外国人投資家による上場企業への出資規制を強化する改正外為法が11月に成立し、来春に施行される。武器や原子力、半導体など国の安全保障にかかわる技術の海外流出などを防ぐのが目的で、事前届け出の基準となる出資比率を現在の「10%以上」から「1%以上」に厳格化する。
ただ、運用手続きなど具体的な規定は今後策定される政省令で示されることになっており、その行方に注目が集まっている。改正外為法のポイントや留意点、対日M&Aへの影響などについて、東陽介、大川信太郎の両弁護士に聞いた。
日本市場の魅力保持へ外国投資家に理解される制度を
ー今回の改正外為法をどのように評価していますか。
東 近年、米国を中心とする先進諸国で安全保障に関わる先端技術の流出について懸念が高まる中、対内投資規制を強化する動きが流れとなっている。日本としても足並みをそろえる必要があった。米国で来年2月に外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)という新法が完全施行され、より厳しい枠組みがスタートすることもあり、早期の法整備が求められていた。
一方で、今回の法改正で反響を呼んだのは上場株が明示的にターゲットになっている点。とりわけ、外国投資家が上場株を取得する際に事前届け出が必要となる閾(しきい)値が従来の10%から1%に大きく引き下げられる。これは大量保有報告制度における5%をはるかに下回るレベル。新たに事前届け出を免除する制度が創設されるが、その線引きなどの詳細は政省令に委ねられている。
対日投資を委縮させるようであってはいけない。安全保障と日本の資本市場の魅力保持の両立という観点から、外国投資家が理解しやすい制度にすることが大事だ。
「1%」は先進各国で最も低い閾値
ー事前届け出の基準となる「1 %」は先進各国で最も低い部類。思い切った引き下げに見えます。
東 会社法では持ち株比率が1%を超える株主は株主提案が行える。それを踏まえている。さらに、日本は諸外国に比べて少数株主権が強いとされる点も考慮したのだと思われる。
引き合いに出される米国は閾値自体がない。その代わり、取締役を送らない、重要な非公開事実に接触しない、一定の経営の重要事項に拒否権を持たないといった形で、実質的な基準での絞りがついている。
米国の場合、上場株取引を念頭に置くというよりも、未上場企業やベンチャー企業への青田買い的なマイノリティー出資を通じて先端技術が流出することを懸念している。日本はそうではなく、上場株に規制は及ぶが、非上場株についてはそもそも閾値がない。日米で制度の前提が違うので、一概に比べられないが、私自身、1%は低いと思っている。
大川 1%という数字については財務省とは別に、経済産業省でも議論がされていたと思われる。経産省が10月初めにまとめた報告書は、諸外国では1%程度の株式を持つ株主が投資先企業の決定事項に影響を与えたという事例が多数生じているとし、日本においても届け出対象となる株式取得割合の閾値を10%から1%に引き下げることを検討すべきだと明記している。その辺もスタディーし、1%程度でも影響を及ぼせると整理したのではないか。
◎事前届け出対象業種
免除制度…運用手続きの“線引き”を注視
ー事前届け出免除制度の対象範囲は政省令で規定することになっていますが、注視すべきポイントは。
東 その際、指定業種のうち、国の安全を損なうおれそが大きいものは対象外となる。例えば、武器製造や原子力、電力、通信などが想定されている。「国有企業等」も対象外とされているが、政府の影響下にあるファンド、年金基金でも国の安全を損なうおそれがないと認められるものは利用できるように軌道修正された。その中で、母国がどこかということが考慮されることがあるのか、といった点に関心を持っている。
免除制度を利用する外国投資家は、①役員に就任しない、②重要事業の譲渡・廃止を提案しない、③非公開の技術情報にアクセスしないーの3つの基準を守らなければならないとされている。外国投資家の中でも証券会社や銀行、運用会社が行う取引、つまり投資先の経営に関与しないポートフォリオ投資は対象銘柄に関わらず、免除される。
ただ、外国運用会社であっても、例えば、どの範囲のヘッジファンドやPE(プライベート・エクイティ)ファンドが銘柄に関わらず、免除制度を使えるかどうかについて必ずしも明確になっているわけではなく、まだ不確実性が残る。どういった線引きになるのか注視している。
「非公開の技術情報」とは何か?
大川 免除制度を使う際の基準の一つとして、非公開の技術情報にアクセスしないことが示されている。しかし、現時点で国の安全等にかかわる非公開の技術情報が何かということは明らかにされていない。
そのまま投資管理の文脈で使用されるかどうか分からないが、外為法では貿易管理の文脈において役務取引という考え方があり、一定のリスト規制技術を非居住者に提供する場合、事前に経産省に許可を得なければならない。しかし、役務取引の文脈でも、地図情報とか、AI(人工知能)はそれ自体ではリスト規制技術の対象となっていない。超先端技術に関して、いわば抜けがある状態。
ー外為法改正は日本のM&A市場にも影響がありますか。
東 影響があると思っている。地理的、歴史的にも日本市場に興味を持つ有力な出資者として中国を置いては語れない。その分、規制強化で最も影響を受けるのは中国の投資家と考えられる。中国の投資家だと、政府系資金が入っている場合などが少なくないことから、事前届け出免除が利用できないケースも出てこよう。
また、中国以外の投資家についても、(大量保有報告制度の)5%ルールの対象にならない範囲で株を取得する際に、1%以上ならその段階で改正外為法にひっかかるので、動きづらくなることも予想される。
ここへきて事前届け出審査が厳格化
大川 過去に外為法上の中止命令が出たのは2008年、英投資ファンドによるJパワー株式の買い増し(9.9%→20%)の1件だけにとどまる。
しかしながら、最近の傾向として事前届け出審査が厳しくなったと感じている。届け出に先立ち、事前相談・質問票への回答を求められる案件が増えている。それもかなり細かな内容に及び、事前の相談や質問票への対応に1~2カ月、時には3カ月以上かかっている。経験上、中国系企業や投資ファンドは時間がかかる傾向にある。
ー事前届け出の要否を判断できるよう、上場企業の銘柄別にリストが作られます。
大川 全上場企業について「不要」「免除可」「必須」のいずれかに分類される。外国投資家はこのリストに依拠することになる。ただ、難しい問題もある。例えば、リスト上、「不要」に分類されているが、新規に進出した事業が届け出業種だったり、グループ企業が実は届け出業種を手がけていたり、といったケースが当然ある得る。最新情報に基づくアップツゥーデートなリストをどうやって保持・更新するのかは課題だ。
本記事は、2019年11月のインタビューをもとに作成しています。
◎東 陽介(ひがし・ようすけ)弁護士
森・濱田松本法律事務所 東京オフィス パートナー
2004年東京大学法学部卒業、06年東大法科大学院修了、07年弁護士登録。12年シカゴ大学ロースクール修了、13年ニューヨーク州弁護士登録。M&A、プライベートエクイティ、ジョイントベンチャー及びスタートアップ投資が主な業務分野。
◎大川 信太郎(おおかわ・しんたろう)弁護士
森・濱田松本法律事務所 東京オフィス アソシエイト(2019年11月当時)
2015年東京大学法学部卒業、16年弁護士登録。クロスボーダー案件を中心にM&A、通商、コンプライアンス業務を扱う。外為法について、投資管理に加え貿易管理の観点からも知見を持ち、米国における規制(FIRRMA、EAR・ITAR)にも詳しい。
聞き手・文:M&A Online編集部 黒岡 博明

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