
居酒屋企業の3月決算が出そろいました。まん延防止等重点措置が2022年3月に解除され、居酒屋店は通常通り営業できるようになりました。
ヨシックスは、コロナ前から進めていた郊外の住宅地に出店する「田舎戦略」が奏功。事業戦略と、居酒屋を取り巻く消費者の新たなライフスタイルが合致しました。苦戦する3社の中でもエー・ピーは債務超過ギリギリのラインで立ち往生しており、苦境が鮮明です。
この記事では以下の情報が得られます。
・3月に決算を迎えた主な居酒屋企業の業績
・明暗が分かれた理由
FC比率が同じ鳥貴族とチムニーで決定的な差が生まれた理由は?
居酒屋企業の2022年3月期、2023年3月期の売上高と営業利益は以下の通りです。各企業ともに、2023年3月期の売上高は1.5倍から2倍程度にまで回復しています。ただし、営業黒字化している会社は11社中、わずか3社に留まりました。
■居酒屋企業の業績(単位:百万円)
2022年3月期 2023年3月期 増減 売上高 営業利益 売上高 営業利益 売上高 ワタミ(国内外食事業) 15,122 -6,872 25,284 -1,782 167.2% チムニー 10,108 -4,582 20,155 -1,667 199.4% エー・ピーホールディングス 7,997 -3,769 17,175 -1,734 214.8% ヨシックスホールディングス 8,581 -2,675 17,089 706 199.1% ヴィアホールディングス 10,258 -1,123 14,553 -933 141.9% テンアライド 4,823 -3,132 9,489 -1,328 196.7% 一家ホールディングス 4,424 -729 8,376 166 189.3% マルシェ 2,628 -1,233 4,614 -388 175.6% ホリイフードサービス 2,160 -1,121 4,053 -354 187.6% ゼネラル・オイスター 2,539 -283 3,764 127 148.2% 海帆 776 -703 2,087 -601 268.9%※決算短信より筆者作成
ワタミ、チムニー、エー・ピーともに売上高は回復しているものの、3社ともに17億円前後の営業損失を計上しています。この3社に共通するのが、繁華街型で大型の居酒屋店を得意としていたことです。駅前の好立地で多少家賃が高くても、組単価が高い宴会客を取り込むことによって利益を出していました。
家賃負担が重いので損益分岐点が高く、ハイリスク・ハイリターンなビジネスを行っていたという特徴があります。
繁華街立地を得意としている会社に鳥貴族ホールディングス<3193>があります。鳥貴族は2023年7月期第2四半期において3億6,300万円の営業利益を出しました。黒字化した要因は、鳥貴族がもともと大型宴会の依存度が高くなかったことと、2023年1月に連結子会社化した「やきとり大吉」を運営するダイキチシステム(大阪市中央区)の影響があると考えられます。
「やきとり大吉」は郊外型の小規模店で、フランチャイズ店が中心。ダイキチシステムはコロナ禍の2021年12月期においても9,700万円の営業利益を出していました。
M&Aを行う前の鳥貴族のFC比率は3割程度で、チムニーと同等でした。鳥貴族は、ダイキチシステムの買収によって店舗全体のFC比率を高め、繁華街型と郊外型、大型店と小型店、空中階と路面店へとリスク分散を図りました。その効果が出ているように見えます。
ワタミはコロナ禍に日本政策投資銀行が飲食・宿泊事業者向けに立ち上げた支援策をいち早く活用。2021年5月に120億円を調達すると発表しました。その資金の大部分は既存の居酒屋店を焼肉店へ転換する、リニューアル費用に投じました。
その成果に注目が集まりましたが、業績を見る限りでは限定的だと言えるでしょう。
確かにコロナ禍で焼肉店の集客力の強さは証明されていましたが、「焼肉きんぐ」などの郊外型のロードサイド店の繁盛が目立っていました。駅前の繁華街立地に出店(転換)した「焼肉 和民」は、消費者の焼肉店の利用動向とミスマッチを起こしている可能性があります。
ただし、ワタミは会社全体で2023年3月期に14億7,400万円の営業利益を出しています。これは宅食事業が好調なため。外食事業の苦戦が継続したとしても、ワタミが経営危機に陥る可能性は限りなく低いでしょう。
家賃比率を7%に抑えるヨシックスの巧妙な戦略
チムニーは酒販大手のやまや<9994>が過半数の株式を保有する連結子会社。2023年3月期は20億1,600万円の純損失(前年同期は12億2,700万円の純利益)を出したものの、自己資本比率は23.4%あります。資本力のある会社がバックについていることもあり、危機的な状況にあるとは言えません。
苦境下にあるのがエー・ピー。2023年3月末の時点で自己資本比率は0.4%。
エー・ピーは資本が薄く、いち早く黒字化を果たして止血しなければなりません。
ヨシックスは「や台ずし」などの居酒屋店を、332店舗(2023年3月31日時点 FC4店舗を含む)運営しています。店舗数はワタミの347店舗と大差はありません。FC店がほとんどないのも同じです。
2023年3月期において、ワタミ(国内外食事業)とヨシックスの売上差は80億円以上もありますが、ヨシックスは営業利益を出しました。
ヨシックスの回復が著しい理由に「田舎戦略」があります。この戦略は繁華街の1等地ではなく、1.5等地・2等地に出店し、家賃負担を売上高の7%程度に軽減しているのです。通常、居酒屋の家賃比率は10%程度が望ましいと言われています。郊外に中小規模の店舗を出店することで、家賃負担を抑えました。
コロナ以降は仕事仲間との飲み会が減少し、家族や自宅周辺にいる仲間などと楽しむ郊外型の居酒屋店が有利になりました。「や台ずし」はその利用動向にもマッチします。
ヨシックスは乗降客数が6,000人規模の駅前を出店候補としているため、従業員の雇用を確保することが可能です。アルバイトが集まらずに店舗オペレーションに支障が出ることもありません。
地域密着型で利益を重視した経営スタイルが、早期黒字化に貢献しました。
乗降客数6,000人規模の駅は全国に2,500程度あるとされ、出店余地は4,306店舗あるといいます。ヨシックスは中期目標として500店舗、将来的には3,000店舗を目指しています。
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