埼玉発の食品スーパー、ヤオコーが大きな転換点を迎えている。2025年の持株会社化を機に、従来のオーガニック(単独)成長モデルから、複数企業が連携する「連合型」へと舵を切り、文化堂やデライトホールディングス(HD)を相次いで取り込んだ。
持株会社化でM&A加速へ
ヤオコーは埼玉県川越市に本社を置き、2025年3月時点で埼玉、千葉、群馬、東京、神奈川、茨城、栃木の1都6県に195店舗を展開する「食生活提案型」スーパーマーケットである。2025年3月期にはヤオコー単体で36期連続増収増益を達成するなど、競争が厳しい食品スーパー業界でも際立つ安定成長企業だ。
そのヤオコーは2025年10月、単独株式移転によって持株会社のブルーゾーンホールディングス(HD)<417A>を設立、純粋持株会社体制へ移行した。ヤオコーはその完全子会社という位置づけになる。持株会社化の狙いは、1兆円体制に向けた基盤づくりを進めるとともに、「各事業会社がより良くなり、より強くなる体制を整える」ためだという。
「吸収」から「連帯」へ、再編の思想転換
同社流M&Aの特色は、買収先を自社カラーに塗り替える発想が比較的薄い点にある。ブルーゾーンHDは、持株会社化の目的として、「画一的な店舗形態や企業運営を広げるのではなく、独自の強みを持つ個性的な企業が、それぞれの地域で長く愛される企業集団を目指す」と説明している。
グループ各社を「親子」ではなく「兄弟」の関係として位置づけ、互いの強みを学び合うことを強調している。
この考え方は、ヤオコーが自社の強みとしてきた「個店経営」とも相性がいい。ヤオコーは、地域に合わせた品揃えや売場づくりを重視し、効率重視の画一化よりも現場の創意を競争力の源泉としてきた。
同社の統合報告書でも、地域ニーズにきめ細かく対応する「個店経営」の実践が売上につながったと総括している。M&Aにおいても、相手企業の地域密着力やブランドを残しながら、グループ全体で強くなるビジネスモデルを目指しているとみるのが自然だ。
南関東のドミナントを固め、中京圏にも足場
持株会社発足に合わせ、ブルーゾーンHDは東京23区や川崎市、横浜市など東京湾岸地域を地盤とする食品スーパーの文化堂(東京都品川区)を完全子会社化した。
東三河と浜松エリアで「圧倒的な人手と手間をかけたお店と商品」を掲げる食品スーパー「クックマート」を運営するデライトホールディングス(HD、愛知県豊橋市)にも70%出資して連結子会社化し、中京圏にも足場を築いている。
これに先立ち、2024年には千葉県内で食品スーパー24店舗とドラッグストア1店舗を運営する、せんどう(千葉県市原市)の持ち株比率も66%に引き上げて子会社化した。
こうした動きからも、ブルーゾーンHDのM&Aが一気に屋号を統一する「吸収型の再編」ではなく、複数ブランドの並存を前提にした「連合体づくり」として進めていることが分かる。
新規事業進出など、M&A で構造変化に対応
新規事業への進出を狙うM&Aもある。2017年に神奈川県を中心にディスカウントスーパーを展開するエイヴイ(神奈川県横須賀市)を完全子会社化した。
その後、2021年にディスカウント型スーパーを展開するフーコット(埼玉県小川町)を設立。ブルーゾーンHDは中期経営計画で「ディスカウント業態の各社が自律的な成長を果たす」と説明し、エイヴイとフーコットの両社でディスカウントスーパーの出店拡大を目指す。
同社がM&Aを重視する背景には、食品スーパーを取り巻く構造変化がある。同社の統合報告書では、少子高齢化の進行やデジタル技術の進化、原材料費や人件費、建築費の上昇、物流コストの増加などを事業環境の大きな変化として挙げている。
2023年にオープンした草加物流センターでは、自動化設備によって物流コスト上昇の抑制を図った。こうした投資を推進するためにも、M&Aによるグループ規模の拡大が必要なのだ。
「1兆円体制」は拡大ではなく、基盤づくり
ブルーゾーンHDはグループ売上高1兆円体制に向けた基盤づくりを進めている。2027年3月期の連結売上高目標は7300億円、2031年3月期目標は8800億円、その先の長期目標として売上高1兆円、店舗数500店舗を置く。
この1兆円構想は「量的」な規模拡大に留まらない。人事や財務、内部統制、店舗開発、物流、システム、製造といった「質的」な共通機能の強化も狙う。
積極的なM&Aには相応の買収資金が必要になるため、財務規律は見落とせない。ブルーゾーンHDの中計では、営業キャッシュフローによるキャッシュインを合計1000億~1100億円と想定し、財務健全性を確保しながら事業成長に必要な投資を実行するとしている。
ROIC(投下資本利益率)と資本コストが投資判断を左右するが、同社は実際の数値を発表していない。同社のROICは8%以上、WACC(加重平均資本コスト)は5%程度と、高い水準に設定していると推定される。これが正しければ、M&AでもROICで少なくともPMI(M&A成立後の統合)完了後に8%以上を見込める優良案件が対象になりそうだ。
例えば、ブルーゾーンHD本拠地の埼玉県でドミナントを盤石にするためのマミーマート<9823>や、東京都心の空白地を都市型チェーン三徳(Santoku、東京都新宿区)、スズキヤ(神奈川県逗子市)、ナリタヤ(千葉県成田市)など、「お膝元」である南関東での食品スーパー出店強化が考えられる。
南関東以外でも、デライトHDに続く中京圏での飛び地攻勢で、老舗のヤマナカ<8190>などが視野に入ってきても不思議ではない。
効率第一主義の再編ではなく、傘下各社の特色生かす
イオンのような巨大資本による系列統合とも、セブン&アイのようなコンビニとスーパーを完全分離した事業ポートフォリオ再編とも異なり、ブルーゾーンHDのM&A戦略は「独立食品スーパー同盟」に近いと言える。
グループ各社のブランドを消さず、現場の知恵を残しつつ、後方インフラを共通化する。人口減少とコスト上昇が同時進行する時代において、「効率第一主義」とは一線を画すブルーゾーンHDモデルがどこまで広がるのか。
文化堂やデライトHD、エイヴイ、フーコット、せんどうといった多様なグループ会社をどう束ね、どこまで「自律と連帯」のモデルを磨けるか。
文・写真:糸永正行編集委員
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