
印刷大手の大日本印刷<7912>が企業買収にアクセルを踏み込んでいる。同社は2025年7月に、今年3件目となる企業買収に踏み切る。
2010年以降の同社の主な案件を見ると2010年、2019年、2020年にそれぞれ1件ずつ、2023年に2件、2024年1件だったのが、2025年は半年ほどで3件に達しているのだ。
アフリカ、アジア、南米などの政府向けに事業を展開
大日本印刷は、注力事業や新規事業への集中投資と事業構造の改革によって成長を目指す戦略のもと、2023年4月から2028年3月までの5年間に、成⻑投資と基盤構築投資枠として3900億円を計上している。
企業買収を活発化させているのは、この戦略に沿ったもので、残りの期間は3年ほどあるため、今後も企業買収が続く可能性は高い。
7月に傘下に収めるのは、アフリカを中心に本人情報を登録・認証する政府向けID(身分証明など)認証サービスを提供しているRubicon(ケイマン諸島)で、ID情報の登録・認証機器やカードプリンターを持ち運べるケースに収め、機動性や堅牢性、セキュリティ性を合わせ持ったサービスを提供しており、世界50以上の国や地域で導入実績を持つ。

大日本印刷は、ICカード事業などで培った認証・セキュリティ技術を有しており、ID情報に関連するカードやカードプリンターなどでRubiconとの連携を強化し、政府向けID認証サービスの拡充と新サービスの開発に取り組む。
アフリカをはじめアジアや南米などの政府向けに事業を展開し、2030年度までに認証・セキュリティ事業で累計1400億円の売り上げを目指す計画だ。
このほかに2025年は二次電池外装材や包装材などを手がけるレゾナック・パッケージング(滋賀県彦根市)と、自動車部品や産業機器向けの加飾部品を手がける光⾦属⼯業所(名古屋市)を運営するHKホールディングを子会社化した。
ここ3年ほどでは、2023年に医薬品の製剤開発、製造支援などを手がけるシミックCMO(東京都港区)と、メタバースの構築や運用、基盤開発などを手がけるハコスコ(静岡県熱海市)を子会社化。2024年は自動車や電子、医療などの工業材料の分析、試験を手がけるUBE科学分析センター(東京都港区)を子会社化するなど、幅広い業種の企業を傘下に収めている。

海外売上高比率が上昇
印刷業界は電子化の流れの中、新聞や書籍、雑誌、広告などの紙媒体の需要が減少しているのに加え、企業などでのペーパーレス化の取り組みなども進んでおり、印刷数量が長期的に減少する傾向にある。
このため、業界では新規事業の開拓や海外展開などに取り組む動きが見られる。
大日本印刷では多角化を進めており、出版関連事業や情報セキュア事業などからなり、全売上高の半分ほどを占めるスマート・コミュニケーション部門を主力に、産業用高機能材やバッテリーパウチ(バッテリーの外装材)、医薬包装システムなどからなる同3分の1ほどのライフ&ヘルスケア部門、ディスプレイ用光学フィルムやフォトマスクなどからなる同15%ほどのエレクトロニクス部門で事業を構成している。
2024年3月期の海外売上高比率は23.6%で、インドネシアや台湾などアジア地域が好調だったことから前年度よりも0.6ポイント上昇した。政府向けID認証サービスのRubiconの子会社化により、この比率はさらに上がる可能性がある。
3期連続の増収営業増益に
こうした多角化や海外強化などの取り組みの影響もあり、同社の業績は堅調に推移しており、2025年3月期の売上高は1兆4576億900万円(前年度比2.3%増)、営業利益は936億1200万円(同24.1%増)の増収営業増益となった。
2026年3月期も2.9%の増収、0.4%の営業増益を見込んでおり、増収営業増益は2024年3月期以来3期連続となる。
同社は、時期は明確にしていないが、営業利益で過去最高となる1300億円の目標を持つ。目標達成に向けM&Aがどれほど貢献することになるだろうか。

文:M&A Online記者 松本亮一
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