燦ホールディングス(HD)は傘下の公益社(大阪市)を中核に葬儀最大手の地歩を築く。高齢者人口の増加を背景に葬儀需要の継続的な拡大が見込まれる一方、近年、葬儀の小規模化・簡素化が進展し、単価低下が加速する中、事業基盤の再構築にアクセルを踏み込んでいる。
訪問マッサージ会社を子会社化
燦HDは6月初め、訪問マッサージを手がけるクニカネクスト(京都市)を子会社化した。燦HDは傘下企業のエクセル・サポート(大阪市)を通じて関西6カ所でリハビリ特化型デイサービス施設「ポシブル」を運営しており、人材活用・集客面での相乗効果が見込めると判断した。
クニカネクストは2017年設立で、京都、大阪、滋賀、東京、埼玉の5カ所に営業所を置く。2024年10月期の売上高は1億9300万円。
燦HDは2022年5月に策定した2032年の創業100周年に向けた「新10年ビジョン」で、「葬儀事業の拡大」と「ライフエンディングサポート事業の拡大」を2本柱に掲げた。今回のクニカネクスト子会社化は後者の「ライフエンディングサポート事業の拡大」の流れにある。
ライフエンディングサポートはいわば終活支援。葬儀のみならず、遺族や高齢者の人生の終末期における様々な課題に取り組み、生活の質の向上への貢献を目指している。
その一環として2020年には終活関連ポータルサイトを運営する子会社のライフフォワード(東京都港区)を設立し、葬式やお墓、法事・法要、相続、保険、遺品整理などに関する相談サービスを始めた。
「家族葬のファミーユ」買収に150億円
もう一方の「葬儀事業の拡大」でハイライトとなったのは昨年10月、東証グロース市場上場の同業大手で「家族葬のファミーユ」を展開する、きずなホールディングスの子会社化だ。TOB(株式公開買い付け)などに総額約150億円を投じた。売上高(2024年3月期224億円)の7割近くに相当し、社運をかけた大型買収だった。
言うまでもなく、狙いは家族葬領域の強化。
同じ2024年の1月には家族葬を手がける中小業者の東京セレモニー(東京都葛飾区)を子会社化しているが、あくまで買収の“本命”はきずなHDだった。
家族葬については燦HD自身も、2023年に「エンディングハウス」と名付けた新ブランドを立ち上げ、事業そのものが緒に就いたところ。大型M&Aをテコに、事業開始当初からビジネス規模を一気に拡大する“垂直立ち上げ”に動いた形だ。
葬儀の小規模・簡素化が流れに
65歳以上の高齢者人口の増加を背景に、2040年まで旺盛な葬儀需要が見込まれている。一方で、コロナ禍を契機に葬儀を小規模化・簡素化する動きが定着し、家族葬が主流になりつつある。ネット系仲介業者の台頭も加わり、受注競争が激化し、葬儀費用の低価格化が進展。こうした事業環境変化への対応が急務になっていた。
きずなHDは2000年にエポック・ジャパンとして東京都内で設立。家族葬という新ジャンルの葬儀に乗り出したパイオニアとして知られる。
1日1組限定の家族葬会館「家族葬のファミーユ」を中心に11道府県に150を超えるホールを展開し、売上高は121億円(2024年5月期)。2015年以降、国内投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(東京都港区)が創業者からの事業承継に伴い、同社を傘下に置き、経営を主導していた。
燦HDはきずなHDを取り込んだことで、事業エリアは北海道から九州まで15都道府県に広がり、自社運営する会館は250余りとなった。
売上高、3割増の400億円超へ
燦HDの2025年3月期業績は売上高42.5%増の319億円、営業利益19.3%増の45億2100万円。一般葬が回復したのに加え、連結子会社化したきずなHDが下半期から寄与し、大幅増収増益となった。葬儀件数は62%増加した半面、家族葬の割合が高まったことから葬儀単価は7.4%減少した。
足元の2026年3月期業績は売上高30.4%増の417億円、営業利益8.4%増の49億円を見込む。売上高はこの2年でほぼ2倍に膨らむ。

業界再編機運にどう向き合うか
燦HDは1932年に大阪で誕生した「公益社」に始まる。2004年、持ち株会社として燦HDが発足し、傘下に公益社をはじめグループ各社を置く。本格的なM&Aに取り組んだのもこの頃にさかのぼる。
2005年に葬仙(鳥取県米子市)、06年にタルイ(兵庫県明石市)を子会社化した。いずれも地域の葬儀社で、グループの一員として今日に至る。ただ、以降は長らくの間、M&Aを封印してきた。
それが一転して昨年来、大小合わせて3件の買収を連発している。
◎燦ホールディングス:主な沿革
年 出来事 1932葬儀請負と霊柩運送を手がける公益社が発足 1943 大阪府下の全霊柩運送事業者が公益社を中心に統合し、公営社を設立 1945 公益社に社名変更 1994 大証2部上場 2000 東証2部上場 2001 東証1部上場 2004 持ち株会社制に移行し、燦ホールディングスに社名変更 2005 葬儀社の葬仙(鳥取県米子市)を子会社化 2006 葬儀社のタルイ(兵庫県明石市)を子会社化 2020 終活関連ポータルサイト事業のライフフォワード(大阪市)を設立 2024 家族葬特化の東京セレモニー(東京都葛飾区)を子会社化 〃 「家族葬のファミーユ」など展開のきずなホールディングスをTOBで子会社化 2025 5月、訪問医療マッサージのクニカネクスト(京都市)を子会社化すると発表文:M&A Online
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