レノが376億円で養命酒をTOBして、ツムラへの売却価格は68億円…大赤字ではないのか?

漢方薬大手のツムラ<4540>が最終的に取得を予定する養命酒製造<2540>のTOB(株式公開買い付け)は、実質的にアクティビスト投資家「村上家連合」が関与する再編案件として注目を集めている。公開買付者は村上世彰氏系投資会社のレノだが、TOBによる買付価額は最大で375億9000万円。

一方、ツムラから得られる株式譲渡価格は約68億円で、大赤字の案件に見える。なぜ、レノはTOBに乗り出したのか?

一見赤字のTOBでも採算が見込める理由

その秘密は養命酒製造買収のスキームにある。まずはレノがTOBで養命酒製造株式を取得し、スクイーズアウトにより非公開化。その後、養命酒製造筆頭株主で、村上氏の娘婿の野村幸弘氏が実質的に保有している湯沢に譲渡する。非事業性資産を分離して、湯沢の保有株を含めた全株式をツムラが約68億円で取得するという。

湯沢は全株式を譲渡するものの、ツムラが取得するのは「薬用養命酒」事業のみだ。現預金や株式、債券、不動産といった簿価約394億円の非事業性資産は、湯沢が引き継ぐ。つまり、湯沢はツムラへの株式売却益だけでなく、換金性の高い非事業性資産を手に入れる。今回のスキームで、湯沢は約462億円の収入が見込める計算だ。TOBの買付価額を差し引くと、約86億円の黒字となる。

しかし、湯沢は2025年3月に大正製薬HDから約330万株(23.73%)を約79億円で取得し、その後の買い増しなどを経て発表時点で33.34%を保有している。当時の株価が3000~5500円だったことから事前取得には総額で約120億円を投じたと試算できる。これにTOB取得分を加えると、取得総額は約500億円だ。

さらにレノへの報酬やファイナンス費用、アドバイザリー費用などが約30億円と推定されるため取得総額は約530億円となり、70億円近い赤字に陥る。もっとも、非事業性資産は簿価。所有株式や不動産は値上がりしている可能性が高く、湯沢もそれを認識した上で買収に乗り出したはずだ。

TOB価格の引き上げは困難か

ただ、応募が少なく、TOBの成立が危ぶまれる事態となれば、価格引き上げを迫られる。現在の買付価格は1株4050円で、公表前営業日終値4595円に対して約11.9%のディスカウントとなっていることから、株主が応募を見送る可能性も否定できない。

例えばTOB価格が5000円に上昇した場合、取得額は約460億円に拡大し、投資側のキャッシュ収支は100億円超のマイナスとなる。価格引き上げは買収採算を大幅に悪化させる構造にある。同案件は「価格を上げにくいTOB」であり、ディスカウントTOBとなった背景には、こうした採算構造があるとみられる。

そのためTOB価格の引き上げは期待できない。株式市場もそれを織り込み、発表当日となる25日の養命酒製造の株価が一時4040円(前日比555円安)まで急落し、終値は4050円(同545円安)とTOB価格にサヤ寄せする動きを見せた。

もしTOBが不成立に終わったら…

万一、TOBが不成立に終わった場合の影響はどうか。TOBを実施するレノは公開買付主体としてTOB資金を一時的に拠出するブリッジ投資家であり、TOBが成立しなければ株式取得は実行されないため、巨額の資金拘束リスク自体は回避される。

ただし、アドバイザリー費用やデューデリジェンス費用、ファイナンス準備費用などで数億円のコスト負担が生じる可能性はある。

案件成立を前提とした報酬であれば、成功報酬は得られず、レノにとっては「損失は小幅に留まるが、収益機会を失う」ことになりそうだ。

しかし、すでに養命酒製造の一部株式を取得済みの湯沢は非事業性資産の分離が実現しない上に、ツムラへの事業売却も白紙に戻る。湯沢は株式の保有継続か、新たな買い手の模索を迫られる。投資回収シナリオは後ろ倒しとなり、影響は深刻だ。レノにとっても、親族企業だけに文字通り「他人事」ではない。

養命酒製造はTOB期待で株価が上昇していることから、TOB中止となれば株価が湯沢による取得前の3000円台にまで下落するリスクもある。レノと湯沢の「村上家連合」にとっては、同TOBの成立なしには養命酒製造投資のEXIT(出口)が見えないだけに、まさに「正念場」のディールとなる。

文・写真:糸永正行編集委員

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