愛媛県松山市を拠点とするプロバスケットボールチーム「愛媛オレンジバイキングス」を運営する株式会社エヒメスポーツエンターテイメントは、2025年6月25日、サイボウズ株式会社<4776>と資本業務提携契約を締結し、第三者割当増資によりサイボウズの子会社となることで合意した。地域密着型のスポーツチームとITの力を融合させ、バスケットボールを通じた地域活性化と組織力強化を目指す。
限られた予算からの脱却―地域クラブが直面した成長の壁
ー2016年の創設から現在まで、どのような課題に直面し、なぜ今このタイミングでM&Aという選択肢を選ばれたのでしょうか?
河原 成紀 副会長(以下、河原):チームを立ち上げた2016年当初は、「そんなチームあるの?」という反応が多かったのですが、県民の皆さまや、スポンサー企業の方々、そして愛媛県や松山市をはじめ各市町村のご支援をいただき、県民の方々に広く認知されるようになりました。
しかし、Bリーグに参入し、しっかり活躍できるチームを作っていきたいと考えるようになった時、限られた予算では、スタッフのアイデアがあってもなかなか実現できないという課題に直面しました。もっと多くのことを実現できる環境を整えたいという思いから、ストライク社にご相談させていただきました。
北野 順哉 代表取締役社長(以下:北野):私が2023年9月に正式に社長として就任する前から、資本力の強化が課題だと感じていました。ただ、全く愛媛に馴染みのない企業が参画されると、「愛媛のクラブなのに愛媛のクラブではない」という印象を地域の方々が持ってしまう懸念がありました。
創業地への恩返し―サイボウズ青野社長が語る愛媛への思い
ー数多くの候補企業がある中で、なぜサイボウズとの提携に至ったのか、その決定的な要因は何だったのでしょうか?
河原:サイボウズの青野慶久社長は愛媛県今治市のご出身で、1997年に松山市のマンションの一室から創業された方で、東京と愛媛をつないでくれる重要な存在だと前々から認識していました。青野社長からお声をかけていただいたことは非常に嬉しく、私たちにとってまさに「天啓」のような出来事でした。
何より、サイボウズの企業理念である「チームワークあふれる社会を創る」という考えが、私たちの目指す方向性と一致していたことが大きな決め手となりました。青野社長は「人を大切にし、地域を大切にする姿勢」を持たれており、その気持ちが私たちに伝わってきました。 また、サイボウズの中根弓佳執行役員がBリーグの理事も務めており、今後の経営に関わっていただけることも心強く感じました。

北野:率直に言うと、考えられる中でベストな相手だと思いました。青野社長との対話の中で印象的だったのは、単にクラブの経営だけでなく、クラブというコンテンツをこの街「愛媛」でどう活かすかという視点を持っておられたことです。
DXが変えるスポーツビジネスの未来―個人プレーからチームプレーへ
ーサイボウズの強みであるDX推進によって、具体的にどのような変革を実現し、ファンエクスペリエンスをどう向上させていく計画ですか?
北野:大きく二つあります。一つ目は、個人プレーからチームプレーへの組織転換です。
河原:サイボウズと関わることで、今までできなかったことができるようになります。総合演出の強化として音楽、照明、チアパフォーマンスの充実を図り、松山市総合コミュニティセンター以外での試合開催を増やし、愛媛県武道館での試合を年1回から4回に増加させる計画です。
ーサイボウズが掲げる「チームワークあふれるまちづくり」構想と、愛媛オレンジバイキングスはどのように連携していきますか?
河原:サイボウズは2025年7月に「チームワークあふれるまちづくり室」を設立し、地域がITを活用して一つのチームとなり、情報共有や対話が促進され、主体的に社会課題が解決される「チームワークあふれるまち」の実現を目指しています。
プロスポーツチームは、地域にコミュニティを形成し、地域を活性化、人々の誇りや一体感を育むなど、地域そのものをワンチームにする力があります。これはサイボウズが目指す方向性と親和性が高く、長期的な支援につながりました。
2400人の壁を超えて―四国初のトップリーグチームへの挑戦
ー現在2年連続B2西地区最下位という厳しい状況から、どのような戦略でBリーグ・ワン、そして将来的にBプレミアを目指していくのでしょうか?
河原:サイボウズが関わることで、「Bリーグ・ワン」や「Bプレミア」を目指していく体制ができると思います。現在、平均入場者数は約1600人で、愛媛オレンジバイキングスはBリーグ・ワン参入へ仮ライセンスの発行を受けた状態です。正式ライセンス取得には、シーズン平均入場者数2400人以上をクリアする必要があります。この目標達成に向けて取り組んでいきます。
北野:実は四国には、どの競技でもトップカテゴリーで戦っているプロスポーツクラブがありません。
愛媛から日本へ、そして世界へ―バスケットボールが創る新たな地域の未来
ー愛媛オレンジバイキングスが描く最終的なビジョンとは?河原:最終的には、愛媛オレンジバイキングスがインフルエンサーとなり、友情と新しさを届けるようなチームになって、愛媛県民みんなで夢のようなことをやってみたいです。県民にとって必要なチーム、そして県外にいる愛媛出身の方々が「愛媛にはオレンジバイキングスがあるんだよ」と誇りに思えるようなチームにしていきたいです。
バスケットボールをやりたい人がバスケットをできる環境を整え、バスケットボールを理解してもらう環境を整備していくことが重要だと考えています。これを県内全域で実現できるよう取り組んでいきます。
北野:私たちが目指すのは、単なるプロスポーツチームの成功ではありません。愛媛オレンジバイキングスが地域のシンボルとなり、バスケットボールを通じて愛媛県全体が一つになる。そして、四国初のトップリーグチームとして、他の地域にも「スポーツを通じた地域活性化」のモデルを示していきたいです。
サイボウズとの提携により、「BE WITH ! 愛媛をスポーツで元気に」という私たちの理念と、「チームワークあふれる社会を創る」というサイボウズの理念が融合しました。この二つの理念が重なることで、愛媛から新たな地域活性化モデルを全国に、そして世界に発信していく。それが私たちの描く最終的なビジョンです。
地方都市でも、情熱とテクノロジー、そして地域の皆様との強い絆があれば、世界に誇れるプロスポーツチームを作ることができる。愛媛オレンジバイキングスは、その可能性を証明する存在になります。
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