
出版やアニメ、実写映像、ゲームなどを手がけるKADOKAWA<9468>は、イタリアのマンガやライトノベル(若年層向けの娯楽小説)を刊行する出版社エディツィオーニ(ミラノ)を子会社化する。
コンテンツなどのIP(知的財産)を安定的に創出し、世界に広く展開することを目的とする「グローバル・メディアミックス with Technology」の取り組みの一環で、今後隣国のフランスをはじめとする他の海外拠点との連携を強化し、欧州全体での事業拡大に取り組む。
日本マンガの翻訳出版を加速
エディツィオーニは、マンガやライトノベルのイタリア語翻訳出版事業を展開しており、年間500点近くの書籍を出版し、日本コンテンツの強固なファン層を持つという。
イタリアでは、2016年に若者向けの文化活動を支援する制度が導入され、コミック市場は欧州ではフランスに次ぐ規模となっている。
今後、エディツィオーニを通じてKADOKAWA作品をはじめ幅広い日本のマンガ作品の翻訳出版を加速するとともに、未開拓の日本のライトノベルなどの小説や関連する商品の事業展開に取り組む。
エディツィオーニのMarco SchiavoneCEO(最高経営責任者)は「日本の大手エンターテインメント企業から直接投資を受ける初のイタリア現地出版社となることは本当に素晴らしい」とコメントしている。
IP創出点数を年7000点に
KADOKAWAが取り組んでいる「グローバル・メディアミックス with Technology」は、2023年11月に発表した中期経営計画の中で掲げた経営戦略で、「IP創出」や「IPのLTV(Life Time Value=一人の顧客がもたらす利益)最大化」を通じて持続的な成長を目指すというもの。
KADOKAWAでは、出版、ゲーム、音楽、実写映像、アニメなどの世界のコンテンツ市場は成長を続けており、コンテンツ(IP)を軸に事業展開を行うKADOKAWAにとっては大きなチャンスがあると分析。
2024年3月期に年間5900点だったIP創出点数を、2028年3月期には7000点に引き上げ、メディアミックスにより多面的に展開することで、事業を拡大していくとしている。
M&Aはこの戦略実現のための一つの手段として、海外展開をはじめアニメの制作スタジオの強化や、ゲームの開発パイプライン(ゲーム開発候補)の拡大などで、M&Aを活用する方針を打ち出していた。
今回のエディツィオーニの子会社化は、各国で紙、電子書籍の翻訳出版や、アニメ作品の認知向上、アニメ放映と連動したグッズ、ゲーム、イベントなどのメディアミックスを推進するとの方針に沿ったものだ。
このほかにも直近では2025年2月に、撮影とCG(コンピューターグラフィック)を中心に背景美術、ペイント(彩色)などを手がけるアニメ制作スタジオのチップチューン(東京都杉並区)を子会社化した。
さらに2024年7月にアニメ制作スタジオの動画工房(東京都練馬区)の子会社化を、同年4月にはアナログゲームの企画、製造、販売などを行うアークライト(東京都千代田区)の子会社を発表している。
今後も中期経営計画に掲げている海外展開やアニメの制作スタジオの強化、ゲームの開発パイプラインの拡大などを中心に、さらなるM&Aの出番がありそうだ。
出版、映像、ゲームが堅調に推移
KADOKAWAは1945年に出版社として創業し、2014年に動画配信サービス「ニコニコ」などを手がけるドワンゴと経営統合した。
現在は、出版・IP創出部門(紙、電子の書籍や雑誌の出版、販売、Web広告の販売、権利許諾など)、アニメ・実写映像部門(アニメや実写映像の企画、製作、配給、映像配信権などの権利許諾など)、ゲーム部門(ゲームソフトやオンラインゲームの企画、開発、販売、権利許諾など)、教育・EdTech部門(ゲームやアニメのスクールの運営、教育コンテンツの提供など)、Webサービス部門(動画、生放送プラットフォームの運営など)などで事業を構成している。
これら書籍やアニメ、ゲームなどで強力なIPを多数保有しているほか、一つのIPを多面的に展開するメディアミックスで積み上げてきた多くの実績に強みを持つ。
2028年3月期に売上高3400億円(2025年3月期は2779億1500万円)、営業利益340億円(同166億5100万円)を目指しており、2026年3月期は出版、映像、ゲームなどがいずれも堅調に推移するとして売上高2919億円(前年度比5.0%増)、営業利益167億円(同0.3%増)の増収営業増益を見込んでいる。
文:M&A Online記者 松本亮一
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