メガネ業界に再編機運がにわかに高まってきた。引き金を引いたのは「Zoff」を展開するインターメスティック。
「メガネスーパー」を191億円で買収
インターメスティックは9月初め、「メガネスーパー」を運営するビジョナリーホールディングス(HD、東京都中央区)を約191億円で買収すると発表した。10月1日付で、国内投資ファンドの日本企業成長投資(東京都千代田区)などから全株式を取得し、完全子会社化する。
実は、インターメスティックにとってこうした本格的なM&Aは初めて。取得金額は売上高(2024年12月期448億円)の4割強に相当し、社運を賭けた大型買収と言って差し支えない。手元資金と180億円の銀行借り入れで賄う。
ビジョナリーHDは1973年、さいたま市で創業した。「メガネスーパー」ブランドを中心に全国に300店舗を持ち、直近売上高は282億円(2025年4月期)。定期購買の若年層顧客が多いコンタクト事業に強みを持ち、売上構成もメガネ事業を上回る。
同社を傘下に収めることで、インターメスティックの売上高は730億円規模、店舗数もほぼ倍の約620店舗となる。
上場企業の新旧が入れ替わる
ビジョナリーHDは元上場企業。日本企業成長投資によるTOB(株式公開買い付け)を受け入れ、2024年1月に東証スタンダード市場への上場を廃止した。前社長の不正取引問題などで信頼回復が急務となったのを受け、ファンド傘下でガバナンス体制の再構築や経営改革を進めてきた経緯がある。
業界内での浮沈を物語るかのように、ビジョナリーHDと入れ替わり、インターメスティックは昨年10月に東証プライム市場に新規上場した。

メガネトップ、ジンズHDの背中は?
現在、メガネ業界で首位に立つのは「眼鏡市場」を展開するメガネトップ。売上高946億円(2025年3月期)で、約1060の店舗を持つ。
これに「JINS」のジンズHDが続き、2025年8月期は売上高925億円を見込む。ジンズHDは約780の店舗のうち3分の1が中国、台湾を中心とする海外店舗で占め、米国にも進出している。
3位にはパリミキホールディングス(2025年3月期の売上高507億円)がつけていたが、インターメスティックが今回、ここに割って入り、メガネトップ、ジンズHDとの距離を縮めるとともに、パリミキHD以下を大きく突き放す形だ。
「Zoff」は都市部のショッピングセンターや駅ビルなど商業施設への出店をメインとし、ロードサイド・路面店は全317店舗(7月末時点)のうち10店舗にも満たない。
一方、「メガネスーパー」の店舗はロードサイド・路面店が8割近くを占める。各ブランド単体で進出が難しいエリアの相互補完が可能としている。
また、顧客層も「Zoff」が若年層を主体するのに対し、「メガネスーパー」はミドル~シニア(メガネ事業)が中心で、「Zoff」商品の提供を通じた商品ラインナップ拡充や粗利益率改善などの相乗効果を見込む。
SPA方式で価格破壊の大波が到来
メガネ業界では2000年代に入って“価格破壊”の大波が到来した。SPA(製造小売業)方式による流通の中抜きで低価格のビジネスモデルをいち早く確立したのが「Zoff」。同じ時期に誕生した「JINS」とともに市場に旋風を巻き起こした。
平均単価2万~5万円が主流だったところに、それまで空白帯だった2万円未満のロープライス市場を開拓してきた。
既成の有力メガネチェーンが苦戦を強いられる中、「JINS」のジンズHDは業界2位に駆け上がり、「Zoff」のインターメスティックも大手の一角を不動にしたのだ。
サングラス、ECを重点強化
インターメスティックが今後の成長戦略の柱に打ち出しているのが既存店舗の強化、積極的な出店、利益率の向上の3点だ。
既存店舗の強化では新たなサングラス市場の創造を掲げる。サングラス市場は海外ブランドを中心とする高価格(2万円以上)と、雑貨店などで売られる低価格(5000円未満)に二極化されているが、この間のミドルプライス帯で第一に想起されるサングラスブランドを目指すとしている。
現在、サングラスの売上高は48億円と構成比で1割強。伸び率は24%を超え、事業の大きな柱に育てていきたい考えだ。
利益率向上の施策では引き続きEC(電子商取引)販売の拡充に力を入れることにしている。
上場企業が5社ひしめく
国内のメガネ市場はコロナ禍の影響などで2020年に5000億円を割り込んだが、足元では5500億円を超える水準に回復している。
メガネ業界では思いのほか上場企業がひしめく。ジンズHD、インターメスティック、パリミキHDに、Japan Eyewear Holdings(金子眼鏡など展開)、愛眼を合わせて5社を数える。反対に、最大手のメガネトップは2013年にMBO(経営陣による買収)で上場を廃止した。
今回の「Zoff・メガネスーパー」連合の誕生が次の再編の呼び水となるのか、ウオッチの必要がありそうだ。

文:M&A Online
上場企業のM&A戦略を分析
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