2年連続で経営陣交代!フューチャーベンチャーキャピタルに何が起こっているのか?

フューチャーベンチャーキャピタル(FVC)<8462>が揺れています。

2023年6月13日に開催した定時株主総会で、筆頭株主のDSG1(名古屋市)による7名の取締役選任議案が可決。

2年連続で経営陣が総入れ替えとなる、異例の出来事に見舞われました。

同社は2022年6月23日に開催した株主総会において、わずか2.5%株主である金武偉氏の株主提案によって、自身を含む経営陣の選任案が可決。前代未聞だと世間を驚かせたばかりでした。

金武偉氏とDSG1は1度目の株主提案で共同歩調をとっていましたが、経営方針に対する食い違いが生じ、仲違いする結果に終わっています。FVCに何が起こっているのでしょうか?

この記事では、以下の情報が得られます。

・経営陣の交代に至った経緯
・FVCの概要

創業者が持株を手放して安定株主が手薄に

FVCの創業から株主の移り変わり、経営陣が入れ替わる前の実績や経営スタイル、金武偉氏が問題提起した内容、経営陣交代後の実績と経営方針、DSG1の株主提案の内容を順を追って説明します。

FVCは1998年9月に誕生しました。日本で初となる投資事業有限責任組合(フューチャー一号投資事業有限責任組合)を組成するなど、独立系ベンチャーキャピタルの草分け的な存在です。2001年10月に上場しています。中小企業基盤整備機構(東京都港区)や地方自治体、地銀などを中心として資金を集めてファンドを組成。ベンチャー企業への投資を行っていました。

しかし、リーマンショックで市況が悪化し、2008年3月期以降は8期連続の営業赤字を計上してしまいます。経営危機を救ったのがカネカ<4118>。

FVCの第三者割当増資を引き受けました。カネカは2011年9月に創業者・川分陽二氏の保有比率を上回る18.00%を保有する筆頭株主となりました。

川分陽二氏は2011年6月に代表取締役社長を退任しました。カネカは2016年からFVC株を処分し始め、2017年2月には4.58%まで保有比率を下げています。その後、大株主から外れました。

FVCはカネカからの資金調達後も業績が上向かず、投資ファンドEVO FUNDに対して新株予約権を発行して30億円を調達するなど、資金調達を重ねていました。創業者・川分陽二氏も大株主からは外れており、安定株主が手薄な状態が続いていました。

DSG1が大株主に躍り出たのは2021年12月。3億4,000万円ほどを投じて、890万株あまり(5.70%)を市場から買い集めました。2023年6月には22.02%まで高まっています。

FVCは2014年3月期から6期連続の純損失を計上していました。2021年3月期に黒字転換を果たしています。

■フューチャーベンチャーキャピタル業績推移

2年連続で経営陣交代!フューチャーベンチャーキャピタルに何が起こっているのか?
※決算短信より

経営陣が交代する前のFVCの最大の特徴が、ファンド数を増やして管理手数料によるストック収入を増やそうというもの。IPO(新規株式公開)を狙って大きく稼ぐベンチャーキャピタルとしては珍しい戦略でした。これをLTV(顧客生涯価値)の最大化を図る、VaaS(Venture Capital as a Service)と呼んでいました。

2年連続で経営陣交代!フューチャーベンチャーキャピタルに何が起こっているのか?
※2021年3月期決算説明資料より

なお、金武偉氏が就任した後の2023年3月期は出資するデジタルホールディングス<2389>の株式を一部売却したことや、法人税等調整額で6億1,800万円の押し上げ効果があり、前期の7倍となる10億4,000万円の純利益を計上しています。

目標値が大幅に下方修正された?

VaaSの経営方針に嚙みついたのが、金武偉氏でした。

FVCが2022年4月7日に公開した金武偉氏の株主提案によると、ファンド数が40本を超えるなど数が多くなりすぎて管理に経費がかかることや、従来はIPOを狙って市場平均を超過するリターンを得るべきベンチャーキャピタルが手数料に依存していることなどを批判しています。

金武偉氏はファンドの細分化を改めて規模を拡大すること、投資領域の拡大、リターン重視の経営方針などへ改めることを求めました。その上で、金武偉氏を含む取締役の選任を要求したのです。

DSG1は最終的に金武偉氏の提案に賛同し、株主総会で経営陣の総入れ替えが行われました。

新体制のFVCは、2022年9月12日に「新・中期ビジョンと成長戦略」を発表します。その中で、売上高20億円、時価総額175億円(発表時点ではおよそ55億円)に引き上げるという明確な目標を掲げました。

2年連続で経営陣交代!フューチャーベンチャーキャピタルに何が起こっているのか?
※新・中期ビジョンと成長戦略

また、サーキュラーエコノミー領域への投資を加速し、永久保有型M&Aを行うという方針も示します。

しかし、この新たに掲げた目標や投資方針が火種となります。

2023年4月5日、FVCはDSG1から株主提案を受けたことを発表しました。DSG1は現経営陣による有言「不」実行を強く非難。金武偉氏は2022年6月10日、既存の株主に対して手紙を送付し、「小が大を飲む戦略的買収も実践し、ひとまず時価総額 300 億円(株価3400 円)にし」、「そのうえで、時価総額 1000 億円台を視野に日本を代表する投資会社を目指します。」と記していたとしています。

しかし、就任直後に発表した「新・中期ビジョンと成長戦略」では時価総額を175億円に下方修正しています。また、1年経過してもM&Aは1件も行われず、異常に高い業績目標の情報発信をし続ているだけだと批判しました。

また、突如としてぶち上げたサーキュラーエコノミー領域の会社を対象とした永久保有型のM&Aにも異を唱えます。これはサーキュラーエコノミー領域の事業会社へと変化することであり、投資会社として成長してきたFVCにはそのノウハウやスキル、経営人材が欠けていると主張したのです。

DSG1は取締役7名の選出を求めました。

金武偉氏を含む経営陣は株主提案に反対。「新・中期ビジョンと成長戦略」で掲げた目標は前倒し達成の可能性を含んで開示したものであり、結果を出すまでのスピード感にこだわっていること。サーキュラーエコノミー領域への永久投資は、株主提案時のM&A戦略を実行に落とし込んだものに過ぎず、主張と戦略は一貫していることを訴えました。

両者の主張は混迷を極めました。DSG1は、FVCの株主提案に関するWebページを立ち上げています。その中で新たに掲げた成長戦略を批判し、「昨年総会において、当社を含む株主は、後日、現経営陣によってこのような経営戦略が立案されることを知らずに、現経営陣をFVC社の役員に選任する議案に賛成したものであり、誠に遺憾です。」と記載しています。

また、DSG1の代表である澤田大輔氏は現代ビジネスのインタビューに応えており、目標を引き下げたことについて「事前の説明はまったくありません。というか株主総会で経営権を取得しても、我々のところに挨拶ひとつなく、連絡ひとつ寄こしませんでした。」と話しています。

一連の流れから、金武偉氏を含む旧経営陣と株主とのコミュニケーション不足が底流にあると見ることができるでしょう。

株主総会を行う直前の2023年6月9日、金武偉氏は自身のTwitterで、「株主の判断に身を委ねます わたしがFVCでやり残したことは山ほどある。でも過去1年に対し、一片の悔いもありません」と投稿しています。

DSG1はFVC株を22.02%保有しています。当面は安定した経営が継続できるでしょう。2%程度の株式の取得で、経営権を取得することの難しさが改めて浮き彫りになりました。

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