【YKK】パナソニックHDから住宅設備子会社を買収、LIXIL追撃へ号砲か?

YKKは衣類、雑貨に欠かせないファスナー製品の世界企業であると同時に、アルミサッシなど建材大手の顔を持つ。今回買収を決めたのはパナソニックホールディングス(HD)傘下で住宅設備を手がけるパナソニックハウジングソリューションズ(大阪府門真市)。

建材・住宅設備で首位に立つLIXILの追撃に向けた号砲となるのか。

YKKAPと合わせて事業規模は1兆円に

建材・住宅設備業界に久々のビッグニュースが飛び込んできたのは11月17日。YKKが買収するパナソニックハウジングソリューションズはキッチン、バス、トイレ、洗面台などの水回り製品を主体に、内装ドア、収納、床材などのインテリア製品まで幅広く展開する。2025年3月期の売上高は4795億円で、従業員は1万939人。

【YKK】パナソニックHDから住宅設備子会社を買収、LIXIL追撃へ号砲か?
住宅設備に関する「パナソニックショウルーム東京」(東京・東新橋)

YKKは傘下に建材事業を手がけるYKKAP(東京都千代田区)を持ち、窓・サッシ、ドアなど開口部を中心に、住宅用からビル用まで広範な商材を提供する。YKKAPの2025年3月期の売上高は5616億円、従業員は1万8252人。パナソニックハウジングと合わせた事業規模は1兆円を超える。

YKKが今後設立する中間持ち株会社が2026年3月末までにパナソニックハウジングの株式80%を取得する。パナソニックHDは引き続き20%の株式を保有し、パナソニックハウジングを持ち分法適用関連会社とする。パナソニックハウジングは現社名と「パナソニック」ブランドを一定期間使用する予定という。

買収金額は最終的に確定していないが、企業価値は2276億円とされており、2000億円規模とみられる。

「水回り」を加え、リフォーム需要を取り込みへ

今回、グループ事業の構造改革を進めるパナソニックHDとリフォーム市場に今後の成長を託すYKKの思惑が一致した。

パナソニックHDは今年5月、国内外で1万人規模の人員削減を含む経営改革を発表。この中で、パナソニックハウジングも見直しの対象となっていた。

さらには12月に入って野球部を2026年シーズン限りで休部することを決めたが、社会人野球の名門チームとあって社内外に驚きが走った。

一方、YKKは国内新設住宅着工戸数の減少などを受け、リフォーム市場の開拓に力を入れている。戸建て、マンションを問わず住宅リフォームの主戦場といえば、水回りや内装などのインテリア領域。パナソニックハウジング買収で欠けていたピースを埋め、拡大するリフォーム需要を一気に取り込む狙いだ。

YKKはファスナー製品の世界的メーカー。「YKK」ブランドは国境を越えて抜群の知名度を誇る。1959年にサッシなどのアルミ建材事業に進出した。YKKの連結売上高9982億円で、このうちの56%を建材事業が占める。YKKグループ内で1990年以来、建材事業の中核を担うのがYKK AP。

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LIXILの背中は遠のくばかりだったが…

建材・住宅設備業界ではLIXILが売上高1兆5000億円を超え、断トツのポジションを固めている。アルミサッシ大手のトーヨーサッシ(トステムなどを経て、現LIXIL)が2001年にトイレなど衛生陶器大手のINAXと経営統合。さらに2010年にはキッチン大手のサンウエーブ工業、アルミサッシ同業の新日軽を買収した。

アルミサッシではかつてトーヨーサッシ、YKKAP、新日軽、不二サッシ、三協アルミニウム工業、立山アルミニウム工業の大手6社体制が確立していた。

トーヨーサッシと新日軽はLIXILに糾合され、三協アルミと立山アルミは統合で三協立山となり、再編が進んだ。

こうした中、建材の枠にとどまらず、水回り設備を含めた総合メーカーに飛躍を遂げたのがLIXIL。建材だけで勝負するYKK陣営にとってはLIXILの背中が遠のくばかりだった。

それが今回、パナソニックハウジングの買収により、住宅にかかわるリフォーム需要にほぼフルラインでこたえられる態勢が整う。

M&Aのスイッチが突如入る

YKKは1934(昭和9)年、創業者の吉田忠雄氏がスライドファスナーの製造に乗り出したことに始まる。昭和30年代前半からファスナーの海外生産に着手し、国内製造業としてグローバル企業の先駆けとなったことで知られる。現在では海外生産拠点はおよそ70カ国(建材事業を含む)に及ぶ。

ではM&AへのYKKの過去の取り組みはどうか。1990年後半にスナップボタン製造のスコービル・ジャパン(現YKKスナップファスナー、東京都台東区)の買収を最後に事実上、途絶えていたのが実情だ。

ところが今年は突如、M&Aのスイッチが入った。まず8月末、ドイツの窓・カーテンウォールメーカーのゾイファート・ニクラウス(バイエルン州)の全株式を取得し、子会社化したばかり。ドイツを起点に欧州の窓・カーテンウォール事業に本格参入する狙い。

YKKAPは現行の中期経営計画(2025年度~28年度)で、海外事業の成長を重点方針の一つに掲げており、その初年度に早速M&Aを実行。これに続くのが乾坤一擲ともいえるパナソニックハウジングの大型買収だった。

ライバルLIXILとの距離を今後さらにどう縮めていくのか。二の矢、三の矢にがぜん注目が集まりそうだ。

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文:M&A Online

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