【ヤマタネ】M&Aで食品事業の領域拡大を加速、営農や食品機械に進出

コメ卸大手のヤマタネが今年に入ってM&Aを量産中だ。その数は4件。

同社は昨年、「100年企業」の仲間入りを果たし、創業2世紀への新たな一歩を踏み出したところ。積極果敢なM&Aで、次の100年をどう切り開こうとしているのか。

物流、食品、情報、不動産を4本柱

ヤマタネは1924(大正13)年、創業者の山﨑種二がコメ問屋「山﨑種二商店」を開業したことを起源とする。1940年に辰巳倉庫(現ヤマタネ)を買収し、物流事業に参入した。株式上場は辰巳倉庫時代の1950年にさかのぼる。

現在は物流、食品、情報、不動産を経営の4本柱とする。2025年3月期業績は売上高25.4%増の809億円、営業利益8.5%増の37億8000万円。祖業のコメ卸を中心とする食品事業が売上高の6割超を占め、これに倉庫、国際輸送などの物流事業が3割で続く。

食品事業では2023年10月に買収した業務用冷凍食品卸のショクカイ(東京都台東区)の業績が通期で寄与したのに加え、折からの需給逼迫によるコメ販売単価の上昇が売上高を押し上げた。

創業者の山﨑種二は「相場の神様」として知られ、コメ相場で利益を上げた後、株の世界にも進出。準大手証券の一角を占めた山種証券(さくらフレンド証券などを経て、現SMBC日興証券)を立ち上げた。バブル崩壊後の山種証券の解体に際し、システム部門を引き継いだのが現在の情報事業にあたる。

【ヤマタネ】M&Aで食品事業の領域拡大を加速、営農や食品機械に進出

食品がM&Aのホットコーナーに

主要4事業の中のうち、M&Aのホットコーナーとなっているのは食品事業。今年手がけた4件の買収(いずれも買収額は非公表)のうち3件は食品絡みだ。

7月に、コメや麦、大豆などを生産する農業生産法人のアグリべース辻(三重県東員町)を子会社化した。同社は約100ヘクタールの営農規模を持ち、名古屋都市圏(名古屋駅から車で40分程度)に位置する。

ヤマタネ自身、2024年9月にグループで初となる農業生産法人「ブルーシード新潟」(新潟県長岡市)を設立し、稲作を含む農業経営に乗り出した。アグリスペース辻との連携や農業IoT(モノのインターネット)の活用を進め、持続可能な営農モデルの確立を目指すとしている。

8月には、九州産のコメを年間約4000トン取り扱う販売会社の農産ベストパートナー(熊本県山鹿市)を子会社化。同社はコメのEC(電子商取引)に強みを持ち、楽天市場の「米部門大賞」を通算7度受賞するなど、業界内で高い評価を得ている。

そして10月初めに傘下に収めたのは食品加工装置メーカーのT.M.L(東京都新宿区)。同社の主力製品は湿度100%の飽和水蒸気と熱を用いて食材を加熱処理する下ごしらえ調理器「ソフトスチーマー」で、ホテルやレストラン、和菓子店、弁当専門店などを顧客とする。

ちなみに、残る1件は物流関連。7月、阪急阪神エステート・サービス(大阪市)から文書保管・文書電子化作業などのアーカイブス事業を取得した。

まずはコールドチェーン参入に照準

ヤマタネは今年4月、中期3カ年経営計画「ヤマタネ2028プラン」(2026年3月期~28年3月期)をスタートさせた。昨年7月に迎えた創業100周年を踏まえ、次の100年に向けた第2の創業期の第一歩との位置付けだ。カンパニー制を導入し、事業別の損益管理の徹底や権限移譲による意思決定スピードの向上などにつなげる。

新中計では食品事業についてバリューチェーンの拡大を掲げ、川上(生産)への進出や川下戦略としての新規顧客開拓を推し進めており、一連のM&Aもこの流れに即したものといえる。

業歴100年に及ぶヤマタネだが、意外にもM&Aに取り組み始めたのは最近のことだ。まず照準を合わせたのがコールドチェーン(低温物流)への参入。2022年、食品(生鮮、チルド・冷凍)輸送のシンヨウ・ロジ(千葉市)を子会社した。

続いて2023年、69億円を投じて、スーパーや弁当・総菜店などで使われる冷凍食品、調理済み食品を提供するショクカイを子会社化した。ヤマタネとして最大のM&Aで、食品事業の新たな柱として期待した。買収時のショクカイの売上高は174億円。

すでに触れた通り、ヤマタネの2025年3月期売上高が2割を超える大幅増加となったのも、同社が加わったためだ。

第2の創業期、試される経営のかじ取り

ヤマタネは2022年、長期ビジョン「ヤマタネ2031ビジョン」(9年間)と前回中計「ヤマタネ2025プラン」を同時発進。これに呼応してM&Aが本格的に動き出し、今回の新中計でさらにアクセルを踏み込んだ形だ。

新中計は最終年度の2028年3月期に売上高880億円、営業利益47億円を掲げる。8月初めに、ヤマタネが足元の2026年3月期の業績予想を売上高888億円(当初870億5000万円)、営業利益55億2000万円(同38億円)に上方修正したことにより、初年度で中計目標を2年前倒しで達成する情勢にある。

不動産事業では今後、”大仕事“が控える。本社周辺の越中島地区(東京都江東区)に約3万3000平方メートルの土地を保有し、倉庫用地として活用しているが、ここで大規模な都市開発プロジェクトを計画。来年3月までに開発パートナーを選定することになっている。

【ヤマタネ】M&Aで食品事業の領域拡大を加速、営農や食品機械に進出
ヤマタネが再開発を計画する本社周辺の「越中島地区」(東京都江東区)。手前は隅田川

ポスト100周年を見据えた9年がかりの長期ビジョンは「物流と食の流通を通じ、より豊かな社会づくりにチャレンジしていく」をスローガンとする。

最初の3年が種まきとすれば、向こう3年が成長、最後の3年が刈り取りの段階。第2の創業期のただ中にあって、M&A戦略を含めた経営のかじ取りが試される場面が続きそうだ。

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ヤマタネの主な沿革

文:M&A Online

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