サイボウズが19年ぶりM&Aで挑む地方創生とスポーツDX革命

東証プライム市場に上場し、グループウェア市場で国内シェアトップを誇るサイボウズ株式会社<4776>が2025年6月、プロバスケットボールチーム「愛媛オレンジバイキングス」を運営する株式会社エヒメスポーツエンターテイメント(松山市)から第三者割当増資を引き受け、発行済み株式総数の所有割合を50.15%とし、子会社化した。企業向けクラウドサービス「kintone」などを展開し、売上高200億円を超える同社にとって19年ぶりとなるM&Aの背景には、創業の地愛媛県への恩返しと、大手IT企業としての技術力を活かした地方創生への新たな挑戦がある。

19年ぶりのM&Aで見出した地方DX推進の新たな可能性

ーサイボウズの事業内容と企業理念について教えてください。

青野:企業向けのソフトウェアサービスを提供しており、代表製品は「kintone(キントーン)」というノーコードでアプリを作成できるサービスです。創業から28年間、一貫して情報共有サービスに特化してきました。これは「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念に基づいています。

サイボウズが19年ぶりM&Aで挑む地方創生とスポーツDX革命
インタビューに応じる青野氏

ー今回M&Aに踏み切った理由とはなんでしょうか?

青野:実はサイボウズにとってM&Aは19年ぶりなんです。19年前に8社を買収してその後売却し、社内に相当な負荷をかけてしまった苦い経験があります。今回は単なる事業拡大ではなく、私たちが長年抱えていた課題の解決策として、バイクスが重要なピースになると気づいたのです。

地方DX推進の壁を突破する「バスケットボール戦略」

地方のDX推進で直面していた課題は何ですか?そして、なぜバイクスがその解決策となるのでしょうか?

青野:私たちは「kintone」をテレビCMなどで全国に展開していますが、やはり売れるのは東京が圧倒的に多く、次に大阪・名古屋など大都市圏が中心です。愛媛などの地方に行くと、本当に10社に1社程度しか導入していただけない状況でした。

確かに、地方の中小企業の経営者の方々にとって、東京の大手IT企業が突然やってきて、単独でDXの重要性を説いても、なかなか浸透しません。どこか他人事のように感じられてしまい、そこには見えない心理的な壁があることに気づきました。

このままでは、地方の優良な中小企業がみんなデジタル化に遅れてしまい、衰退してしまう。地方を一気にDXの世界に連れていく手段はないのかと、何年も悩んでいました。

その時にひらめいたのが、バイキングスを「媒介」として活用する戦略です。

バイキングスのユニフォームには地元の建設会社、製造業など、本当に様々な地元企業のスポンサー名が入り、支えられながら運営しています。試合会場に行けば、普段は接点のない業界の経営者同士が、同じチームを応援する仲間として自然に交流している。

つまり、地域に根差したバイキングスが地元企業や自治体の方々とのDXに関する対話の「きっかけ」となります。

実際にバイクスを強いチームにして、より注目を集める魅力的なチームになった時、「なんでこんなに強くなったんですか?」と聞かれたら「kintone」を使ってチーム運営を変えたからです!と言いたい。「kintone」で業務を効率化し、その成功事例を目の前で見せることができれば、「こんなに変わって業務も楽になるなら、うちの会社でも使えるかも」と実感してもらえる。バイキングスを中心に地元の企業や自治体との信頼関係を築き、そこから一気にDXの世界へ導いていけるのではないかと確信しました。

サイボウズが19年ぶりM&Aで挑む地方創生とスポーツDX革命
記者会見時の青野氏

中根:サイボウズは「働きやすさも働きがいもある会社のランキング」として、上場企業中1位になったこともあります。つまり、組織運営において、「働きやすさ」のノウハウを活かし、人手に頼りがちなスポーツビジネスの現場に変革をもたらし、「事業実績」にもつなげたいと考えています。

具体的には、営業管理、契約管理、議事録管理、選手の体調管理、練習効率化のためのデータ活用、試合管理など、すべてを「kintone」で統合管理し、効率的な事業運営をしていこうと考えています。

サイボウズが19年ぶりM&Aで挑む地方創生とスポーツDX革命
インタビューに応じる中根氏
インタビューに応じる中根氏

サイボウズとバイクスが描く地方創生の未来図

ー記者会見で言及していた青野社長の考える地方創生ビジョンについて教えてください。

青野:私が考える地方創生ビジョンは結構シンプルで、その土地で暮らす人たちが「幸福」であり、かつ「生産性の高い状態」であることを両立させることです。

どちらかが欠けてしまうとうまくいきません。

みんな幸せに過ごしていても、企業として衰退していけば、そのうち幸せを感じられなくなる。逆にみんな頑張って働いて生産性は上げていても、表情が暗く青い顔をして体調不良者がいっぱい出ているというのもよろしくない。

いかにこの2つを両立させるかが重要で、これは私たちもサイボウズで実践してきたことです。それをDXツールと合わせてお客さんに提供していきたい。今回のM&Aを通じて、私たちは単なるソフトウェア会社ではなく、地域創生のプラットフォーマーへと進化していきたいと考えています。まずは創業の地である愛媛県から、先進的な地域にするという壮大な挑戦が、いよいよ始まります。

サイボウズが19年ぶりM&Aで挑む地方創生とスポーツDX革命
地方創生についての展望を話す青野氏
地方創生についての展望を話す青野氏

中根:私たちが最終的に目指しているのは、バスケットボールが強いだけでなく、町全体が活性化し、まちがチームになっている状態です。バスケットボールを支えるために町が活性化していく必要があるし、町が活性化することによって、さらに皆さんがバスケットボールを大事にしていただけるという相乗効果を生み出していきたいです。

ー「チームワークあふれる社会」を実現するために、愛媛オレンジバイキングスをどんなチームにしていきたいですか?

青野:強くて愛されるチームにしたいです。勝てばいいという話ではなく、住民の人たちの活力になり、エネルギーとなり、人々が集まって協力し合えるような、そういう核となるような存在にしたいです。

サイボウズの「チームワークあふれる社会を創る」という理念と、愛媛オレンジバイキングスの思いが重なった今回の提携により、新たな地域活性化モデルの構築を目指します。

この愛媛での成功モデルを、将来的には全国の地方都市に展開していきたい。

「スポーツとDXの力で地域を活性化させる」―それが私たちの描く未来です。愛媛から日本の地方創生の新たなスタンダードを創り出していきます。

サイボウズが19年ぶりM&Aで挑む地方創生とスポーツDX革命
サイボウズ 青野氏(右) 中根氏(左)

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