【ニコン】M&A戦略を見直し 成長ドライバーの拡充からガバナンス強化に転換

ニコン<7731>はM&A戦略を見直し、成長ドライバーの拡充から、意思決定プロセスの透明化やリスク管理などのガバナンス(健全な企業経営を実現するための仕組みや管理体制)強化に軸足を移した。

同社は、成長が期待される市場でのM&Aとして、直近2年ほどの間にドイツの金属3Dプリンター大手のSLM Solutions Group AG(現 Nikon SLM Solutions AG)と、米国の業務用シネマカメラメーカーのRED.com, LLC(現 RED Digital Cinema, Inc.)の子会社化に踏み切った。

これによって成長ドライバーを拡充したとし、今後はこれら買収企業のガバナンス強化に注力し、確実な成長の実現を目指す方針だ。

過去にはPMIが成功したとは言えないケースも

ニコンは、2024年8月に公表した「ニコンレポート2024」で、SLMとREDの2社の子会社化について、成長が期待される市場でのM&Aだったと位置付け、今後の成長ドライバーを拡充できたとしている。

そのうえで、今後は成長投資の中身を見直し、オーガニック成長(内部の経営資源を活用した成長)のための投資を拡大するとともに、経営管理を強化するとの方針を打ち出していた。

さらに2025年8月に公表した最新の「ニコンレポート(統合報告書)」の中で、過去に行った買収案件には、PMI(M&A後の統合作業)が成功したとは言えないケースがあったとし、その要因として「買収後の経営を各事業部に任せ、十分なガバナンスを効かせられなかった面があった」とした。

こうした過去のPMIの反省点や課題をSLMやREDで活かすことで、成長ドライバーとしての役割を発揮できるようにする。

SLMは金属3Dプリンターで世界トップ3に入る企業で、大型装置を中心に業績を伸ばしているものの買収時の計画に対しては遅れが生じており(2025年5月時点)、2025年度に単体での営業利益黒字化を目指している。

REDはハリウッドなどの映画産業で定評があり、REDが持つ動画関連技術を早期に獲得し、動画機開発を加速させる計画だ。

こうした取り組みを着実に進めるために、ガバナンス体制を強化することにした。

M&Aには前向き

ニコンは1917年に、測距儀や顕微鏡などの光学機器の国産化を目指し、東京計器製作所の光学計器部門と岩城硝子製造所の反射鏡部門を統合して設立した日本光学工業が前身。

1918年に光学ガラスの研究を始めたが、技術的な問題で研究を一旦中止し、4年後の1922年に研究を再開。

翌年の1923年に大井第二工場内に硝子研究工場を建設し、その3カ月後に光学ガラスの熔解に成功した。

1948年に小型カメラ「ニコンI型」を、1971年に精密光波測距装置を、1980年に超LSI製造用縮小投影型露光装置を発売。

1988年にニコンに社名を変更したあとも、1995年にデジタル一眼レフカメラを、2007年に細胞培養観察装置を発売するなど業容を拡大していった。

M&Aについては同社の沿革によると、2009年のベルギーの精密測定器メーカーMetris NV(現 Nikon Metrology NV)の子会社化が最初で、2015年の英国の網膜画像診断機器メーカーOptos Plcの子会社化、2016年の英国の映像機器のロボット制御装置の開発、製造を手がけるMark Roberts Motion Control Limitedの子会社化を相次いで実施。

2020年に入っても積極的に取り組み、2021年に米国の宇宙航空機部品受託加工会社Morf3D Inc.(現 Nikon AM Synergy Inc.)を子会社化したあと、2023年のSLM、2024年のREDの買収へとつなげた。

【ニコン】M&A戦略を見直し 成長ドライバーの拡充からガバナンス強化に転換
ニコンの沿革

業績予想を下方修正

ニコンは光学、精密、計測技術で高い技術力を持ち、ニコンブランドは世界的に高い評価を得ていることから、技術力とブランド力を自社の「核となる強み」と位置付けている。

総売上高の40%強を占める映像事業(デジタルカメラ、双眼鏡、距離計など)と、30%弱の精機事業(露光装置、計測・検査装置など)が主力事業。

これに16%ほどのヘルスケア事業(生物顕微鏡、細胞受託開発、画像診断機器など)、10%ほどのコンポーネント事業(X線/CT検査装置、光学機器、EUV(極端紫外線)関連部品など)、3%ほどのデジタルマニュファクチャリング事業(3Dプリンター、レーザー除去加工機など)で事業を構成する。

【ニコン】M&A戦略を見直し 成長ドライバーの拡充からガバナンス強化に転換
ニコンの売上構成比

足元の業績は今一つ振るわない。2025年3月期の売上高は7152億8500円(前年度比0.3%減)、営業利益は24億2200万円(同93.9%減)と、微減収ながら大幅な営業減益となった。

半導体露光装置をはじめ映像事業やデジタルマニュファクチャリング事業の販売不振に加え、固定資産の減損損失や、棚卸資産の評価損などを計上したことなどから、大幅な減益を余儀なくされた。

2026年3月期は当初、営業利益の急回復を予想していたが、主力の映像事業でデジタルカメラなどで高価格帯の製品よりも低価格帯の製品の販売割合が増えたのをはじめ、ヘルスケア事業でも米国市場の低迷による販売の下振れや、米国関税の影響なども加わったことから、業績予想を下方修正。

売上高は100億円少ない7000億円(前年度比2.1%減)に、営業利益は150億円少ない210億円(同8.67倍)に引き下げた。

同社は2020年3月期にコロナ禍の影響で減収営業減益に転じ、翌2021年3月は500億円を超える営業赤字に陥った。その後は2期連続で増収営業増益を達成したものの、2024年3月期に増収営業減益となっていた。

【ニコン】M&A戦略を見直し 成長ドライバーの拡充からガバナンス強化に転換
ニコンの業績推移

成長ドライバーが成果を上げる日は

ニコンが属する業界には堅調な動きが見られる。主力事業である映像事業のデジタルカメラ市場は、ピーク時から市場が大きく縮小しているものの近年は回復傾向にある。

カメラ映像機器工業会がまとめたデジタルカメラの年間の総出荷額の推移を見ると、2000年に4379億7900万円だったのが、その後年々拡大し、2008年には2兆1640億4000万円に到達。

その後は減少に転じ、2014年に1兆円を割り込み、コロナ禍の2020年には4201億3800万円にまで下落した。

コロナ禍の影響が収まるとともに需要は増加し、2024年は8247億5400億円まで回復。2025年は1~8月の累計で5515億6800万円(前年同期比6.8%増)と前年を上回る水準で推移している。

もう一つの主力事業である精機事業で手がける半導体製造装置市場にも堅調な動きが見られる。

帝国データバンクが2025年9月に発表した「半導体・電子部品業界の動向と展望」によると、半導体製造装置は2024年にAI(人工知能)関連投資を背景に回復へと転じ、2025年もAI関連が半導体需要を支えるとしている。

成長ドライバーを手にし、さらなる成長を見据えてガバナンス強化へと舵を切った同社の取り組みは、今後どのような展開を見せるのか。

堅調な業界環境を追い風に、業績が再び拡大軌道に戻るのは、いつになるのだろうか。

文:M&A Online記者 松本亮一

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