【三井不動産】M&Aとスタートアップ出資で、非不動産事業を拡充

総合不動産最大手の三井不動産<8801>は2031年3月期までにM&Aに4000億円以上を、スタートアップ出資に1000億円以上を投じる。

2024年4月に新設したイノベーション推進本部の中の新組織M&A推進室などが事業を進める。

すでにスタートアップへの出資は実現しており、M&Aについてはこれから本格化する見込みだ。

両利きの経営を実践

三井不動産は2024年4月に長期経営方針「& INNOVATION 2030」を策定し、「コア事業のさらなる成長(深化と進化)」「新たなアセットクラスへの展開」「新事業領域の探索、事業機会獲得」の三つを事業戦略として掲げた。

コア事業では、差別化やマーケット創出を通じて、外部環境に関わらず、高い収益性を実現することや米国事業の拡大などを目指し、2025年3月期から2027年3月期までの3年間に2兆円を投じ、ミクストユース(住宅、商業施設、オフィス、公共施設などの複数の用途を組み合わせた土地利用)開発や、オフィス、商業施設、物流施設、大規模な中高層住宅の拡充、販売用海外不動産の獲得などを進める。

このコア事業の成長と並行して取り組むのが「新たなアセットクラスへの展開」と「新事業領域の探索、事業機会獲得」で、同社ではコア事業と新規事業の両方を同時に進めることで「両利きの経営を実践」するとしている。

「新たなアセットクラスへの展開」では、東京ドームのイベントなどの企画運営ノウハウを活用した新たな収益源の開拓や、スポーツ・エンターテインメントを活用した街づくりなどを行うほか、賃貸ラボ事業やデータセンター事業を拡充する。

そしてM&Aやスタートアップ出資などを計画しているのが「新事業領域の探索、事業機会獲得」で、オープンイノベーション(社内外の技術やサービスを組み合わせて革新的な価値を創り出す取り組み)のプラットフォーム(基盤)の提供を通じて、従来の不動産デベロッパー(開発者)の枠を超えた事業展開を行う計画だ。

ライフサイエンスや宇宙などに投資

投資先としてはライフサイエンス領域、宇宙関連領域を見込んでおり、さらにスタートアップなどとの共同研究の中から注力分野を見極め、収益の柱に育てていく。

すでに、2024年4月に脱炭素に特化した「Breakthrough Energy」(米国)、「Just Climate」(英国)、「ONE Innovators」(日本)の三つのファンドに出資したほか、フュージョンエネルギー(核融合)実現を目指すスタートアップ「京都フュージョニアリング(東京都千代田区)にも資金を投じた。

さらに直近では2025年5月に、コマースDX(デジタル技術を活用して、企業の電子商取引事業などを変革する取り組み)を実現するプラットフォームを提供するSUPER STUDIO(東京都目黒区)に出資し、持分法適用会社化した。

一方、M&Aの方は、まだ実現しておらず、今後ライフサイエンス領域や宇宙関連領域、そのほかの注力領域での探索を進める。

これまでに適時開示した主なM&Aは、2002年の三井不動産建設の売却や、2008年の資産運用会社のフロンティア・リート・マネジメントの取得、2020年の東伊豆エリアの別荘地管理事業の譲渡、2021年の東京ドームの子会社化、2024年の浅間高原別荘地の管理事業の譲渡などがある。

中でも野球場や遊園地、ホテルなどを運営する東京ドームの子会社化は1000億円を超える大型のM&Aで、スポーツ・エンターテインメントを軸とする街づくりや、新規領域のスタジアム・アリーナ事業への本格展開など非コア事業の拡充につながるものだ。

将来の収益の柱を育成

不動産業は、土地の取得から建物の施工、販売などを行う「開発」、戸建て住宅やマンションなどの建設、販売を手がける「分譲」、所有不動産の賃貸などを行う「賃貸」、土地建物の売買や賃貸の仲介などの「流通」などの事業からなる。

日本の不動産業界は、金利が低く資金調達が容易なことなどから、堅調に推移している。帝国データバンクが2024年8月にまとめたレポートでは、不動産賃貸(住宅系賃貸除く)、不動産仲介(住宅系賃貸含む)、不動産投資はいずれも成長が続くと予想している。

ただ少子高齢化による住宅や商業施設の伸びの鈍化や、オフィスの供給過剰、テレワークの定着などによる空室率の上昇と賃料の下落などをはじめ、建築資材や人件費の高騰による開発コストの上昇、今後の金利上昇による不動産投資マインドの低下などの懸念材料がある。

こうした情勢を踏まえ、三井不動産では、現在「大きなパラダイム(物の見方や考え方)転換が生じており、AI(人工知能)の加速度的な進化は社会を一変させる」との認識を持つ。

この変化をチャンスと捉え、自らを不動産デベロッパーの枠を超えた産業デベロッパーであるとし、新産業の創造や新需要の創出に力を入れることにした。

同社では「コア事業の堅調な成長が見通せる今だからこそ、将来の大きな成長が期待できる新たな事業の種を探索し、将来の収益の柱に育てる」としている。

さらに進む多角化

三井不動産は、1941年に三井合名会社の不動産の管理を行う目的で設立された。当初は事務所用ビルなどの賃貸、管理を中心にしていたが、1957年に千葉県臨海地区の浚渫埋立に着手して臨海土地造成事業に進出し、これを機にオーガナイザー(まとめ役)としてのデベロッパーへの道を歩み始めた。

1961年に住宅地の造成や分譲事業に、1968年に戸建て住宅や中高層住宅の建設、分譲事業に進出。1995年には大阪府に日本初の本格的アウトレットモール「三井アウトレットパーク 大阪鶴見」開業した。

現在は、東京都心部に東京ミッドタウン日比谷などのオフィスビルを多数保有しているほか、ららぽーとや三井アウトレットパークなどの商業施設を展開しており、さらにマンション、戸建て住宅の分譲事業や、三井ガーデンホテルなどのホテル事業、物流関連事業、コンサルティング事業、管理受託事業、海外事業なども手がけている。

直近の2025年3月期の売上高は2兆6253億6300万円(前年度比10.2%増)で、全売上高のそれぞれ30%ほどを占める賃貸事業(オフィスや商業施設の賃貸)と分譲事業(マンション、戸建て住宅の分譲)を中心に、同20%ほどのマネジメント事業(貸し駐車場、仲介、販売受託など)、それぞれ同10%ほどの施設営業事業(ホテル・リゾート、東京ドームなどの運営)と、その他事業(新築請負、リフォームなど)で構成している。

同社は事業の多角化が進んでおり、収益源が偏っていないのが強みで、現在進めているスタートアップへの出資や、今後実施するM&Aによっては、さらに多角化が進むことになりそうだ。

【三井不動産】M&Aとスタートアップ出資で、非不動産事業を拡充

文:M&A Online記者 松本亮一

【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック

編集部おすすめ