については、2025年10月に下方修正。売上高2800億円(同1.4%減)、営業利益160億円(同21.2%減)の減収営業減益を見込む。
米国のCavalier Logisticsグループの業績が計画を下回っているほか、中国の景気減速による中国子会社の業績が低迷していることが要因で、当初予想から売上高で100億円、営業利益で40億円引き下げた。
その後の中長期計画では、2031年3月期に売上高6300億円以上、営業利益率8.3%の目標を掲げる。売上高6300億円を前提とすると、営業利益は約523億円となる計算だ。
あわせて経営指標としてROEの向上を重視する方針を明確化。
資産の効率化対策として、CRE(Corporate Real Estate)部を設置。従来は倉庫資産を倉庫事業部、不動産資産を不動産事業部が、それぞれ管理していたが、CRE部が全社横断で資産を把握し、最適な活用を進める体制を整えた。
資産効率の改善によって生み出した余力を成長投資やM&Aに振り向け、事業規模の拡大と資本効率の向上を同時に実現できるかが、今後の中長期的な企業価値向上を左右することになりそうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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