
日本バスケットボールリーグ(Bリーグ)は全国47都道府県にクラブを展開する「47都道府県プロジェクト」を軸とした成長戦略を示した。現在、Bリーグチームが存在しない山梨、和歌山、鳥取、高知、大分、宮崎の6県を重点エリアに掲げ、新規オーナーを募集している。
M&Aによる迅速な参入
最近では既存クラブの買収を通じてBリーグに参入するケースが大半だ。B1ではオープンハウスグループ、セガサミーホールディングス、ディー・エヌ・エー、ミクシィなど、IT・流通・エンタメ分野の大手企業が名を連ねる。
B2にはサイボウズやスマートバリュー、西川グループ、やずやなど、地域や生活関連分野に根を持つ企業が進出。B3では学生服大手のKANKOエステート(菅公学生服)や人材サービス「バイトル」のディップ、ガソリンスタンドや外食フランチャイズなどを手がけるヤマウチなど、多様な業種の企業が顔を揃える。
クラブを新設するよりも既存クラブをM&Aで取得する方が、地域の顧客基盤や運営ノウハウを短期間で確保できるからだ。収益化までの時間を短縮できる点で、企業にとって「即戦力型投資」として位置づけられる。
Bリーグ新規参入企業リスト(ジャパネットとメディアドゥー以外は全てM&Aでの参入)

企業側の三つの狙い
Bリーグ参入を巡るM&Aは、単なるスポーツ投資にとどまらず、企業の経営戦略の一部となっている。その狙いは大きく三つに整理できる。
第一に地域市場への足がかりだ。クラブは地域社会と強固に結びつく存在であり、自治体や教育機関、地元企業とのネットワークを持つ。クラブ経営を通じて、企業は新たな販路や顧客接点を獲得できる。
第二にブランド価値の強化がある。スポーツクラブは地域の象徴的存在であり、スポンサー活動以上に生活者の感情と企業ブランドを結びつける力を持つ。
第三は事業ポートフォリオの分散だ。少子高齢化や市場成熟で既存事業の成長が鈍化する中、スポーツは成長余地のある市場として注目される。M&Aを通じた参入はリスクを分散しつつ、新しい収益源や無形資産を確保する手段となる。
リーグの制度的支援
Bリーグ自身もM&Aを含む企業参入を後押ししている。リーグ横断組織「B.LEAGUE MANAGEMENT BASE」は、クラブ経営の可視化やノウハウ共有に加え、M&Aをはじめとする資本戦略支援も打ち出す。買収後の経営安定をリーグが制度面で支援する体制は、企業にとって参入リスクを軽減する。
さらに、千葉ジェッツを経営再建した島田慎二Bリーグチェアマンが主宰する「島田塾」など経営者向けの学習や交流の場も設けられ、参入企業と地域協会との連携強化を促す。リーグは「クラブの成長なくしてリーグの発展なし」との方針を掲げ、クラブ数拡大を経営戦略の中核に据える。
成長市場として経済と地域をつなぐ投資モデル
2024–25年シーズンの実績は41クラブ、総入場者数485万人、事業規模は706億円の見込みだ。いずれも拡大基調にあり、2028–29年には47クラブ体制、総入場者数700万人、事業規模800億円を目指す。企業M&Aを通じた新規参入が、これらの数値目標達成を後押しする。
スポーツクラブはこれまで広告宣伝やCSRの延長として扱われることが多かった。
Bリーグの「47都道府県プロジェクト」は、単なるクラブ増設の枠を超え、M&Aを通じた企業戦略と地域創生を結びつける新しい投資モデルを提示している。プロスポーツ市場は今後も拡張が見込まれ、クラブの取得や新設を巡る企業の動向は、国内M&A市場の潮流を占う指標となりそうだ。
文:糸永正行編集委員
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