オプテックスグループ<6914>のM&A戦略が軌道に乗ってきた。遠赤外線式自動ドアセンサーを世界で初めて実用化した同社は、いまや「センシングソリューション(SS)」と「インダストリアルオートメーション(IA)」を二本柱とするグローバルニッチ企業へと進化している。
今後の3年間でM&Aに150億円を投入
同社は防犯センサー、監視用照明、画像処理用照明、産業用コンピュータ、検査装置、ソフトウェア、サービスまで、周辺の技術と事業会社を段階的に取り込む買収を積み重ねてきた。中島達也社長は、2025年からの3年間で総額300億円の投資枠のうち150億円をM&Aに投じる方針を示し、さらなる飛躍を狙う。
同社の創業は1979年。創業者が開発した遠赤外線式自動ドア用センサーは世界初の実用製品であり、この「見えないものを検知する」技術が成長のドライバーとなった。現在は持株会社オプテックスグループが、センサー事業のオプテックス、FA向けセンシングのオプテックス・エフエー、マシンビジョン用LED照明のシーシーエス(CCS)、産業用コンピュータのサンリツオートメイション、画像検査装置のミツテックなどを束ねる体制だ。
同社の事業は「SS事業」と「IA事業」の二つのセグメントに大別される。SSでは屋外侵入検知センサーや自動ドアセンサーを展開し、屋外侵入検知で世界シェア約4割、自動ドアセンサーで世界3割・国内5割のポジションとされる。IAではFAセンサー、画像検査用照明、検査装置、産業用PCなどを組み合わせ、生産ラインの自動化ニーズに応えている。
グループ経営計画によれば、2024年12月期実績の売上高632億円、営業利益71億円、営業利益率約11%から、2027年12月期に売上770億円、営業利益100億円、営業利益率約13%を目指す。この達成に向けて、オーガニック(既存の経営資源による)成長に加え、M&Aを積極的に活用する方針が示されている。
ニッチ事業を積み上げてきたM&A史
同社のM&Aの歴史は、一口に言えば「ニッチ技術・事業の積み上げ」だ。2000年代からセンサー周辺の技術や販売チャネルを補完するM&Aが始まった。
国内では、人流計測や画像処理LSIといった領域の企業の子会社化などを通じ、店舗や施設の「見える化」やFA向けの基盤技術を取り込んだ。
これに加えて、欧米を中心とするセキュリティー領域のM&Aにも着手。米国で光ファイバー振動検知センサーを手がけるFiber SenSysや英国で遠隔監視サービスのFarsightなどを傘下に収め、センサーとサービスを組み合わせたビジネスモデルを確立した。
中でも注目されるのが、監視カメラ向け補助照明で世界トップシェアを持つ英Raytecの買収だ。Raytecは照明製品とグローバル販売網を持ち、オプテックスの防犯センサーと組み合わせることで、屋外侵入検知に照明を加えたトータル提案が可能になった。
2010年代後半以降は、FA・画像処理領域の案件が増える。マシンビジョン(産業用カメラ)用LED照明の世界トップ企業であるCCSを子会社化し、画像検査用の光源ラインアップを一気に拡充。その後、照明コントローラメーカーのGardasoft Visionなども取得し、「照明+制御」のパッケージでFA市場への提案力を高めた。
2020年前後には、産業用コンピュータのサンリツオートメイション、自動機・検査装置のミツテック、システム開発のスリーエースなど、グループ内で制御、装置、ソフトウェアの技術を支える中堅企業を相次いで取り込んだ。これにより、センサー単体ではなく、生産ライン全体の自動化を視野に入れた事業構造への転換が進む。
最近では、Raytecによる防爆照明メーカーATEXORの買収など、買収した子会社を起点にした二段階目のM&Aもみられる。セキュリティ、照明、検知、画像と、事業の組み合わせの幅を広げる案件が多く、一貫して「小さくても尖ったニッチトップ」を積み上げるスタイルが続いている。
M&Aを利用した成長戦略
同社はM&Aを「SS・IA両事業の付加価値と収益性を引き上げるための手段」と位置づけてきた。狙いは三つ。
第一は、技術ポートフォリオの立体化である。Raytec、ATEXOR、CCS、Gardasoftといった企業を取り込むことで、センサーに加え、照明・画像・制御といった周辺技術を一体で揃えた。これにより、個々の製品を売るのではなく、検知から可視化、そして制御に至るパッケージとして提案できるようになり、価格競争に陥りにくい高付加価値ビジネスへのシフトを図っている。
第二は、ビジネスモデルの高度化だ。光ファイバー侵入検知や遠隔監視サービス、駐車場入出庫管理などの領域では、センサーから得たデータをクラウドやサービスとして提供する仕組みが重要になる。こうしたサービスやソフトウェアに強みを持つ企業を取り込み、自社開発の施設・店舗センシングソリューション「OMNICITY」などと組み合わせることで、保守契約やサブスクリプション型の収益を積み上げる土台を整えてきた。
第三は、グローバル展開の加速である。欧米やアジアのニッチトップ企業をグループ内に迎え入れることで、現地でのブランド力や販売網を獲得し、売上の約半分を海外で稼ぐ体制を築いている。特に欧米のセキュリティー市場や中国のFA市場では、買収先の拠点や人材、顧客基盤を活かし、現地での開発から製造、販売までを一体で手がけるビジネスモデルを確立した。
こうしたM&Aの積み上げの結果、グループの売上や利益の中でM&Aで取得した事業の比重は高まり、現在の事業ポートフォリオそのものが「M&Aの成果物」と言える構造になりつつある。
今後のM&A戦略は…
今後のM&Aを展望するうえでポイントとなるのが、グループ経営計画の達成に向けて力を入れる、SS事業のソリューション化とIA事業のグローバル展開だ。
SS事業では、データセンターや発電所など重要インフラ向けソリューションを軸に、AI画像解析やクラウド監視、サイバーとフィジカルが融合した統合セキュリティーが重要性を増す。
IA事業では、中国はじめアジアの自動化需要を取り込むため、二次電池や電気自動車(EV)、半導体といった成長分野の工程に特化した装置メーカーや、ロボットインテグレーションに強いシステムインテグレーター(SI)企業との組み合わせがカギとなる。同事業を支えるオプテックス・エフエーが掲げる「現地設計・製造・販売」モデルを補完できるエンジニアリング企業を取り込む動きが想定される。
この他にも、自動ドアや駐車場を起点としたSaaS(サービスとしてのソフトウェア)、工場の予知保全や品質保証を支えるクラウドサービスなど、傘下のシステム開発会社を補完するためにAIクラウド、データ解析に強みを持つベンチャー企業のM&Aも増えそうだ。これまでの買収同様、10~20億円規模の案件を複数積み上げることになる可能性が高い。既存子会社を起点に技術や地域の「穴」を埋める案件が中心となるだろう。
M&Aを実施するための財務力は?
同社にM&Aを実施する財務的な余裕はあるのか。2024年12月期実績は売上632億6900万円、営業利益71億2100万円、純利益56億8900万円と過去最高を更新。2025年12月期も増収増益計画で、純利益で50億~60億円規模の稼ぐ力がある。
有利子負債は約76億円にとどまる一方、現金及び預金は約220億円あり、ネットキャッシュは約145億円と推計できる。既存の手元資金だけで目標とするM&A投資枠に近い余力を持つ計算だ。
キャッシュフローも営業キャッシュ・フロー(CF)が一貫してプラスで推移し、その範囲内で投資と増配・自社株買いなどの株主還元を実施しながら現金残高を維持している。現時点ではM&Aを拡大しても財務基盤は揺るぎそうにない。
同業他社のM&A戦略との比較
同業他社のM&A戦略と比べてみよう。キーエンスは高収益・直販・自社開発を軸にオーガニック成長を基本としてきたが、2025年5月にドイツのソフトウェア企業CADENAS Technologies AGの全株式取得を発表した。
CADENASは3D CADデータや電子カタログを提供する企業で、キーエンスは買収により「オンライン空間でも高い付加価値を創造・提供していくことを目指し、ソフトウェア関連の新商品を強化する」としている。
ハード中心だったビジネスに、設計段階から関与するデジタルプラットフォームを加える狙いであり、「少数だがインパクトの大きいM&A」に特徴がある。
オムロンはセンサーやコントローラ、安全機器、ロボットを擁する総合FAメーカーとして、既存事業とシナジーの強い企業を継続的に取り込んできた。例えば2017年には産業用カメラメーカーのセンテックを買収し、ロボット・検査システムとの連携強化を図っている。
既存の制御機器・ロボット事業の周辺に、カメラや画像処理などの技術をM&Aで補完し、一体化を進めるのがオムロン流だ。
積み上げ型買収で事業構造を進化
オプテックスグループは、キーエンスのような「まれに大型・象徴的ディールを打つ」スタイルではなく、数十億円規模の中小型案件を継続的に積み重ねている。センサー、照明、画像、制御、産業用PC、ソフトウェアなど、複数のニッチトップを束ねて全体のソリューション力を高める「積層型」のM&Aといえる。
オムロンのような巨大総合FAプラットフォームを持たない分、1件1件のM&Aで「既存センサーとどう組み合わせるか」「どの顧客のどの工程に導入してもらえるか」を検討しているようだ。グループ経営計画でも、SSとIAの戦略にM&Aを組み込む。
大型M&Aでの規模拡大ではなく、事業戦略の「新たな部品」となる企業の取得を進めることになるだろう。総じて、オプテックスグループにとってM&Aとは、「センサー企業からソリューション企業へと脱皮するための設計図を埋めるパーツ集め」であると言える。
買収案件の質とシナジーがカギ
創業以来培ってきたセンサー技術を軸にしながら、自社でゼロから育てるには時間がかかる照明、画像処理、制御、産業用PC、ソフトウェア、サービスといった機能を、M&Aによって外部から取り込み、その組み合わせで顧客課題に応える設計思想だ。
一つひとつの案件は中小規模が多いが、いずれもニッチトップや高い専門性を備えた企業が多く、ブランドや人材、既存の顧客基盤を活かしつつ、グループ全体の戦略の中に編み込んでいく。RaytecやCCS、サンリツオートメイション、ミツテックなどの事例は、こうした「専門家集団を束ねて一つの解を出す」同社流のやり方を象徴している。
今後のオプテックスグループによるM&Aで、その成否を分けるのは買収案件の質とシナジー(相乗効果)の創出である。社会課題と直結する事業領域で「どのパートナーの力を借りるか」を見極め、センサー起点のプラットフォームづくりにつなげられるかが勝負どころになりそうだ。
文:糸永正行編集委員
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