
不動産中堅のヒューリック<3003>は、2027年12月期までにM&Aに1000億円を投じる。2024年に子会社化を発表した個別指導塾を運営するリソー教育<4714>、投資用不動産販売のレーサム<8890>に続く、シナジーが見込まれるM&Aを実施し、収益力を強化するのが狙いだ。
第一弾として2025年8月に、地層を掘削して試料を採取するボーリング機器を製造する鉱研工業<6297>をTOB(株式公開買い付け)で子会社化する。シナジーが見込まれるM&Aとはどのようなものなのか。
中長期経営計画、2年前倒しで実現へ
ヒューリックは2020年12月期から2029年12月期までの中長期経営計画に沿って、2025年12月期に経常利益1500億円の達成などを目標とする中期経営計画に取り組んでいた。
2024年12月期に経常利益が1543億円となり、1年前倒しで目標に達したため、2029年12月期に経常利益1800億円の達成を目標とした中長期経営計画を2年前倒しで実現する新たな中期経営計画(2025年12月期~2027年12月期)を策定した。
この新中期経営計画の中で1000億円のM&A枠を設けたもので、第一弾として約64億円を投じて、地下資源の開発に関わるボーリング機器の製造や温泉掘削工事などを手がける鉱研工業を傘下に収めることにした。
ヒューリックの事業との関係性の強い建設会社との接点の強化や、ヒューリックが保有する温泉旅館「ふふ」での温泉、地下水施設のメンテナンスや、今後の新規開発案件などでのシナジーが見込めると判断した。
新たな不動産ビジネスモデルの取り込みも
ヒューリックが2024年に子会社化したリソー教育は、個別指導塾「TOMAS」などを運営しており、傘下に収めることで、リソー教育を核として、こども教育事業に本格参入できるほか、ヒューリックが保有する駅前の好立地物件をリソー教育に紹介する取り組みを強化することで、競争優位性のある教室展開を加速できる。
またレーサムは用途変更や大規模改修、新たなテナント誘致などを行う「資産価値創造事業」、賃貸管理や建物管理業務などを行う「資産価値向上事業」、コミュニティホステル、高度医療専門施設の運営や非常用電源開発などを行う「未来価値創造事業」を手がけており、子会社化することで、新たな不動産ビジネスモデルを取り込める。
同社は2024年6月に発表した統合報告書2024の中で、高齢者、環境、こども教育事業分野などの事業拡大を実現する手段として、M&A、アライアンスなどを積極的に活用するとしており、今後もこれら分野でのM&Aが見込まれる。
多角化に向けた動きが進展
ヒューリックはヒューリック銀座数寄屋橋ビル(東京都中央区)など東京23区内に多くの物件を保有しており、その7割以上が最寄り駅から徒歩5分以内の駅近物件のため、低い空室率や高い平均賃料による安定した収益が強みだ。
また事業リスクなどを考慮して、マンション開発や地方のオフィスへの投資、大規模開発などは行わない方針を持つ。
日本は人口減少による国内不動産市場の縮小が見込まれていることもあり、同社では米国やインド、シンガポール、ベトナムなどの海外市場で、他企業と共同で事業を展開する計画だ。
すでに米国の高齢者施設やインドの住宅などへの投資を実施しており、2025年6月13日には、米国ワシントン州の賃貸住宅「The Danforth」を 米国のKennedy Wilson(カリフォルニア州)などと共同で取得した。
2027年12月期までに、海外での事業拡大に1500億円を投じる計画で、案件によってはM&Aに発展するケースも考えられる。
不動産事業は営業収益の約9割
2025年12月期は、売上高5916億1500万円(前年度比32.5%増)と2ケタの増収を達成した。
このうち東京23区を中心に約250件の賃貸物件を活用した不動産事業の営業収益が5272億400万円(前年度比29.0%増)と、全体の約90%近くを占めており、「ふふ」などのホテル・旅館事業が8%ほどを、保険商品の販売を手がける保険事業が0.6%ほどを、リソー教育などのその他事業が4%ほどを占める構成となっている。

今後のM&Aなどによって、非不動産事業が拡大することで多角化に向けた動きが進展することになりそうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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