インスタントラーメンの祖であり、グローバル食品企業へと進化を続ける日清食品ホールディングス<2897>。2025年3月期はインフレ環境下のコスト高を受けつつも、国内の価格政策と海外伸長の組み合わせで、売上収益は7765億円(前期比6.0%増)、既存事業コア営業利益*は835億円(同3.6%増)と過去最高を更新。
直近の四半期で業績に急ブレーキ
もっとも、「順風満帆」と判断するのは早い。2026年3月期の第1四半期決算では、売上収益1770億円(前年同期比4.3%減)、既存事業コア営業利益173億円(同25.5%減)の減収減益に。価格転嫁の一巡や原材料・物流コストの高騰、為替の振れが影響した。
食品産業は安定しているが、急成長は難しい。特に人口減少が進む日本を主戦場とし、「成熟商品化」しているカップヌードルやインスタントラーメンなどの即席麺ビジネスはなおさらだ。
そのため、同社は海外・非即席麺の伸長をより強く打ち出している。当面は国内の安定収益に依存しつつも、中・長期的には事業ポートフォリオを「海外市場」と「非麺事業」で厚くする方針だ。
*営業利益から新規事業にかかる損益と非経常損益としての「その他収支」を控除した数値。先行投資を予定する新規事業にかかる損益を分離し、その投資の基盤となる既存事業の実質的な成長を測定するための指標となる。
「海外」と「非麺」で描く新バランス
主力の国内即席麺はブランド力をテコに、値上げと商品ミックス改善で売上減を最小限で食い止めつつ、アジアや米国、メキシコ、ブラジルといった米州など、海外市場の成長に期待をかけている。海外事業の比重をさらに高めるため、「資本」「人材」「生産」の再配置を前提にした投資戦略が進む。
とはいえ、海外市場はボラティリティー(変動性)が高く、業績が乱高下するリスクもある。
そのため、同社は「麺一本足打法」から「非即席麺との抱き合わせ戦術」へのシフトを急ぐ。この戦略のもと、スナック菓子や冷凍食品など、「同じ売り場」と「同じ顧客」で相乗りが期待できる周辺カテゴリーを、ボルトオンM&A**で取り込みつつある。同グループで「周辺拡張」を担うのが、香港株式市場に上場している子会社の日清食品だ。
**既存事業の強化や拡大のため、自社の事業と親和性の高い小規模な企業を買収企業に「ボルトで取り付ける」ように統合するM&A戦略
「ボルトオンM&A」で海外の非麺事業を拡大
日清HDのM&Aは3段階で変化してきた。2010年代前半までの第1段階では「グローバルの足場固め」に徹した。海外市場攻略の橋頭堡となる現地でのプレゼンスの確立と資本効率を向上するため、2017年には日清食品有限公司(香港日清食品)を現地で上場させ、海外でのM&Aや提携を加速する「受け皿」を作った。
2010年代後半~2020年前後の第2段階では「周辺カテゴリの多角化」を進める。即席麺の隣接分野に資本を振り向ける。2016年の英Premier Foodsへのマイノリティー出資(保有比率17.27%、2022年に22.9%)は、同社の販路を利用した自社ブランド商品の棚取りや共同展開を意識したもので、英国における日清ブランドの浸透に寄与した。
そして、2020年代~現在の第3段階では、ボルトオンM&Aを進めている。その象徴が、香港日清食品による韓国Gaemi Foodと豪ABC Pastryの完全子会社化だ。
Gaemiはクリスピーロールのトップブランドを持つ菓子メーカー、ABCは冷凍餃子の現地有力メーカーだ。いずれも麺製品の周辺で店舗の棚を占領できる業種で、既存のブランドや物流、販路に乗せやすい。PMI(買収後の統合プロセス)の進捗も順調で、2子会社が香港日清食品の収益向上に貢献している。
この3段階を通じて、過大なのれんを膨らませず、円滑なPMIにより海外での競争力を引き上げる構えだ。つまり、大型M&Aではなく、戦略がぴったり適合する中小から中規模の案件を積み上げている。結果として、のれん減損のリスクを抑えつつ、事業の多角化と成長を両立しているのだ。
隣接事業、販路、物流がM&Aのカギに
では、今後の日清食品HDのM&A戦略は、どうなるのか?その象徴的な案件がある。2025年10月、日清HDは一度は撤退したトルコに100%子会社を設立し、現地パスタ製造大手のOba Makarnacılıkから即席麺工場を取得すると発表した。
サカリヤ県を拠点にトルコ国内のみならず、中央アジアや中東、北アフリカへの商圏拡大を狙う地域ハブ型の事業取得だ。原材料調達や為替、物流の不安定性が常態化する中で、現地生産と周辺輸出を組み合わせた海外事業モデルであり、今後の収益安定化に向けた取り組みといえる。
同社は、海外市場でコア営業利益構成比の45%を占めるという中長期目標を掲げており、人口成長と可処分所得の伸びが見込める国や地域でのM&Aは、今後も実行されるだろう。
同社はM&Aで即席麺という圧倒的な強みを持つ主力事業を起点に、菓子・冷凍食品といった隣接カテゴリー事業や独自の販路、物流を持つ企業を買収して、収益の乱高下を抑えつつ成長を狙っている。
今後の課題は…
同社が解決すべき課題も明確だ。
第2に海外市場における為替や原材料、物流の混乱要因への対応だ。海外新拠点の開設は有効なヘッジだが、初期の立ち上げコストが必要な上に、現地の政治や規制に変化があった場合のリスク対応も考えておく必要がある。
第3に資本効率と成長のバランスだ。同社は2030年度までをメドにROE(自己資本利益率)を15%まで向上させる目標を設定し、直近で600億円もの自己株取得を実施してきた。
確かにROEは上昇して資本効率は改善するが、いつまでもそれに頼るわけにはいかない。本来必要なM&A資金などの投資まで削って自己株取得するようでは、本末転倒だからだ。
ROEを持続的に引き上げるには、成長投資となるM&AのKPI(重要業績評価指標)と成果の「見える化」による投資家からの評価による株価上昇が不可欠だろう。
文:糸永正行編集委員
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