
前回のPart.2ではSHIFTの丹下 大社長に日本のエンジニアについて伺いましたが、今回はSHIFTグループの成長に欠かせないM&Aについて伺いました。一般的なイメージを覆すSHIFT流M&A論についてあれこれお話しを聞けたので、一読の価値ありです。
基準を明確にすると案件が集まる点で、M&Aと不動産投資は似ている
池澤 SHIFTさんは、M&Aを積極的に活用されて事業を拡大していますが、M&Aするとき、どうやって会社を見つけているんですか?
丹下 仲介会社経由が6割、残り4割はM&Aした会社の紹介で独自に動くパターンですね。SHIFTグループに入った会社の社長さんが生き生きと仕事している姿を見た、他の社長さんが羨ましがるらしく、その紹介から輪が広がっている感じです。今、独自リストが約250社あり、その中から毎月20件くらい動かしている感じです。

池澤 M&Aされた社長さんが生き生き働いているって、すごくいいですね。丹下社長はM&Aをするかどうか、どういう基準で決めているのですか?
丹下 EBITDAマルチプル5倍以下が、ひとつの基準です。日本の相場は7~8倍、海外は10倍といわれますが、僕らは5倍以下じゃないと買いません。これって不動産投資と似ているんですよ。
例えば、駅から3分以内で障害物がないなどの基準に合っていて、家賃がいくら取れるマンションならば必ず買う不動産投資家がいるとします。そうすると営業は、その条件にはまる物件が出ると、必ずその人に提案するんですよ。
当たり前ですよね、買ってくれますから。逆に言えば、基準がぶれていて、どんな物件を買うのかわからない人のところには物件情報が集まりません。M&Aも同じで、基準を決めて明言することが鉄則だと思っています。
池澤 不動産投資に例えると、わかりやすいですね。
丹下 僕らのM&Aには2種類あって、ひとつはエンジニアの数を取りにいくM&A、もうひとつは技術を取りにいくM&Aです。例えばですが、Slackみたいな会社の場合、技術を取りいくM&AなのでEBITDAマルチプル5倍の基準に捉われず買いにいきます。その技術が戦略上必要だからです。
スタートアップの場合、そもそもエンジニアの数が少なからず前者のM&Aに当てはまらないので、後者のパターンになります。ですが、日本には世界で戦える技術を持つスタートアップはほとんどいないので、余程のことがない限り買いません。
買収先の社名も変えない、コストダウンもしない
池澤 SHIFT流のM&A論を教えていただけますか?
丹下 多くの企業は、新規事業が当たるとか、R&Dが当たるとかが、事業拡大のファクターだと思っていますけど、僕はその論を信用していません。だって、GoogleやMicrosoft、Appleを見ればわかる通り、創業事業以外の成長事業は、どれもM&Aで手に入れているじゃないですか。
池澤 つまり、事業を拡大するならR&Dより、M&Aの方が確実ということですか。
丹下 例えば、僕が会社を売るとしたらソフトバンクの孫(正義)さんクラス以外に売る気はありません。なぜなら、孫さんの持つネットワークや経営力、資金力があれば、SHIFTはもっと大きな会社になれるからです。そうじゃなければ売る意味ないですよね。
それを自社に置き換えると、SHIFTにM&Aされる会社は、グループに入ることで僕らのアセットを利用して、自社IPOより会社が大きくなると考えたからM&Aに応じたのだといえます。僕らは相手を制圧しようなんてまったく思っていないので、関係は完全にフラットです。
池澤 買収とか売却という言葉から、M&Aは主従関係をイメージしがちですけど、実際は違うんですね。
丹下 僕らはM&A後も、社名を変えませんし、社長の給料がいくらか知りませんし、人事制度もいじりません、販管費のコストダウンもしたことがありません。だって、コストダウンより売上を上げたほうが、みんなハッピーでしょ。

M&Aした会社も一緒に成長するのがSHIFT流
池澤 そういうマインドでM&Aをしている会社は、少ないんじゃないですか。
丹下 ほとんど聞いたことありませんね。時々、M&Aの交渉をしていると、「SHIFTさんはどういうカルチャーの会社なんですか」とビクビクしながら聞かれますけど、「自由にやってもらっていいですよ。僕らが仕事をブーストするんで」みたいな感じで言っています。
池澤 私の周りのベンチャーは、買収された会社とカルチャーが合わなくて苦労したと話していましたが、SHIFTさんならその心配はありませんね。
丹下 カルチャーマッチなんて絶対無理ですよ。僕は一企業一個性とか、一法人一キャラクターという言い方をしますけど、人格が違うのが大前提ですから。
池澤 会社も人と一緒なんですね。
丹下 一緒です。性格を変えようなんて思っちゃだめです。うちは毎年1,000人を超える中途採用をしていますけど、SHIFTに染めようなんて思いません。「IT業界でこういうポジションにいきたい」「ITで人を幸せにしたい」、この価値観さえ共有できたら一緒にご飯食べようねって感じです。
池澤 M&Aをするときも、そういう価値観みたいなものがあるんですか。
丹下 あります。この人たちはピュアにITが好きだとか、この世界よくしたいと思っているかどうか、その価値観を共有できることが、一番重要なポイントです。
池澤 SHIFT流のM&Aは買収した側もされた側も成長にシフトするということですね。※前編記事、中編記事

【インタビューを終えて、池澤あやか】
私の中では、これまでM&Aってカルチャーマッチが難しくて、幸せになることもあれば、なれないこともあるというイメージでした。でも、丹下社長とお話しして、そもそも根本は加速するためにM&Aするという前提に気付き、目から鱗が落ちました。M&Aって、ほんと奥が深いですね。
企画:ストライクIT業界チーム(最新情報はこちら)