【スター精密】医療機器用工作機械メーカーから医療機器メーカーに転換 そのカギを握るのは

工作機械メーカーのスター精密<7718>が、医療機器や医療機器部品などからなるメディカル事業に参入する。

医療機器メーカー向けに自社製の工作機械を販売してきた実績と、これまで培ってきた精密加工や組立技術、高精度位置決め制御技術などを武器に、新分野に挑戦する。

第一弾として医療機器向け部品の製造事業を立ち上げたあと、医療機器そのものの製造事業に拡大し、将来はスタートアップとの協業で医療用ロボットなどの分野にも乗り出す。

すでに2024年に医療用ロボット関連のスタートアップ2社に出資しており、今後は医療機器の製造や販売面で連携できるM&A先を探索し、2025年から2027年までの3年間に100億円を企業買収などに投じる計画だ。

製造体制構築や販路開拓でM&Aを活用

同社では医療機器分野は、患者の生活の質の向上や、低侵襲(傷が小さい)治療技術などの発展などから、医療機器や医療機器部品の小型化、複雑化、精密化などのニーズが拡大すると見る。

中でも同社が得意とするスイス型CNC(コンピューター数値制御)自動旋盤(加工物を回転させながら前後に動かす自動旋盤で、時計部品の精密加工用としてスイスで考案された)を用いて製造する医療機器として、手術用ロボット、腹腔鏡機器(カメラの付いた機器を体内に挿入し映像を見ながら手術や処置を行う機器)、内視鏡機器(同)、歯科インプラント(人工歯を固定する器具)、整形外科機器(ボーンスクリュー=骨を固定するねじ)での需要拡大を見込む。

同社にはこれら医療機器を製造する企業に、工作機械を販売してきた実績を踏まえ、ここで培った精密加工技術などを活用して医療機器分野に参入することで、工作機械事業の成長を確保しつつ、医療機器用工作機械メーカーから医療機器メーカーへの転換が可能と判断した。

まずは、工作機械事業と密接に連携して医療機器メーカーを対象とした部品事業を立ち上げ、当面は医療用ねじなどの部品で売上高1億円以上を目指す。

その次のステップとして早期の製造体制構築や販路開拓を目的にM&Aを実施するとともに、自社技術とのシナジーを活かし、品質要求の高い製品を開発、製造することで、医療機器ビジネスに本格参入し、3年ほどで売上高20億~30億円を目指す。

M&Aの対象としては、同社製品による製造が可能で成長が見込める腹腔鏡機器や内視鏡機器、歯科インプラント、整形外科機器などが候補となりそうだ。

さらに第3段階では、2024年6月に出資したF.MED(福岡市)と、同年9月に出資したミューラボ(福島市)との協業を進める。

F.MEDは、マイクロサージャリー(直径1ミリメートルに満たない血管や神経などを、手術用の顕微鏡や微細な手術器具を使用して縫い合わせる手術技術)を支援するロボットを開発しており、ミューラボはロボットの関節などに使用する小型、高トルク減速機やロボットの先端に取り付ける高精度ハンドを開発している。

このスタートアップ2社と連携し医療用ロボットの普及に取り組むとともに、新たなスタートアップの探索活動も加速し、2030年までにメディカル事業の売上高を50億円以上に引き上げる。

循環的な景気変動に左右

スター精密は2027年12月期に売上高980億円(2024年12月期比51%増)、営業利益148億円(同3.68倍)と過去最高の業績を見込む。

同社は自動旋盤が主力で売上高の80%ほどは工作機械事業が占めており、残りの20%ほどはPOS(販売時点情報管理)用小型プリンターやレジ周辺機器などの特機事業となっている。

既存事業は高収益だが循環的な景気変動に左右される傾向があるため、業績を安定化させるためには新たな事業構成の構築が重要との思いが、メディカル事業参入の背景にある。

直近の2024年12月期は、売上高が前年度比16.9%減の649億9400万円、営業利益は同61.2%減の40億2100万円と大幅な落ち込みとなった。

欧米市場で工作機械の需要が低迷したほか、特機事業も米国が振るわず、大幅な減収となり、これに伴って営業利益も半分以下に減少した。

2025年12月期については、米国市場で医療関連向け工作機械に緩やかな需要の回復が見込まれるほか、設備投資需要の低迷が長期化していた欧州市場や国内市場についても全般に需要の回復が見込まれることから、同9.5%の増収、同29.3%の営業増益を予想する。

【スター精密】医療機器用工作機械メーカーから医療機器メーカーに転換 そのカギを握るのは
スター精密の業績推移
2025/12は予想、2027/12は計画

まだまだ進む業界再編

工作機械業界では、モーター大手のニデック<6594>が工作機械メーカーの買収を進めており、2025年4月4日に牧野フライスに対するTOB(株式公開買い付け)を開始する意向を表明している。

ニデックは2021年に三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)を、2022年にOKK(現ニデックオーケーケー)を、2023年にイタリアのPAMAを、 同じ年にTAKISAWAを傘下に収めており、工作機械事業の2024年3月期の売上高は1182億円に達している。

牧野フライスの2024年3月期の売上高は2253億6000万円で、TOBが仮に成立すれば、売り上げが一気に拡大し、同社では非上場企業を除けば業界2位になるとしている。

さらに同社では牧野フライスへのTOBが成立した後も、工作機械関連企業の買収を続けるとしており、業界の再編がまだまだ進むことが予想される。

関連記事はこちら
【ニデック】工作機械メーカーを連続買収、M&A戦略も変更へ
DMG森精機の森雅彦社長、工作機械の「業界再編」をどう見る?

適時開示した買収案件は1件のみ

スター精密は1950年に腕時計、カメラ用部分品などの製造、販売を目的に、静岡市で事業を開始。1958年にカム式自動旋盤を、1976年にCNC自動旋盤を、1979年には小型プリンターを次々に製品化した。

M&Aについては2010年以降に3件を適時開示しており、このうち2件は譲渡(電子ブザーやスピーカーなどの小型音響部品事業の譲渡、ハードディスクドライブ部品を手がけるタイ子会社の譲渡)で、買収は2023年のスマート端末の開発や音通信技術を用いた販促サービスなどを手がけるスマート・ソリューション・テクノロジー(東京都新宿区)を子会社化した1件だけだった。

こうした状況の中、医療機器分野増強のためのM&A戦略を打ち出したわけで、スター精密は計画通り医療機器用工作機械メーカーから医療機器メーカーへの転換を実現することができるのか。M&Aの行方がカギを握ることになりそうだ。

【スター精密】医療機器用工作機械メーカーから医療機器メーカーに転換 そのカギを握るのは
スター精密の沿革と主なM&A

文:M&A Online記者 松本亮一


『ダイヤモンドMOOK M&A年鑑2025』を100名様にプレゼント

発売にあたり、2025年2月28日までにご応募いただいた方を対象に抽選で100名様に『ダイヤモンドMOOK M&A年鑑2025』をプレゼント。

下記のバナーをクリックすると応募できます。SNSキャンペーンからも応募可能ですので、ぜひ皆様、ご参加ください!

【スター精密】医療機器用工作機械メーカーから医療機器メーカーに転換 そのカギを握るのは
編集部おすすめ