【2026年自動車】海外資産の選別が加速、国内再編・ソフト開発に再配分する構造改革型のM&Aが主戦場に

2025年の自動車関連業界でのM&Aでは、超大型案件の破談や変更があった。前年の12月に基本合意したホンダと日産自動車の経営統合は、統合条件を巡る意見の不一致から2月に破談。

また、6月に発表され、約4兆7000億円と年間最高額の案件となったトヨタ不動産などトヨタグループによる豊田自動織機のTOB(株式公開買い付け)は、米投資ファンドのエリオットから「著しく過小評価している」と反対表明を受けた。同グループは競争法手続きの遅れを理由に、TOB開始を12月上旬から2026年2月以降に延長した。

こうした巨大再編の動揺は、自動車産業が新たな資本戦略を模索している現状を映し出している。2026年は、円安と関税リスクを背景に海外資産の選別が加速し、国内でのサプライチェーン再編や、ソフトウエア開発のリソース確保に向けたM&Aが本格化する見通しだ。

円安とトランプ関税という「大波」がM&Aに影響

適時開示によると、自動車関連業界のM&Aは前年比1件増の23件だった。海外生産拠点・合弁会社の売却が相次ぎ、国内ではアフターマーケットやサプライチェーンを軸にした再編が一段と進んだ。電動化・ソフトウエア化の産業転換に加え、円安やトランプ政権の追加関税といった外部ショックが自動車関連企業の資本配分を変えつつある。

注目されるのは日本企業が海外子会社や生産拠点を手放す動きが急拡大したことだ。売却対象は欧州、中国、インド、メキシコ、米国と広範囲に及ぶ。背景には各市場の構造変化があるが、2025年特有の追い風として、円安とトランプ関税の存在が大きい。メキシコ経由の自動車・部品が米国で高関税の対象となる可能性も高まり、北米向け生産の将来性に不透明感が広がった。

それに加えて、関税対応のために輸出価格を引き下げる動きもみられ、自動車輸出は2025年5月に前年同月比11.1%減となった。

さらに、円安は海外事業の価値評価にも影響した。

1ドル150円前後の局面では、海外子会社を売却した際の売却益が円換算で大きくなる。グローバル市場ではEVシフトや価格競争で利益率が低下する中、円安効果で売却益が膨らむのであれば「いま売る」のが合理的になる。

【2026年自動車】海外資産の選別が加速、国内再編・ソフト開発に再配分する構造改革型のM&Aが主戦場に
2025年自動車関連業界の海外子会社売却案件(適時開示による)

その半面、新たな海外買収は大幅に減った。円安によって海外買収のコストが跳ね上がったことに加え、トランプ政権の関税政策が北米事業の将来性を見通しにくくしたからである。

弱い円は一部の関税負担を相殺し得るが、企業にとっては買収後の追加投資がどこまで必要になるか読めないという不確実性の方が大きかった。結果として、海外買収の優先度は下がり、投資余力は国内に向かった。

海外事業を売却し、国内・ソフトへM&Aでシフト

こうした外部環境の変化の中で、M&Aによる国内アフターマーケットとサプライチェーンの再編は活況を呈している。車齢の長期化、中古車価格の高止まり、整備・補修需要の増加を背景に、国内アフター市場は堅調なためだ。自動車整備・サービス業界では事業承継案件が増加し、統合による効率化が進んでいる。

実際に、オートバックス、ニッコンホールディングス、ゼロ、三洋貿易、オプティマスなどが補修部品、物流、整備、海外販売ネットワークなど周辺事業を相次ぎ買収しており、完成車を取り巻く周辺ビジネスの水平統合が目立つ。

2026年はソフトウエア・開発リソースへのM&Aが本格化する可能性がある。車載ソフトウエアや自動運転開発に関わる人材は2030年に5万人規模で不足するとされ、ソフト力の確保は産業全体の急務となっているからだ。

ハード中心の部品メーカーがソフト開発会社を買収する動きが出始めるかもしれない。

もはや、海外で攻める局面ではなく、海外資産を選別し、国内とソフトへ再配分する構造改革型のM&Aが主流になる。2026年以降もトランプ関税の行方と円相場の動向次第で、自動車関連業界のM&A戦略は大きく揺れる可能性が高い。自動車産業はいま、政策、為替、技術革新が同時に影響する歴史的転換点に立っている。

文:糸永正行編集委員

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