
ベーシック・キャピタル・マネジメント(東京都中央区)は、中小企業に特化したバイアウトファンドです。2002年にみずほ証券<8606>、オリックス<8591>、メリルリンチの共同出資によって設立されました。
2021年6月に菓子・菓子パン機器の開発や製造を行うマスダック(埼玉県所沢市)の株式を取得しました。マスダックは菓子のOEMを行っており、1991年から「東京ばな奈」の生産も手掛けています。事業承継問題を背景として中小企業のM&Aが活発化する中で、存在感を増している投資ファンド、ベーシック・キャピタル・マネジメントとはどのような会社なのでしょうか?
この記事では以下の情報が得られます。
・ベーシック・キャピタル・マネジメントの概要
・投資先と業績推移
・買収が繰り返されたアビバの詳細
中小企業基盤整備機構が合計110億円を出資
ベーシック・キャピタル・マネジメントは、これまでに中小企業の事業再生と成長支援に特化したファンドを5つ(イマジン、みのり1号、2号、3号、BCM-V)立ち上げています。みのり2号ファンドからは中小企業基盤整備機構からの出資を受けており、中小企業や新興企業の事業活動の活発化に向けた取り組みを行う投資ファンドという側面が鮮明になりました。中小企業基盤整備機構は、みのり2号に50億円、みのり3号に60億円、BCM-Vに100億円を出資しています。
■BCM-Vスキーム図

中小企業においては、経営者であり株主でもある代表のカリスマ性で成長しているケースが多く、属人性の強さが事業を承継できない障害にもなっています。事業承継を背景としたM&Aが増加していますが、仲介会社などを通した通常のM&Aの場合はトップ同士で話が進み、新たな株主による運営体制ができていないことがあります。事業承継でPEファンドを活用することにより、3年から5年の支援期間が得られます。運営側にとってはこれが準備期間となり、PEファンドに買収されるメリットになります。経営者の高齢化は進行しており、ベーシック・キャピタル・マネジメントのような中小企業に特化したPEファンドの活躍が期待されています。
ベーシック・キャピタル・マネジメント代表取締役社長の金田欧奈氏は、デロイトトーマツコンサルティング(現:アビームコンサルティング)入社後、M&Aコンサルティングに従事していました。2006年にベーシック・キャピタル・マネジメントに参画。事業承継やカーブアウトなど、経営支援を主導します。メーカーや小売、外食、フランチャイズチェーンなど、幅広い経営経験を持っています。金田氏はファンドの出資先に含まれないユナイテッド&コレクティブ<3557>の取締役も務めています。
中小企業に特化した投資ファンドらしく、出資先は外食や製造、IT、建設用資材、コンサルティングなど多岐にわたっていることが特徴です。
■ベーシック・キャピタル・マネジメントの主な投資先
企業名 事業内容 投資時期 支援内容とエグジット ナスステンレス ステンレスキッチンメーカー 2003年3月 約3年の投資期間を経てシナジー効果が期待できる上場マンションデベロッパーに株式譲渡により投資終了済み。 千房 関西を中心とする高級お好み焼き、鉄板レストラン 2005年3月 財務再構築の上、増資による資金提供により新規出店を加速。約2年の投資期間を経て創業家に株式譲渡により投資終了済み。 アビバ パソコンスクール 2005年5月 産業再生機構を活用し、上場する大手教育企業と共同投資。約3年の投資期間を経て、同社へ株式譲渡により投資終了済み。 シニアライフクリエイト 高齢者向け宅配弁当 2006年12月 事業会社からのMBOをサポート。
5年超の投資期間を経て業績拡大と経営強化を実現、更なる成長を展望しシナジー効果が期待出来る上場企業へ株式譲渡し、投資終了。 ホリー 建設用仮設資材メーカー 2007年3月 海外企業からのMBOをサポート。
約4年の投資期間を経て業績拡大と財務強化を実現、更なる成長を展望しシナジー効果が期待できる同業の上場企業へ株式譲渡し、投資終了。 アイコムシステック 独立系ソフト受託開発 2009年2月 事業承継案件として、創業者から経営陣と共同で株式を取得。
3年の投資期間を経て経営効率と収益性の向上を実現、更なる成長を展望しシナジー効果が期待できる上場企業へ株式譲渡し、投資終了。 不二家フードサービス 不二家のレストラン子会社 2007年5月 親会社と共同で新会社を設立し、レストラン子会社から事業を承継。
経営陣を外部から招聘しオペレーションを改革。5年超の投資期間を経て10数年続いた赤字体質を解消し、親会社への株式譲渡により投資終了済み。 ハート 老舗玩具菓子メーカー 2014年4月 創業家による株式売却及び事業承継案件。
国内大手玩具メーカーへ株式売却し、投資終了済み。 大貴 ペット資材の製造メーカー 2014年12月 事業承継案件として創業者より株式を取得。
国内大手投資ファンドへ株式売却し、投資終了済み。
その後、創業家関連企業へ株式譲渡により投資終了済み。 パナレーサー 自転車タイヤメーカー 2015年4月 親会社であるパナソニックから株式を取得し、資本独立を支援。
国内銀行系投資ファンド及び投資会社へ株式売却し、投資終了済み。 東海ステップ 建設用仮設材(足場類)の施工 2015年7月 創業者による株式売却(事業承継)を支援。
国内大手産業資材商社へ株式売却し、投資終了。 豊創フーズ 焼き鳥や海鮮居酒屋等をチェーン展開 2015年7月 展開ブランド価値向上と新規出店を通じて、成長支援中。 スタック 建設用仮設材(足場類)の施工 2017年12月 創業社長による株式売却(事業承継)の支援案件。 恵那金属製作所 自動車向けターボチャージャー主要部品を製造 2018年7月 創業家より株式を取得し、創業家及び経営陣とともにさらなる企業価値向上に向けて支援中。 カルネヴァーレ KINTANブランドの焼肉レストランを展開 2018年10月 親会社である大手外食プロデュース企業より株式を取得し、経営者のMBOを支援。
将来の株式上場も視野に成長支援中。 ミトヨ 自動車用プラスチック・ゴム・金属製品のメーカー 2019年3月 創業二代目会長からの事業承継案件として株式を取得。
将来の株式上場も視野に成長支援中。 ケイワイトレード 通訳・翻訳サービス会社 2019年5月 迅速かつ柔軟な対応力と、安定した顧客基盤が強み。事業承継案件として創業者より株式を取得後、新経営体制構築と更なる事業成長を実現すべく取り組み中。 WorkVision ITソリューション 2018年7月 親会社である東芝グループから株式を取得し、資本独立及び企業成長を支援。 テイ・アイ・シイ 自動車テストエンジニアリング 2019年8月 経営陣による株式売却(事業承継)を支援するものであり、投資後は、さらなる成長に向け、経営陣とともに事業の拡大を図るべく取り組み中。 ヒノマル 肥料・農薬・産業資材卸売、園芸施設工事 2020年8月 大企業グループからのカーブアウト(子会社独立)を支援し、経営陣とともに経営基盤を強化しながら、九州内のみならず、九州外へも積極投資を行い、事業の更なる発展を目指す。 三和デンタル 歯科技工所 2021年5月 創業社長より株式を取得し、円滑な事業承継とさらなる企業価値向上を目指す。 マスダック 製菓・製パン機械メーカー 2021年6月 成長資金の投資を通じ、経営陣とともに更なる事業拡大を目指す。 佐藤型鋼製作所 建築用鋼製下地材メーカー 2021年9月 将来的な事業承継を見据え、経営陣とともに更なる事業拡大を目指す。
※ホームページより一部抜粋
ベーシック・キャピタル・マネジメントは、2020年2月に東海ステップ(静岡県藤枝市)をコンドーテック<7438>に売却、2020年4月にパナレーサー(東京都港区)をパナレーサーホールディングス(りそなキャピタルと三田アドバイザリーが出資する特別目的会社)に売却するなど、近年はエグジットが活発でした。
■ベーシック・キャピタル・マネジメント純利益の推移(単位:百万円)
2018年3月期 2019年3月期 2020年3月期 2021年3月期 純利益 54 -33 285 128※決算公告より筆者作成
手ごわい再生支援案件からスタート

ベーシック・キャピタル・マネジメントは、パソコンスクールアビバの再生支援を行いました。アビバは1979年に名教として設立され、学生の成績管理用ソフトの開発などを行っていました。1981年にパソコンスクール事業を開始。1996年にアビバジャパンに改名しました。パソコンが普及するに伴って事業を拡大します。教育訓練給付金制度を活用してパソコンスキルの習得や資格取得ができるようになると、パソコン教室の需要が高まって全国的に展開しました。このとき、有名タレントを起用した数々のテレビCMを放映しています。莫大な広告費をかけていたことが、後の大赤字の要因にもなりました。
2003年に教育訓練給付金制度の給付割合が80%から40%に見直されると、受講者数が大幅に減少。2003年12月期に18億6,700万円の経常損失を計上し、単独での立て直しを断念して産業再生機構に支援を申し込みました。2005年1月に産業再生機構の支援が決定。ベネッセホールディングス<9783>が譲受会社アビバに95%以上出資してアビバジャパンの事業すべてを譲受しました。
当時、ベーシック・キャピタル・マネジメントは不良債権などを買い取って再生する再生ファンドとしての性格が強く、産業再生機構を活用してベネッセと共同出資する形をとり、2005年5月に再生支援を行います。ベーシック・キャピタル・マネジメントは2008年8月に保有する株式をベネッセに売却。ベネッセは2010年3月にアビバの全株式をギグワークス(旧:スリープログループ)<2375>に売却しました。このとき、ベネッセはアビバへの貸付金54億7,200万円の債権を放棄しています。
その後アビバは人事コンサルティングのリンクアンドモチベーション<2170>に6億2,800万円で買収されました。
麦とホップ@ビールを飲む理由